第79話 バレンタイン②
——— まだバレンタインデーの昼休みだ。
私は今、人気の無い廊下の片隅に連れて来られた。『誰に』って? 六花にだ。
「ね、いつ渡すの? てか、もう渡した? 実は付き合ってるとか?」
なんか突拍子も無い質問が来た。私は当然「え? 何の事?」としらばっくれるが、
「しらばっくれなくても見てれば分かるよ。てか、私に言わせれば何で周りが気付かないんだって話だよ」
名前こそ出さないが六花は翔馬の事を言っている。
彼女は私の『上っ面な対応』を見抜いた子だ。
ここ最近の私の翔馬に対する態度に気付いてたようだ。
私は観念した。
「あーあ、気付いちゃったか……で、いつ気付いた?」
「休み明け。お弁当食べさせてた時からかな。メチャクチャ惚気た空気出してんだもん」
「やっぱり? ちょっとやり過ぎたかなーって思ってはいたんだぁ」
「あれは気付くって。だって『アホ』なんて言いながら『♡』が出てんだもん」
「あはは……」
「しかも何回か彼、弁当忘れたって日に、何でアンタ偶々お父さんの弁当間違えて持ってきてんの! 設定に無理あり過ぎだって。しかも箸入れ忘れるってオプション付き」
「あははは……」
「何で、皆、疑問にすら思わない? あからさま過ぎんのに皆気付いてるかと思ったら誰も何も言わないし、『あれ?』って思ってたら、もうバレンタインじゃん。で、さっき見てたら彼にだけ(義理チョコ)あげてないしさ、もう、全部が不自然過ぎるって。コントだよもう」
「もう、『あはは』しか言えないよ。流石六花。やっぱ私が思ってたとおりの子だ」
「思ったとおりじゃないよ全く……で、何があった? あんなに毛嫌いしてた……いや、そんなに毛嫌いはして無かったか? 日に日になんか温い感じになってたのは見て取れたけど……」
なんか全部見透かされてる感じがした。まぁ、彼女は口が重いというか私に余り関心がない。
今六花が関心を持ってるのは『急激な変化』だ。ある程度色恋話への食いつきもあるとは思う。
この子に話したところで、誰にも話さないのは今日までの私と翔馬の関係を誰にも話していない事で証明されてる。
藍の許可が欲しい内容もあるけど、私はクリスマスまでの事を全部話した。私の気持ち変化も含めて……。
「……実は ——— 」
六花には悪いけどお兄ちゃんと翠ちゃんの事は伏せた。流石にどう変わるか分かんないからね。
「——— かー、あの怪我って名誉の負傷だったか……そりゃ私でも惚れるわ。じゃあ、相方の方の噂って彼の相方……」
「うん、そう言う事」
「んじゃあの二人……」
「付き合ってないよ」
「何で!」
「彼に言わせると、彼女の表面しか見てないから、それじゃ彼女に悪いだろって。付き合うならちゃんと中身を知ってからだってさ」
「上っ面な付き合いはしたくないってか……真摯だね。余計惚れるな……てか、その気持ちだけで十分彼女の事深く見てると思うんだけど……」
「違うみたいだね。ま、彼女の方はベタ惚れだから、彼が何言おうが聞く耳持たない感じ? 多分今日、チョコ渡しながら改めて告る筈だよ」
「そうなんだ? でも今の話っぷりだと……」
「フラれるね……いや、『断られる』が正しいか。彼自身、彼女に気が無い訳じゃないから……」
「で、奈々菜は? 彼はなんて?」
「まだ隣に立てる器じゃ無いってさ。彼の気持ちはちゃんと聞いてるから相思相愛って分かってるし……って言わせんな!」
「自分で勝手に言ったんだろ……ハハ。でもさ、そう考えると『付き合う』って……何だろうね?」
「何だろうね……」
多分大人になっても答えが出ない問答だと思った中学生のアオハルな一ページだ。
※ ※ ※
