第89話 柳生流星と深川芹葉の接近②

 ——— 俺と柳生は人気が全く無い校舎裏に来ていた。

 着くなり柳生は俺の正面に立ちお願いしてきた。


「な、済まんがその前髪上げてくれるか? ちょっとでいい」


 俺は柳生の言葉を素直に聞く事にした。

 そして周りを確認して、メガネを外し前髪を上げた。


「……うぉっぷ。相変わらずのイケメンっぷりだな……サンキュ。もういいよ」


 俺は手を離し、メガネを掛ける。


「まさか決勝戦で当たった相手……しかも全然敵わなかった奴が一年間、気付かず同じ学校にいたとは……」


 柳生は凄く楽しそうな表情でいる。


「しかしよく気付いたな」

「名前聞いてなんか聞き覚えあるなってな。後、顔よく見たら口元が何となくセクシーだと思ってよ。で、去年出回った謎の美男美女の写真あったろ?」

「…… あー、あの写真か」

「あれお前だろ? あの写真思い出して顔が何となく一致した」


 やっぱりあの写真が俺だってのは分かってたようだ。

 コイツが何か目立った動きをすれば噂くらいにはなる。しかし、去年、コイツが俺を探しているような話は全く聞こえて来なかった。

 あの美少女が誰なのかも気にしている様子はない。

 どうやら、こういう事に固執する奴じゃ無いらしい。


「でだ、バスケはやんないのか?」


 当然の質問だ。隠す理由も無いので俺は素直に答えた。


「あぁ、部活でのバスケはな。プライベートでなら偶にやってる」

「勿体ねぇ……ま、色々事情が有るんだろうけどよ。顔隠してるって事は……原因は顔か?」

「そんなところだ」

「あの時の決勝戦は……まぁ、観客も酷かったもんな」


 俺達は話をしながら昇降口へ向かった。

 結局コイツの『用』は俺の素顔を見るだけだった。

 昇降口に着くと、


「流星君♪」


 柳生を呼び止める声が聞こえた。

 声のする方を振り向くとそこには『深川芹葉』が立っていた。



 ※  ※  ※



 ——— 私は一人、昇降口で流星君が来るのを待っていた。


「深川さん、さよなら」

「うん、さよなら」

「あれ? 深川さん、柳生君待ち?」

「うん、遅くなるって言ってたからね」

「そう言えばさっき、大柄な男子と二人で校舎裏行ったの見たよ。じゃねー」

「ありがと。バイバイ」


 ——— そう言えば流星君の後ろを大きめな人が付いてったな……。


 私の目の前を何人もの生徒が通り過ぎて行く。

 多くは素通りして行くが、結構気軽に声を掛ける子や手を振る子も少なく無い。

 勿論、私はそれらに応えて手を振ったり声を掛け返したりする。

 すると流星君と背が大きめの男子生徒が昇降口に現れた。

 だけど流星君、私に気付いていない。探してもいない。私がここで待ってる事を忘れてるようだ。


 ——— さっき「昇降口」って言ったのに……流星君らしいよもう。


 でも、こういう少し手間が掛かるのも彼の魅力の一つだと思っている。


「流星君♪」


 私は彼の背中から声を掛けた。すると流星君ともう一人の男子生徒も振り返った。


「おう、待たせたな」


 ん? その言葉は私がここで待ってるのを覚えてたのかな? ま、いっか。


「大丈夫。待ってないから」

「んじゃ行くか」


 そう言って歩き始める。

 三人で校門に向かう。

 柳生君と謎の男子生徒が並んで歩き、私はその後ろを歩く。


 ——— 誰だろう? てか、こういう時って紹介してくれたりするもんじゃ無い? ったく全然気が回らないっていうか、無関心っていうか……しょうがないな。


 私は仕方なく流星君に尋ねた。


「えーっと……この方は?」

「同じクラスの奴だ」

「初めまして真壁宗介と言います」


 ——— !


 私は名前を聞いて驚いた。

 毎回テストの順位表で見る名前と同じ名前だったからだ。

 でもここで驚いちゃダメだ。自分が知らないところで自分の事を知られてるって、ちょっと気持ち悪いって思われちゃうもんね。

 私は驚きを表情に出さず真壁さんに挨拶をした。


「深川です。深川芹葉です。宜しくお願いします」


 そしてそのまま校門を抜け、駅まで歩く。

 私は二人の会話に混ざらなかったが、聞いているとどうやらこの人もバスケをやっているという内容の話に聞こえた。でもこんな人、バスケ部にいたかな?

 でも、そう考えると二人がこうして一緒に歩いている事の辻褄が合った。



 ※  ※  ※



「深川です。深川芹葉です。宜しくお願いします」


 深川芹葉から自己紹介された。

 この子の事は当然知ってるし、柳生の彼女である事も知っている。

 そして校門前に着くと、奈々菜と藍ちゃん、そして、ちょっと離れて翔馬君と廉斗君が立っていた。

 翠は更に離れた場所に立っている。

 今この場で柳生と別れ、翠と合流するか悩んだが、色々不自然になりそうだ。

 俺は皆を無視してそのまま柳生達と駅に向かった。

 柳生と深川さんが一緒だった事もあってか、翠達も色々察してくれたようだ。

 皆バラバラだが離れて付いて来ている。


「お前、プライベートでやってるって言ったけど何処でやってんだ?」

「家の近くの公園に3×3のコートがあってな。朝早いけどそこでやってんだ」

「なぁ、今度俺らも混ぜてもらっていいか?」

「別にいいけど……家は何処だ?」

「ショッピング街の向こうだな」

「厳しいぞ。訳あって朝早くしか出来ないし……」

「ま、何とでもなるさ。な?」

「うん。なるね」

「……そうか……そう言うならそうなんだろうけどな……」


 駅に着き、二人は俺とは反対のホームに向かう。


「俺らこっちだから。また明日な」

「おう」

 

 ——— 到着駅に着き、マンションへ四人で歩く。


「ビックリしたよ、お兄ちゃん、柳生先輩と深川先輩と一緒に来るんだもん」

「クラスの自己紹介で柳生に俺が決勝戦の相手だったって、名前とあの写真で思い出された」

「あの写真って……素顔の? やっぱあの写真、気付いてたんだ」

「まぁな……そう言えば翠は自己紹介大丈夫だったのか?」

「今年は自席でだったからね。目、瞑って話したの」

「なる程。結構ドキドキだな」

「そう言えば廉斗君のお姉さん、蘭華さんだったよね?」

「うん」

「同じクラスになったよ」

「そうなんだ」

「私の事、ちゃんと内緒にしてくれててちょっと安心したよ」

「だって廉斗君だもん。そこは大丈夫だよ」

「なんか一方的にこっちが知ってるってのも気持ち悪いもんだね」

「その内仲良くなれるんじゃ無い?」

「だといいね」



 ※  ※  ※



 翌日、宗介と翠はアーケード街へ買い物に行くのだが、あまり会いたく無い人物と顔を合わせる事になる。

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