第91話 柳生流星と深川芹葉の接近④
そして放課後、私達はアーケード街に向かった。
——— アーケード街に着いた。
ご存じのとおり、私も宗介も街の中を歩くのは苦手だ。
なので、本屋に用事がある時は、いつもであれば駅ビルの中にある本屋に入って終わる。
でもこの日は二年生になったという気持ちと『彼氏の宗介』と一緒が嬉しくて、少し遠くの本屋に行くことにした。
私は宗介の薬指と小指に自分の指をさり気無く絡めて歩いた。目立ってイチャつく訳でも無く、余所余所しい訳でも無く、どこから見ても普通のカップルの自然な所作だ。
「ねぇ、ちょっと相談」
「何だ?」
「そろそろウィッグ外す練習しよかなって」
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫じゃ無いのは分かってるんだけど、このままじゃ将来が大丈夫じゃ無くなっちゃうから、どっかでケリ付けないとね」
「なる程。で、相談……は、俺にその訓練手伝えってことか?」
「正解♪」
「じゃあ、一択だな」
「えへへ……ありがと。宗介が一緒なら心強いよ」
「俺はお前が心強いと思ってくれる事が心強いよ」
「何それ……ふふ」
※ ※ ※
——— 今日も部活が終わり、家路に着くところだけど、学年も変わって少し色々とバスケ用品を新調したいと思った。
折角だし、流星君とデートがてら買い物に出ようと思った。
「ねぇ、流星君、この後時間ある?」
「お前との時間ならある」
「ありがと。それじゃあスポーツ店ね」
「分かった」
私達の会話は端的だ。目的はどうでもよくて、行き先さえ告げれば、流星君は目的を読み取ってくれる。
二人の会話は第三者が聞くと言葉足らずに聞こえるが、何時もこんな感じだ。
※ ※ ※
——— スポーツ店で買い物を済ませた。結構な量を買ったが、こういう時の流星君は黙って荷物を持ってくれる。
初めて一緒に買い物に出た時は「お前が買ったんだからお前が持て」なんて言われるのかと思ったら、意外とそうでは無く、彼曰く「日頃俺に付き合ってんだ、俺に出来るお返しはこんなもんしかねぇ」との事。
そういうところはしっかりしている。
そして本屋の前を通り掛かろうとした時、私は欲しい本が有った事を思い出した。
「ちょっと寄ってく」
「おう」
すると本屋からうちの制服を着た男性が出て来た。
見かけた事がある人……真壁さんだ。
流星君は当たり前のように真壁さんに話しかける。
「お? 真壁、偶然だな」
「よっ」
「買い物か?」
「ちょっとな。お前らこそ部活じゃ無かったのか?」
「もう七時過ぎだぞ? 部活は終わってるよ。ちょっとスポーツ店に用があってな。で、芹葉が本が欲しいって立ち寄った」
「もうそんな時間か……」
二人が話す隣で、私は真壁さんの顔をジッと見ていた。
——— 昨日も思ったけど、どんな顔してるんだろ? 口元が結構色っぽい? セクシー? そんな感じなんだよねぇ。
ふと彼の顔から視線を下ろすと、真壁さんの背中に誰かがいた。うちの制服を来ている女の子だ。しかも何となく見覚えがある。
私は真壁さんの背中を覗き込む。
女の子は私の視線から逃げるように、更に真壁さんの背中の陰に入る。
——— なんで逃げちゃうの? もう少しで……。
ちょっとしつこいかな? って思ったけど、なんとか陰を捉えた。
それは同じクラスの……、
「——— あれ? 桜木……さん? 私、深川です。同じクラスの深川です」
女の子は桜木さんだった。
問いかけに観念したようで、少し間を置いて俯きながら半身を出した。
「……ども」
桜木さんは何となく怯えているように見えた。
私って怖い? いや、怖いのは流星君だ。そうに違いない。結構勘違いされがちだけど、彼は彼のルールさえ守れば全然優しい人だ。
いやいや、そんな話じゃなくて、なんで桜木さんが真壁さんと一緒にいるのか? そっちが気になるね。
付き合ってんのかな? 雰囲気はそんな感じだけど……。
「えーっと……デート中?」
「まぁ、男と女が二人で歩けばデートになるな」
桜木さんに聞いたんだけど、真壁さんが代わりに答えた。桜木さんは真壁さんの後ろに引っ込んでしまった。
「えっと……お二人はお付き合いしてるんですか?」
私は遠回しな言い方は苦手だ。なので単刀直入に聞いた。
すると真壁さんは私の問いとは関係ない話で答えを返して来た。
「全く違う話をして悪いが、明日、コイツには学校では……人前では話しかけないでくれ」
——— え? 何?
私は全く予想もしなかった言葉にちょっと言葉を失った。
「え……なん……で?」
「理由を言えばコイツは学校に来れなくなる。話しかけてもコイツは学校に来れなくなる」
「意味が……」
当然私は混乱する。話しかけると学校に来れなくなる? 理由を知っても学校に来れなくなる? 全然意味が分からない……
私の理解が追いつかないまま、真壁さんは話を続けた。
「コイツと仲良くしたいなら人前では絶対話しかけないで欲しい。俺は仲良くなる為に学校では一年間無視し続けて最近それが実を結んだところだ。そして今でも無視し続けている。深川さんが人前でコイツに話しかければ俺の努力が台無しになる。そしたら俺はあんたを恨む事しか出来なくなる。コイツの家族もだ。もう一度言う。人前ではコイツを無視してくれ。そして、無視している事も周りには内緒にしてくれ」
——— え? 仲良くなる為に無視し続けた? 無視した結果が今なの? 無視しないと御家族も私を恨む? 全然意味が分かんない……分かんないけど……。
「う、うん……分かった……よく分かんないけど……」
全く理解が追いつかない。私は困惑するしか無かった。
『仲良くなる為に無視をする』なんて話は聞いた事が無いし見た事も無い。
流石の無関心な流星君も内容が内容だけに口を開く。
「随分穏やかな話じゃ無いな。それは俺もって事だな?」
「あぁ、ただ、お前はコイツに用事なんて無いだろ?」
「無いな。精々話しかけるなら『真壁見かけなかったか?』位か?」
「まぁ、その程度なら大丈夫だ。理由はそのうち話せると思う。済まないがそれまでは無視で頼む」
「分かった」
「恩に着る」
※ ※ ※
「ありがと。でもビックリしたよ。深川さん、私の顔と名前もう覚えてるんだもん。クラス一緒になってまだ三日だよ? 彼女の記憶力ってどうなってんだろ?」
「意外と人を覚えるの得意なのかもな」
——— 後日、翠の素顔が流星にバレる。
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