第74話 奈々菜と藍の王子様その3⑦
——— 奈々菜に「お兄ちゃん」と呼ばれた男は、手首につけていた紐で出来たアクセサリーを解き、気絶している男達を縛り上げた。
俺は奈々菜に膝枕され、体を起こせずにいた。奈々菜は泣きながらハンカチで俺の顔の血を拭き取っている。そして『お兄ちゃん』が話しかけてきた。
「大分酷そうだな、救急車呼んどく。警察も……」
「あ、警察、は……もう、連……絡済……みです」
廉斗が答える。俺もそうだが口の中が切れていて喋りにくそうだ。
廉斗は道路に座り込み、桜木さんに支えられていた。
「そうか、なら俺らはこれで去るぞ。俺も結構な事やっちまったからな。それと、俺達の事は内緒で頼む。この場の事は『見知らぬ人に助けられた』って事にしといてくれ」
お兄さんは『結構な事』って言ってるけど、俺らがやられた事より酷い事してると思った。
無抵抗な人間どころか、気を失ってる人をただただ平手で全力で叩きまくったんだ。絶対『過剰防衛』とかで捕まるやつだ。
それと散々「妹」って口にしてたから素性がバレるんじゃ……俺らがしらばっくれればいいか……。
「あと分かったと思うが俺が奈々菜の兄で、彼女が藍ちゃんの姉な。今は自己紹介はしないが、その内お礼はさせてくれ」
俺は膝枕されたままお兄さんの話を聞いていた。しかし改めて二人の顔を見ると異次元なカップルだ。
何だろう……『実感が無い』という、何に対してかよく分からない言葉がピッタリ当てはまると思った。
「それと、学園では俺と彼女の存在そのものを内緒にしてくれ。理由は、妹達に聞いて」
そう言いいながら、お兄さんは髪をボサボサにし、最後に一言、
「妹達の事、これからも宜しくな」
と、奈々菜と桜木さんを自分達に託した。
お姉さんもウィッグを被り、同じようにボサボサに整えた。
「藍、また後で迎えに行くね」
「分かった。んじゃ、警察署で」
俺はふと沸いた疑問を奈々菜に聞いた。
「なぁ、お、兄……さん……同、じ学、園?」
「うん。喋んないで。滝沢君のお姉さんと同級生」
「理由、後で……な」
「うん」
二人はこの場を去った。
そう言えば以前出回ったイケメンと美少女の写真って、あの二人だったんだな。
——— 間も無くして警察が来て四人の男は現行犯逮捕され、奈々菜達は事情聴取で共に警察へ。俺と廉斗は救急車で運ばれた。
※ ※ ※
「いやー、まさか警察から電話来た時、宗介かと思ったら奈々菜でビックリしたよ」
「お父さん御免なさい」
「まぁ、時間的にも七時前だろ? そんな時間でそんな目に遭うとは誰も思わないだろ。ま、ちょっと場所が若干……いや、あそこはそれ程問題になる場所じゃ無いよな?」
「ホントにごめんなさい」
「ま、一緒にいた男の子にお礼言いに行こうな」
「うん」
この日を境に私の態度が180度変わったのは言うまでもない。
※ ※ ※
——— 翔馬は入院した。と言っても検査入院だ。ただ怪我は結構重く、右腕と肋を骨折していて全治一ヶ月である。
「翔馬♡ こんにちは♡」
「あら、奈々菜ちゃん、こんにちは」
私が病室に顔を出すと、翔馬の母が病室で出迎えてくれた。
「おばさんこんにちは」
あの日の翌日、お兄ちゃんと翠ちゃんを除く両家族の六人でお礼を言いにこの病室に伺っていた。勿論、廉斗君の御両親とも顔を合わせていた。
「毎日ありがとね」
「私に出来る事はこれくらいですから」
「うふふ、それじゃあゆっくりしてってね」
「はい♡」
翔馬の母は、私が来ると楽しげに病室から出て行く。
「俺はまだ奈々菜ちゃn「奈々菜!」……奈々菜の彼氏にはなれないぞ」
翔馬は私の名前に敬称を入れようとする。勿論私はそんな事は望んでいない。なので翔馬の言葉を正す。
ついでだけど翔馬の顔は包帯でグルグル巻きだ。
私は椅子に腰掛け翔馬の左手を両手で握る。
