第90話 柳生流星と深川芹葉の接近③

 ——— 翌日。いつものジョギングをしている。今日もこの後は学校だ。

「宗介放課後暇?」

「お前が暇なら俺は暇だな」

「えへへぇ……じゃあさ、今日の放課後はデートで」

「何買う?」

「本」

「本?」

「うん。読んでたやつの新刊出た」

「いいよ。俺もちょっと欲しい本有って行きたいと思ってたし」

「それじゃあ制服デートね」

 そして放課後、二人はアーケード街に向かうが、その前に学校の行事だ。



 ※  ※  ※



 ——— 俺は柳生流星に素顔がバレた。

 バレたというより思い出されて気付かれた。

 気付かれたの仕方が無いとして、ただ、俺は柳生流星と言う男を知らない。

 コミュニケーション能力、交友関係、人当たり等々。

 俺は自分の事がどう周りに漏れるか不安だった。

 しかしそれは一瞬で杞憂となった。


「——— あー、よく分かんねぇな」

「——— 興味ない」

「——— それ俺にどう関係する?」


 男女問わず、仲良くなろうとする者、ただ興味本意に話しかけた者が柳生に貰った返答だ。

 余りの慳貪けんどんさに俺は思わず見かねて声を掛けてしまった。


「おいおい、その答え方はあんまりじゃないか?」

「あぁ? 俺は素直に分かんねぇもんは分かんねぇ、興味ねぇもんを興味ねぇって言ってるだけだ。それを興味あるフリして話合わせて『実は興味ありませんでした』って方が失礼極まりねぇだろ。違うか?」

「まぁ、正論っちゃ正論だな」

「つー訳で、それを分かってくれる奴が俺の親友になれる訳だ。女なら……まぁ、彼女だな」

「おいおい、友達通り越してるぞ。で、深川さんはお前のお眼鏡に掛かったわけだ」

「ぅるせーよ! まぁ、実際そうなんだけどよ。アイツだけだ。俺の邪魔もしないでしかも興味ある話だけして来た奴は」


 その一言を発してから不必要に柳生に話しかける者は居なくなった。

 そして奇妙な事に、後に柳生流星がクラスで一番仲がいいのは真壁宗介という、俺としては望まない関係が出来上がってしまうのだが……既にそうなっているようだ。



 ※  ※  ※



 ——— そして対面式だ。

 生徒は全員、椅子持参で体育館に集合する。

 俺体育館の入ると。一年生は既に椅子に座って体育館の入り口を一斉に見ていた。翠、大丈夫なのか? 

 翠は俺の後ろを歩いている。その事を予見していたようで、深川さんの少し後ろを歩いていた。視線が深川さんに集まれば、自分には一切視線が来ないという作戦のようだ。

 実際、深川さんと江藤さん。そして柳生が体育館に入った瞬間、体育館内は騒然となった。

 

「あの先輩でかくてカッコいい」

「スッゲー……あの人達モデルかなんか?」

「江藤先輩と深川先輩綺麗になってる……」

「柳生先輩カッケー」


 新入生が騒ぎ始める。上がり組も中等部の時は学園内で流星達を見る事は稀だ。ただ、中途組より事情が分かっている分、声の上がりは大きくなる。

 

 俺は翠の姿を追っていた。

 座る場所はクラスが纏まってるだけで席順は適当だ。翠は狙ってか偶然か俺のクラスの隣になる位置、しかも一番後ろに椅子を置いた。

 俺もそれを見て、態とらしくならないタイミングで翠の隣に椅子を置く。

 そして座り、耳打ちにならない距離で顔を寄せ、互いに声をかける。


「隣♪」

「だな」


 席は密に隣り合わせだ。俺の体は大きいので、自然な感じで翠と体が触れ合う。

 なんか翠からの圧が結構大きい。意識してくっついて来ているようだ。勿論俺はそれを素直に受け止めた。


 ——— そして対面式はなんのトラブルも無く順調に進み部活紹介の時間になった。

 バスケ部が整列している。モデルのような風貌の流星と芹葉の二人に視線が集まる。


「皆さんこんにちは。バスケ部です———」


 男子と女子、それぞれの部長が前に立ち、代表して女子バスケ部の部長が部の紹介をしている。

 内容は部員数と去年の実績だ。

 男子バスケ部はインターハイ、ウィンターカップ共に県予選敗退。女子は両方とも全国出場するも、一回戦で敗退していた。

 部の紹介をウケ狙いで行く部が多い中、


「では今からスリーポイントシュートを披露します」


 男子バスケ部部長がそう言うと、男女合わせて五人がスリーポイントラインに並んだ。並んだメンバーの中に深川芹葉も居た。配置についた者はボールを床に突き、集中力を高めている……ような雰囲気を出している。実際には演技でしかない。だが、


「——— スリー!」


 部長が叫ぶと、


 ——— シュパッ

 ——— シュパッ

 ——— シュパッ

 ——— シュパッ

 ——— シュパッ ダーンダンダタタタ……


「おぉ————————— !」


 全員リングに触れる事なくシュートを決めた。これには一年生だけでは無く、二、三年生も感嘆の声を上げた。

 するとコート上には大柄な部員が三人、ボールを持って立っていた。 


 ——— ダン……ダン……ダン……


 部員の一人が徐にドリブルでゴールに近づく。そしてボールを両手で持った瞬間、部長が叫ぶ。


「——— ダンク!」


 ——— ガシャダーン……ダンダンダダタタ……

 ——— ガッゴーン……ダンダンダダタタ……

 ——— ガゴダーン……ダーン……ダンダンダダタタ……


「キャ——————♡」

「柳生せんぱーい♡」


 最後に流星がダンクシュートを決めると黄色い声援で体育館内が埋め尽くされた。


「キャー、今こっち見た♡」

「見た見た♡」

「別にあんたの事見た訳じゃないでしょ!」


 柳生はシュートの後、俺に目を向けた。

 勿論『俺ダンク出来るぜ』的挑発だ。

 ただ、俺自身、最近ダンクが出来たので、流星の挑発は何も意味をなして無かった。


 ——— 俺に対してドヤ顔されてもな……まぁ、俺の身長で出来るんだ、アイツも出来るのは当然だわな。



 ※  ※  ※



 ——— そして放課後。俺は翠と買い物に行くのだが、あまり関わりたく無い二人と関わってしまう。

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