第77話 翔馬と奈々菜 その1②

 ——— お昼休み。皆、思い思いに机を付けたり椅子を寄せたりしてグループで弁当を食べ始めた。

 学食もあるが、中学生は余り利用しない。

 今の季節、外は寒い。なのでほぼ全員が教室で弁当を食べていた。

 私は普段一人で食べようとするが、誰かしら机を寄せてきて、不本意ながら一緒に食べる。

 私の席の後ろは翔馬だ。

 お昼休み。私は人が寄ってくる前に徐に振り返り、既に弁当が広げてある翔馬の机の上に、私の弁当を並べて置いた。

 翔馬はキョトンとする。

 周りの生徒も私の行動に注目する。

 私は不貞腐れた感じで皆に話した。


「なんか皆、朝から私が翔馬を怪我させたみたいに見るからさ……申し訳なく思えて……だから私が食べさせてやるから感謝してよ♪」


 私は思わず言葉の最後に「♪」を付けてしまった。尤も誰の耳にも「♪」は聞こえないのだが、


「ワオ! やっぱ奈々菜っち優しいな☆」

「黙れ! っていうか今朝も言ったけど、何で私の名前勝手に呼ぶ! 誰が許可した!」


 と、皆に聞こえるように話す。


「えー、朝も言ったけど、初夢に奈々菜っち俺の夢に出て『奈々菜って呼んで』って言ってたじゃん!」

「その夢はアンタの願望でしょ! ったく何勝手に私の夢見てんの! 出演料払え!」


 当然、皆は私と翔馬に注目する。私は『チッ』っと舌打ち風に『チュッ♡』って翔馬に向けてしながら翔馬の箸を取り、翔馬の弁当からオカズを一つ取ると翔馬の口に運んだ。


「はい、口開けて♡」


 投げやりな感じで指図するがどうしても『♡』が出てしまう。

 私の言葉にお口をアーンって開ける翔馬……可愛い♡ 

 私は翔馬の口にオカズを運び食べさせる。

 そして自分の箸に持ち替え自分の弁当を頬張る。

 これを二度程繰り返す。それを周りの男子が羨ましそうに見る。


「いいな成宮。真壁さんに食べさせて貰うなんて……真壁さん、成宮嫌いなら無理に食べさせる必要無いじゃん!」

「えー! だって朝、皆アホ翔馬の怪我見た後、まるで私がやったかのように私の事見るんだもん。しかも全員。そんな目で見られたら流石の私もなんか『申し訳ないな』って気分になっちゃって……うん、だったら変わってくれる? それなら願ったり叶ったりなんだけど(断れー! 頼むから断れー!)」


 私は翔馬の弁当と箸を男子に差し出す。内心、手に取るんじゃないかとドキドキだ。


「えー、それは絵面的に……ないない」

「(ヨシッ!)じゃあ、黙って見てて……いや、見ないで。恥ずかしいから向こう向いてて頂ける?」


 そう言って、翔馬の弁当からご飯を取り、翔馬の口に運ぶ。そして


「……あれ? 箸間違えた?」

「みたいだね」


 偶々箸の色がお互い白だ。私の箸にはちょっと文字が入っている。

 勿論、態と間違えた。

 私の一言に男子が突然騒ぎ始める。


「はあー! お前、真壁さんと間接キスかよ!」

「何ぃ! 成宮! お前……お前……」


 私は周りの声はお構いなしで翔馬に確認すると言うか、翔馬の意見は聞くつもりは無い。


「なんか箸持ち替えるの面倒だし、この際だから私の箸でいいよね?」

「「「え⁈」」」


 私の言葉に教室に居た全員が驚き私達に注目する。


「別に間接キスなんて騒ぐような事でもないでしょ? 皆も親兄弟と普通にしてんじゃ無いの?」


 と口と態度は平静を保っているが、内心、公然とイチャ付いてる気分でちょっとルンルンしている。

 私はオカズを小さく切って翔馬の口に運んだ。


「ほら、口開けて……」


 なんで小さくしたかって? 勿論、口が箸に触れるようにだ。

 オカズは小さいので唇が箸に触れずオカズだけ取るのは困難だ。

 そして今、オカズは箸と共に既に口に入っているが私はオカズを箸から離さない。

 翔馬が口で取るまで箸からオカズを離さない。

 三回言うけど、私は態とオカズを箸から離さないでいた。

 翔馬はおかずを「パクッ」っと食べるが当然、唇は箸に触れる訳で、場にいる者全員が「あ!」っという顔をした。


「皆驚いてるけど……何? どうかしたの?」

「いや……真壁さん気になんないんだ?」

「うーん……気にならないって言ったら嘘だけど、でもそこまで気にする事かな? って思うね」

「そう……」


 私は六花の方に目線を送ると、六花は皆とは違う感じで驚いているようだった。私の気持ち、気付かれたかな?

 そして再び、、今度は。翔馬はそのまま口を開け、オカズを放り込まれる。すると他の生徒が、


「真壁さん、今、自分のお弁当のオカズ成宮君に食べさせてたよ」

「え? ウソ! あ、ホントだ。それ私が作った卵焼き……」

「ナニー! 翔馬吐き出せ! そして俺に食わせろ!」

「モグモグ……ゴックン」

「あー! 何で……真壁さんの手料理が翔馬の胃袋に消えた……」


 勿論、わざとだ。

 私が作ったオカズをマイダーリンに食べさせて何が悪い? って言うか周りが一々ウザい。


「アホ翔馬、私が作った卵焼き不味いとか言わないよね?」

「——— 美味い……奈々菜っちの卵焼き……最・高!」

「ありがと♡ ——— じゃなくて! だから奈々菜って呼ぶな! つーか、どうせ呼ぶなら一々『ち』なんて付けんな! ガキ臭い……ったく」


 私は呼び捨て呼びを容認する発言をしつつ、自分のオカズをその箸で摘み、自分の口に頬張った。

 そして翔馬を見るが……ダメだ。睨んだ顔が維持できない。口元がニヤニヤを抑えようとフニフニする。

 やっぱ美味しいって直接言って貰えると嬉しいね。ルン♪


 ——— 私は翔馬の骨折が治るまで、何かと理由をこじ付けては毎日弁当を食べさせてあげた。

 ついでに、翔馬がお弁当忘れた日に、私が偶々間違えてお父さんのお弁当持ってきたというで、私の手作り弁当を食べさせた事もあった。

 どう考えても無理のある設定だったけど、周りは信じたようだ。六花は思いっきり疑ってたけどね。


「さて、明日はどういう理由で食べさせてあげよっかな♡」

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