第78話 バレンタイン①

 ——— 季節は冬真っ盛りだ。今日は一面真っ白の雪景色になっている。こんな景色はテレビでしか見た事がない。だが、この地域は雪が積もるのは年三回程度と結構稀ということだ。


「寒い……道路も歩道も雪だぞ……何で車が普通に走ってんだ? うわっ! あっぶねー……滑るって! ……お前もよく普通に歩けるな」

「えへへ、コツがあるんだよ宗介君」

「先生、ご教授下さい!」

「んとね、足の裏に力入れないの」

「はい? 力を入れない?」

「そう、つま先も踵も蹴っぱらない。あと、一ミリも滑らないようにしても絶対滑るから、滑るもんだと思って歩くの。それ意識すると『あ、こっちに滑る』って滑る瞬間分かって何となく体が構えるから、滑っても無意識に体がリカバーして耐えるんだよ」

「なるほど。ま、慣れろってやつだ」

「うん。あと、雪積もってる時に雪降ってきても傘さしちゃダメね」

「何で?」

「転んで刺さる」

「……怖っ」

「ま、そもそも雪国の人って雪降っても傘差さないので宜しく」

「そうなの?」

「だって払えば落ちるもん」

「はぁ……(なんか逞しいな)」



 ※  ※  ※



 ——— 日頃、週一で告白される奈々菜と藍ちゃんに変化があった。

 休みが明けてからもいつものペースで告白を受けている。これはいつもと変わらない。

 変化と言うのは、これ迄、呼ばれた場所には一人で出向いていたのだったが、あの一件以来、二人で場に出向くようになった。

 そして藍ちゃんの断る台詞にも変化があった。

 以前は「ごめんなさい」だけだったが、休みが明けてからは「好きな人が居るんです。ごめんなさい」に変わった。

 そして学園内に桜木藍の噂が広まる。


「おい、桜木さんに好きな人が居るらしいぞ」

「聞いた。まさか真壁さんってオチはないよな?」

「それはそれでアリだが……」


 これは藍ちゃんからの『もう告白しないで』というメッセージなのだが……。



 ※  ※  ※



 ——— 二月に入り、翔馬のギプスも取れ、部活も再開して以前の日常を送っていた。

 ギプスを取っても握力はすぐに戻らない。

 なのでリハビリに私の手をニギニギさせていた。おっぱいでもいいんだけどね。


 ——— そして今日はバレンタインだ。


「はい、チョコあげる」


 私の一言に教室内の視線が一斉に私に集まる。


「ありがと。んじゃ私からも」

「ありがとー♪」


 私と六花がチョコを交換する。友チョコだね。

 私が準備した友チョコは藍と六花、そして廉斗君の分だけだ。お父さんとお兄ちゃんは家族チョコ。武尊おじさんはオジチョコ。翔馬は本命なので数には入らない。

 私と六花のやり取りを見た他の女子が六花を羨ましそうな顔で見る。

 私と六花は、藍のようにベタベタする訳でもなく、仲良く話をするわけでも無い。連絡先の交換はしているが、今日までに連絡は『明けましておめでとう』の一言だけだ。

 結構乾いた関係なのに仲良くしているので、呼び捨てで呼んだりチョコを交換したり周りは不思議でならないらしい。

 六花自身、友達がいないわけでは無い。ただ、深い関係な子はいない感じだ。

 そして私と六花のやり取りを見た一人の男子生徒がぼやく。


「あーあ、真壁さんからのチョコは義理も期待出来ないか……」


 普段の態度でそう思われても仕方がない。実際、今迄義理チョコも渡した事は無かった。

 私が渡せばどうなるか……義理でも本命並みな騒ぎになるのは目に見えている。

 ただ、今回は……、


「そんな事無いよ。両手出して」


 ぼやいた男子生徒はキョトンとした顔で両手を出す。


「はい。義理チョコだけど。私から」


 ぼやいた男子生徒の手に、私は包み紙が色んなボール柄になっている市販の小さいチョコを三つ置いた。


「え?」

「あ、私、義理チョコ渡すのも初めてなんだよ。君、私の義理チョコ第一号……になるね」

「——— マジかー!」

「えー! 何だよ何でお前貰えてんだよ!」

「大丈夫。手、出して……はい」

「——— うおー! 俺も貰ったー♪」


 私は男子一人一人にチョコを渡して行った。

 これは翔馬のアドバイスだ。

 今迄の私は人を寄せ付けないようにするため、誰と言う事は無く素っ気ない態度で接してきた。

 それでも人は寄ってくる。

 そこで翔馬に相談したところ、


「藍ちゃん理論だよ。逃げる猫は追いかけたくなる。自分から向かっていけばそれ程寄ってこなくなるもんだ。多分ね」


 その手始めに義理チョコを渡すことにした。

 ただ、


「あと、私、ホワイトデーのお返しは絶対受け取らないから。それと机の上とかに無造作に置いてたら全部アホ翔馬にあげちゃうからね」

「皆、奈々菜にお返し宜しく♪ そうすれば、それ全部奈々菜から俺へのプレゼントになるからね☆ てか、俺にチョコ無いの?」

「アホ翔馬にあげる義理チョコ無いよ」

「ウソー……凹むなぁ……」

「アンタは散々私が『アーン♡』してやったし、私の手料理食べさせてやったでしょ!」

「そうだぞ成宮、落ち込むなよ♪ お前、怪我が治る迄散々美味しい思いしてきたんだからよ」


 落ち込む翔馬だけど、私はそれが演技と知りつつも皆と同じ扱いができない事に何となく心が痛んだ。

 そしてクラスメイトに嘘をついている事に罪悪感を覚えた。

 いっそのことここで渡しちゃうか? でも、翔馬の気持ちはまだ固まってない……私の気持ちを曝け出して翔馬の答えが『ノー』だって知ったら彼への風当たりはどうなるか分かったもんじゃ無い。

 まだ早いか……早く公にイチャつきたいな……。



 ※  ※  ※



 ——— 私も奈々菜同様、翔馬君のアドバイスを実践中だ。

 何しろ、告白の数が全然減らないのだ。何で? 私、好きな人いるって言ってるのに……。

 チョコは奈々菜と同じくボールの包み紙のチョコをクラスの男子に渡した。

 最近私は告白の返事に『好きな人がいる』と言っている。

 私の本命チョコが誰の手に渡るのか注目を浴びたけど、勿論皆の前で渡すわけはない。

 そんな中、何人かの女の子が私の周りに集まって来た。


「桜木さん、本命チョコ渡さないの?」

「渡すよ。でも誰に渡すかは内緒」

「……真壁さんとか?」

「奈々菜は友チョコ」

「じゃあ……偶にお話ししてる滝沢君?」


 私はその名にドキッとするが、別の子が速攻で否定して来た。


「えー、彼は無いんじゃ無い? よくお話ししてるトコ見るけど、聞いてれば普通に世間話だし、彼も四月に比べて体引き締まってちょっとカッコよくはなったと思うけど……けどそこまでカッコよく無いし……」

「だよねー。じゃあ誰だろ?」


 勝手に廉斗君が候補から外された。

 カッコいいの定義って人それぞれだ。

 私から言わせれば廉斗君程カッコいい男は翔馬君と宗介さんくらいだ。

 ま、宗介さんは比較対象に出しちゃダメな人だね。

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