第75話 奈々菜と藍の王子様その3⑧

 ——— 正月三が日も過ぎ、社会人は普通の日常に戻る中、俺達中高生はまだ残り少ない冬休み中だ。


「奈)お兄ちゃん連れてきたよー♡」

「藍)お待たせー♪」

「翔)こんにちは、お邪魔します」

「宗)いらっしゃい」

「翠)あけましておめでとう御座います」


 今日は、先日のお礼を兼ねて我が家に翔馬君と廉斗君をご招待した。

 俺と翠は当然素顔でいた。


「今日は俺とコイツしか居ないから楽にして……って奈々菜、そんなにくっついてたら翔馬君も楽に出来ないだろ」

「だって、こうしてると落ち着くんだもん」


 床に座る二人だが、奈々菜は翔馬君の左腕にしっかりしがみついていた。

 奈々菜の右手は翔馬君の左手としっかり恋人繋ぎもされている。翔馬君はギプスの手で頭を掻く。

 藍ちゃんの方はそれなりの距離を保った接し方だ。奈々菜に聞いた話、マンションまでは手を繋いで来ていたそうだが、ここでは普通の距離感で手も繋がず並んで座っている。節度ある接し方だ。


「そう言えば自己紹介まだだったな。俺は宗介。奈々菜のお兄ちゃんをやらせて貰ってる」

「ちょっと何そのやらせて貰ってるって……私は藍の姉の翠と申します。私達、学園に通う高等部の一年生です。宜しくね」


 俺達が自己紹介を済ませると、翔馬君と廉斗君も自己紹介を返した。


「成宮翔馬です」

「滝沢廉斗です」

「あの……改めて、あの時助けて頂いて有り難う御座いました。俺と廉斗だけだったらホントヤバかった……」

「俺達家族からすれば、君達には感謝でしか無いんだけどな。本当に有り難う」

「有り難う御座いました」


 俺と翠は深く頭を下げた。本当に感謝しかない。この子らが止めに入らなければ妹達は今頃どうなっていたか分からない。

 俺は彼らの勇気に敬意を表したかったが、表し切れないでいた。


「頭を上げて下さい。あれは結局、俺達が蒔いた種とも言える事だし……」

「確かに場所は怪しい雰囲気だったけど、あの時間のあの通りは幾ら暗くなるのが早いと言っても治安は悪く無いんだよ。避けて歩くような道じゃ無かった。それより自分らより大きい男……しかも大人だ。その四人相手によく二人で立ち向かえたもんだ。普通なら何も出来ずに終わってもおかしく無いぞ」

「まぁ……正直必死であの時何を考えてたか覚えてないんです……そう言って頂けると嬉しいです」

「人間窮地に立たされた時、本心が出るって言うからな。な? 奈々菜」


 俺は奈々菜に話を振るが、奈々菜は目をキラキラさせて翔馬君をジーッと見ていた。

 多分、奈々菜の目には翔馬君の背景にキラキラエフェクトが見えてんだろうな。

 俺はちょっと揶揄い半分で奈々菜に聞いてみた。


「なぁ、翔馬君って、日頃、お前から聞いていた印象と随分違うんだが……」

「え、日頃って……?」


 翔馬は俺の言葉に目を丸くする。


「以前から事ある毎に君の話は色々聞いてたんだけどな。『ふざけた男がいる』って」


 翔馬君は奈々菜を見る。奈々菜はバツが悪そうに顔を逸らす。


「ま、内容はどうあれ、後にも先にも奈々菜が学校の子の話をしたのは君が初めてだったけどな。どっか認めるところが有ったから話に出たんだろ」

「はぁ……」

「そ♡ 前も言ったでしょ? 前から認めるところはあったって」

「奈々菜のタイプの男の子は『自分をちゃんと見てくれる人』だもんね♪」


 藍の言葉に奈々菜は『言ったでしょ』って顔で翔馬君を見る。ドヤ顔……とも違うかな?


 今度はお返しとばかりに奈々菜が藍に話を振る。


「そう言えば藍って滝沢君の何処に惹かれたの? そんな気配全然感じなかった訳じゃないけど……」


 藍は暫く廉斗の顔を見て答える。


「うーん……猫ってさ……逃げると、なんか追いかけたくなるでしょ?」

「……なるね」

「廉斗君、私の事見てんだか見て無いんだかよく分かんなくて、振り向かせたくなったっていうか……」


 俺と翠は藍ちゃんを見て一言。


「プライドか?」

「藍も奈々菜ちゃんも黙ってても男付いてくるもんね」

「うー……、確かにプライドも有るし、男は黙ってても付いてくるけど、だいたい、陰口ならいざ知らず、本人目の前にして『どうでもいい』とか『ちょっと黙ってて』って、そんな事お姉ちゃんにしか言われた事無いのに、家族でも無い男の子に面と向かって言われたら意地にもなるでしょ」

「で、今回の件で?」

「それ、お姉ちゃん聞く? ただでさえ気になってた男の子なのに、あんなボロボロになりながらも身を挺して助けてくれた、誰だって好きになっちゃうでしょ!」

「ふふ……確かにね」


 翠は俺の顔を見て微笑む。

 そして再び二人を見て確認する。


「で、藍と滝沢君は付き合い始めたの?」

「んーん、なんかこの……逃げる廉斗君を追いかける私っていう構図が良いのかな……ってね?」

「そうだね。僕は正直藍ちゃんを表面でしか見てないから、付き合うってなればそれはちょっと違うかなって」

「うん、ちゃんと妹の気持ちに真摯に向き合ってんだ。だったら安心。これからも藍の事宜しくね」

「はい……ん?」



 ※  ※  ※



 その後、皆で食事しながら話は盛り上がった。

 私は自分が作った料理を見て思い出していた。

 翔馬に『誰が作ってやるか!』なんて言ってたけど……まさか自分から作ってあげたいって思うとは……数日前の自分を振り返り、自分が可笑しくなった。

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