——— 既に夕食の時間だ。俺は食事が終わって部屋でベッドに横になり、本を読んでいた。ただ、いつもと違いこの日は少しソワソワしていた。ハッキリ言って、本の内容は全然頭に入って来ない。何故なら『人生初の彼女』からチョコレートが貰える日だからだ。
——— ガチャ。
いつものようにノックも無く、徐に扉が開くと、翠がひょこっと顔だけ出す。そして俺に声を掛ける。
「こんばんは」
「ぉ、おう」
微妙に緊張して返事が
俺は何事もなかったかの如く、本を黙って読み続ける。
翠はいつものとおり部屋に入るが何と無く様子が変だ。でも俺は『何と無く様子が変』という事に気付かないフリをする。
ただ、『何となく様子が変という事を気付かないフリをする』事が不自然になっている様な気がしていた。
※ ※ ※
私はいつもと同じ行動で宗介の部屋に入る。
ただ、今日は背中に真っ赤な紙袋を隠しながら入ったが、私の様子が『何となく様子が変』だって気付いたのか、宗介は『何となく様子が変という事を気付かないフリをする』姿がバレバレで可愛く見えて仕方が無かった。
私は宗介の死角になる位置に紙袋を置き、ベッドに寝そべる宗介の背中に寝そべった。
そして宗介の読む本を覗き込む。
「何読んでるの?」
「ん? これか?」
私は宗介のしっかりした筋肉を十二分に堪能する。
※ ※ ※
——— 俺の背中に翠が寝そべる。
翠の心地よい重みと色々柔らかい部分を背中で感じながら、翠に本の表紙を見せる。
「おー、これこの前買ったやつだね。面白いの?」
「うーん……まだ序盤だからな、ただ、引き込まれる話だな」
「ふーん、後で貸してね」
そう言って翠は俺の背中を離れた。俺はもう少し乗っていて欲しかったが、翠は何も言わずに床に正座して “チョンチョン„ と、ここに座れと指で示す。
「宗介、ちょっとここ座って」
「ん、どうした?」
と平静を保った返事をするが、明らかにチョコをくれるという空気が部屋中に蔓延していて、俺は嬉しさを隠そうと、顔に『ニヤニヤ』を一ミリも出さないようにする事で精一杯になっていた。
そして翠の正面に座り胡座をかく。
すると翠は背中から真っ赤な厚手の紙袋を取り出し、俺に手渡す。
「はい、チョコ」
「お? あ、ありがと」
俺は『チョコなんかで俺は飛び上がる程喜ばねえよ』と言った空気を出しながら紙袋を手にするが、翠にはその空気が全部丸見えだったようだ。
なので『素っ気ない空気』を出そうとしている俺とは裏腹に、翠は満遍の笑みでいた。
俺も素っ気ないのは失礼と思って、感想らしき事を言ってみたが……。
「——— 今迄のと違ってなんか深みというか重みが違うな……開けていいか?」
「いいよ♪」
何だ『深み』って? 『重み』って!
俺は袋を開け、中の箱も開けると、中には手作りの丸いチョコレートが幾つか入っていた。俺はチョコをマジマジと眺め、一口頬張る。
うーん……デリシャス!
「うん、おいひー♪」
甘党の俺だ。ここは本音が漏れる。表情もいつもの俺を保てない。
「えへへ……いい事教えてあげる」
「何?」
「これ、お父さん以外の男の人にあげる私の、は・じ・め・て♡」
そう言って翠は俺の頬に「チュッ♡」っとしてサッと部屋を出て行った。
俺は頬に手を当て、その場に倒れた。
※ ※ ※
——— 時間は放課後に遡る。
私は誰もいない公園で廉斗君とベンチに座っていた。六時前だが辺りは普通に暗く、夜と言ってもいいくらいだ。
そして ——— 、
「廉斗君これ……あの……私、廉斗君の事 ——— 」
——— 答えはやっぱり「ごめんなさい」だった。
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