「もう! 開口一番それ? 散々『愛しの真壁っちー♡』なんて言ってたのに……はいこれ、誕生日プレゼント」
「え?」
「今日でしょ?」
「そうだけど……何で知って……」
「ごめん、翔馬の情報盗んじゃった♪ えへ♡」
私が差し出したラッピングされた紙袋を、翔馬は包帯で殆ど塞がってる目を大きく見開きながら手に取った。
「ありがと。開けていい?」
「うーん、私が帰ってからして。ちょっと恥ずかしいから」
「分かった」
そう言って翔馬は紙袋を枕元に置いた。
「ったく、いざ私が『好き♡』って言ったら『付き合えない』って、ヘタレだなー」
私はテーブルに置かれていたリンゴを手に取り、果物ナイフで剥き始める。
「だから前も言ったろ? 今の俺じゃ隣に立てないって。もうちょっと待ってくれよ」
「……まいっか。私は翔馬の彼女候補♡ 私は翔馬しか彼氏にするつもりは無いからゆっくり答え出して♡ 勿論、答えは『ハイ』か『イエス』しか聞こえないけどね♡」
「厳しいな……分かった。『ハイ』と『イエス』が言える男になるまで待ってて。必ず言うから」
……『必ず言う』って、もう言ってるようなもんだと思うんだけど……ま、いっか。
私は剥いたリンゴを薄くスライス気味に切り、翔馬の口元に持って行く。ただ、彼の口の中はボロボロでよく噛めない。
「ありがと。今、一口で食えないから……」
「いいよ。なんなら咀嚼してやるか?」
「流石にそれは……えー」
翔馬は口に入る分だけ齧った。残った部分は私が頬張る。
「おいおい、何食ってんだよ」
「ん? 間接キスだけど? なんか悪い?」
「いや、悪く無いけどさ……」
サラッと平静に答えたが、気持ちは正直ドキドキでルンルン上がりまくりだ。
「翔馬の答えは気長に待ってるよ。それまで学校では今までどおりの仲で通そ」
「うん。半端なことやると周りのやっかみが凄そうだしな」
「あと勘違いしないで欲しいのは、私が翔馬を好きになったのは、今回の件があったからじゃないからね。今回の件は決定打になっただけで、前からそれなりに翔馬を認めてはいたんだから……オーケー?」
「うん、それも分かったけど、でも、もう奈々菜ちゃn「奈々菜!」……奈々菜を揶揄うような言葉も通じなくなっちゃってちょっと寂しいかな……はは」
「ふふふ、だったら私が言ってあげるよ愛しのダーリン翔馬君♡」
「——— なんかこそばゆい」
※ ※ ※
「こんにちは」
「藍ちゃんだ♪ こんにちは」
「えへへ……来ちゃった」
「こんにちは。奈々菜ちゃんは?」
「あっち行ってる」
「向こうも頑張ってんなー」
「私も頑張ってますよ?」
奈々菜が翔馬君のところに顔を出してる頃、私は廉斗君の病室に来ていた。
廉斗君は体を鍛えていた事もあり、怪我もそれ程では無かった。検査入院も成宮君程じゃなく今日退院だ。
「蘭華お義姉様、何か手伝え……「ちょっと待ってよ。昨日も言ったけど『おねえさま』はいいんだけど、『義』を付けるはちょっと早いんじゃない?」
「いいんです。いずれなってみせますから。それよりも廉斗君、私の事、偶に見失うんです。だから、お義姉様も廉斗君が常に私の事見てるように監視してて下さい」
「分かった。『学園の妹』って言われてる藍ちゃんがリアル義妹になるなら私も全力を尽くすよ」
「ふふふ、有り難う御座います。廉斗君、もう他所見しちゃやだよ」
「…………なんか怖い……」
※ ※ ※
奈々菜が帰った後、俺は紙袋を開けた。
袋の中には手のひらサイズのマスコット人形が二つ入っていた。そのマスコット人形は手作りなのだが、
「これ……うわぁ……こんなんされたらもう……はは」
一つは俺に似ていた。
もう一つはどう見ても奈々菜だ。
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