第76話 翔馬と奈々菜 その1①
——— 新学期……と言いたいが、二学期制の学園では『冬休み明け』という表現になる……と思う。以前の学校は三学期制だったからその辺の呼び方はちょっと分からない。
私と藍は、毎朝お兄ちゃん達が乗る電車の一本早い電車に乗る。そして、三両目の前の出入り口から車両に乗り込む。
そこには何人かの学園の生徒と一緒に翔馬と廉斗君が乗っている。
「……なんでアンタまだここに乗ってんの! 休み明けたら車両移れって言ったよね!」
「おはよ。いやー、やっぱ朝、しかも休み明けの今日は尚の事奈々菜っちの顔一番に見ないと調子出ないよね」
「
「奈々菜っちの気持ちは分かってるって。自分が車両移ればいいのに、毎回同じトコ来るってホントは俺に会いたいんでしょ?」
「はぁー? 何あんた私の名前『奈々菜っち』なんて
私が電車に乗り込むと、翔馬と顔を合わせるなり、毎朝このやり取りをしていた。
以前はホントに腹が立っていた。
でも今日は……なんか嬉しい♡ ダメだ。抱きつきたい♡ もうオープンにしちゃっていいんじゃ無い? でもそうすると翔馬風当たりがどうなるか分かったもんじゃ無い。
——— あ、もう少しで電車が大きく揺れるところだ! チャーンス♡ ——— “ガタガタタン!„
「きゃ♡」
私は揺れに合わせて翔馬に抱きついた♡ しかも激しくバランスを崩したように見せかけ、簡単に離れられないように体制が戻せないような抱き付き方をした。
当然、翔馬の肋と右腕には触れないようにだ。
「奈々菜大丈夫か?」
「——— えへ♡」
翔馬は私にだけ聞こえる声で話す。
私は周りに見えないように上目遣いで舌をペロっと出す。
その表情を見て『ふふっ』っと微笑む翔馬。幸せだ♡
誰にも気付かれて居ない……と思う。周りに気付かれないように私は素で翔馬に謝る。
「ごめん。怪我したトコ、大丈夫だった?」
「大丈夫。奈々菜だったら折れた腕でも支えるよ」
——— キュン♡
「……バカ♡」
やばい。照れて言葉が思いつかなかった。
※ ※ ※
「ね、廉斗君、この寸劇毎日見る事になるの?」
「うーん……みたいだね」
「私達、車両移ろっか?」
「……無しではないね」
※ ※ ※
——— 教室に入ると、まだ少ないが既に何人か登校していた。いつもの光景だ。
私と成宮はほぼ同時に教室に入る。私達が同じ時間の電車に乗ってる事は結構知られている。なので変に時間をずらすと不自然になる。
「お、成宮おは……おい、何だその顔と腕は? ……まさか! まさかとうとう真壁さんに物理的にやられたのか?」
腕は兎も角、顔の痣はまだ消えて無い。
私はクラスメイトの言葉に答える。
「幾ら憎たらしいって思っても、冬休みに会ってまで物理的にやるなんて流石に気が引けるよ……」
自分の所為で負った怪我をネタに話を膨らませる事は流石に出来ない。名誉の負傷を汚したらダメだ。
しかし皆、日頃、私と翔馬の関係をどう思ってるのか今日ハッキリ分かったような気がした。
教室に入ってくる者ほぼ全員が翔馬の怪我を見て「えー……」って顔で私の顔を見るのだ。
確かに怪我の原因は私だけど、私がやったわけじゃ無い。
私は目を向けられる度に『違う違う』と手を振り首を振り否定した
「奈々菜おはよ。元気してた?」
「あ、六花おはよ。あんまり元気じゃ無い……」
私と六花は学園祭の後、自然と呼び捨てで呼び合う仲になっていた。
最初は周りの目が集まりはしたものの、六花の性格も知ってか、特に波風立つ事は無かった。
「元気じゃ無いって……成宮君どうしたのその顔と腕! 大丈夫? まさか奈々菜……やり過ぎだよこれ! ここまで来たら事件だよ!」
「六花……アンタも悪ふざけが過ぎるよ。久しぶりに会ったと思えば……もうね、教室入ってくる子、皆、翔馬見て必ず私見るんだよ? 酷くない?」
「それで元気ないのか。ははは———日頃の行いだって。毎日顔合わせれば何かしら悪態ついてんだもん。そりゃそうなるよ。成宮君だってそう思うだろ?」
「うん? 怪我については触れないで貰えると助かるかな? でも、実際、奈々菜っちにやられたんならご褒美以外の何物でも無いけどね」
「はぁー、アンタも懲りないね。しかも呼び方変えた?」
「なんかね、初夢に私が出て来て『奈々菜って呼んで』って言ったんだって。もう、なんか怒る気も失せてきた……出演料払え!」
「ま、利き腕骨折してるみたいだし、仲直りに弁当食べさせてあげたら?」
「!」
——— 六花それだ! 皆、私がやったもんだと思ってるみたいだし……逆手に取って……私って冴えてるぅ♪ 翔馬♡ お昼休み楽しみにしててね♡
ついでに、翔馬の怪我は廉斗君と本気で殴り合ったって事にしといた。
も一つついでに『お前中々やるな』の体で友情が深まったって事にもしといた。
勿論、皆、この話は全然信用しなかった。
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