第72話 奈々菜と藍の〇〇〇その3⑤

 ——— 時間は六時だ。イルミネーションが点灯する。すると、


「——— おおぉぉ……」


 と、歓声が小さく上がる。

 俺達はイルミネーションが点灯する瞬間に立ち合えた。立ち会えたのだが、ここに廉斗と桜木さんは居ない、俺は奈々菜っちと二人で居た。廉斗達と逸れたのだ。

 奈々菜っちがテンション低く呟く。


「……正直……地味だね」


 奈々菜っちの言うとおり、カウントダウンがある訳でも無く、点いた瞬間音楽が流れる訳でも無く、時間が来たらただライトが点灯しただけだった。


「うん、俺も初めて見たけど、よく考えるとただライトが点くだけなんだよな。部屋の電気点けるようなもんか」

「確かに。でも、綺麗……アンタと見なきゃもっと素敵だったんだろうな」


 そう言いながらも奈々菜っちは俺の袖を掴んでいる。チラッと奈々菜っちの顔を見ると表情もしたり顔とでも言うのか、不快さは全く無いと分かる表情だ。

 さっきからずっと奈々菜っちの視線を感じるが、俺はそっちをあまり見れないでいた。正直照れてた。

 ふと群衆に目を向けると、少し離れた処に廉斗と桜木さんの姿が辛うじて見えた。


「あ、藍達あそこに居た」


 奈々菜っちも二人の姿を捉えたようだ。


「こっちに気付いて無いな」

「いこ」


 俺達は廉斗達の元に行くと二人はしっかり手を握って立っていた。


「あ……の……藍? その手……」


 奈々菜っちは握られた手を見て驚く。


「うん、はぐれちゃうから繋いでた♪」


 と、桜木さんはあっけらかんと答える。


「奈々菜だって袖掴んでるじゃん?」

「う、煩い! こいつフラフラどっか行くから捕まえてんの!」

「ふーん……そう言う事にしとくよ」


 すると廉斗が帰ろうと提案して来た。

 まぁ、時間は六時を過ぎたばかりだが既に暗い。塾に向かう奴も居るだろうけど、中学生が遊び歩くような時間では無い。


「それじゃあ、もう僕達が立ち寄れる店とかもう無いから、ちょっと遠回りして帰ろっか?」

「そうだね」


 ——— 暫く光に包まれた世界を四人で歩き、そしてイルミネーションロードを外れ、駅に向かい始めた。

 そこは裏路地に近い感じだ。人通りも少し少なめだが、全く人気が無いと言う訳では無い。サラリーマンも歩いている。

 ただ俺はこの通りを歩く人のなりが、ちょっと気になっていた。

 明らかにヤバそうな人がチョイチョイ目に付く。

 時間はまだ六時半だ。警戒する時間じゃ無い。

 

「——— キャッ!」


 そう思った矢先、突然奈々菜が悲鳴を上げた。そして、ガラが良いとは言えない男の声が聞こえた。


「はーい、お姉さん達、こんばんわー。ここからは僕達と遊びましょうねー」


 奈々菜に目を向けると見知らぬ男が奈々菜の肩に腕を回していた。そして無理矢理俺から引き剥がし、更に裏路地の人気が無い方へ連れて行った。


「ちょっとやめて下さい!」


 桜木さんも別の男に連れて行かれようとしている。

 俺は男達が怖いとか以前にヤバさしか感じなかった。


 ——— 彼女達が連れて行かれる!


 俺は考える間も無く、奈々菜の肩に回された男の腕を掴んだ。

 すると鈍い痛みが脇腹に走った。俺はその痛みと共に通路に吹っ飛ばされていた。


「ガキが遊んでていい時間じゃねぇ!」

「翔馬!」


 三人目の男がいたのだ。

 奈々菜が俺の名前を叫ぶ。俺の元へ駆けつけようとするが、男がしっかり肩を押さえて離さない。そのまま更に人気のない裏路地の更に裏へ連れて行かれる。


「こんな弱い男なんて無視して僕達とあそぼー」


 男は顔を奈々菜に近付けて話すが、奈々菜は怪訝な顔をして男から顔を逸らす。


「その手を離せー!」


 桜木さんの方も廉斗が男の腕を掴んで藍を引き剥がそうとするが中々引き剥がせない。すると廉斗が突然横に飛んだ。

 違う男だ。四人目の男がいたのだ。

 廉斗は吹っ飛ばされるがすぐ立ち上がり、男の腕にしがみ付く。


「何だこいつ、変に力ありやがるな」

「ったく、しつけー男は嫌われるんだよ!

「——— アガァ!」


 廉斗は再び蹴りを入れられ通路に倒れた。


「おい、お前ら中坊はもう帰る時間だ。ここからは……まだちょっと早えぇが、大人の時間だ。じゃあな」


 そう言って男達は奈々菜達を更に奥へ連れて行く。俺は立ち上がって男達に着いて行く。


「おい、お前ら、その子達を何処に連れて行く気だ。その子達も中学生だぞこのロリコンが!」

「そっか、この子ら中学生か。じゃ、経験まだなんだろ? 今日で大人にしてやっから問題ねぇな。お兄さん達が優しく、やさしーく大人の世界教えてあげるからねぇ♪」

「翔馬……翔馬……」


 奈々菜は俺の名を呼ぶだけで恐怖で声が出ないようだ。桜木さんは『やめて下さい』と腕を振り払おうと抵抗している。



 ※  ※  ※



 僕は飛ばされながらもすぐ立ち上がり、翔馬の後ろを追いかけた。そしてスマートフォンを取り出し、ビデオ通話で父さんのスマートフォンに電話をする……いつもならすぐ出るのに、たった数秒が長い! クソッ! 早く出てくれ……出た! 


「どうした廉斗。ビデオ通話なんて……」

「この画像録画して」

「あ?」

「良いから早く!」


 画面に録画のマークが表示された。

 僕はカメラを男達に向け、そして少し大きな声で話し始めた。


「父さん見えてるか? ここは獅子座横丁の一本南の路地裏だ。今、男四人が女の子二人を拉致しようとしてる。場所は看板で何とか探してくれ……」


 そこまで言うと、男の一人が僕を殴った。僕は幾度となく殴られたが、スマートフォンは男達に向けたまま耐えた。

 そしてスマートフォンを持つ手を蹴られ、手から離してしまった。


「お前、何ふざけた事やってだゴルァ!」


 そう言いながら男はスマートフォンを足で踏み潰し、僕に回し蹴りを入れた。

 藍ちゃんを掴んでいた男も、彼女を離して僕の胸ぐらを掴み殴る。

 僕はそのまま後ろに吹っ飛ぶ。そして再び胸ぐらを掴まれ、持ち上げられた。

 僕は男達に一言言ってやった。


「へへ……お前ら終わりだ。僕の父さん、警察官……って言うか刑事だ。お前らの顔……映像はしっかり送った。今夜から震えて眠れ」



 ※  ※  ※



 体が自由になった私はすかさず自分のスマートフォンを取り出してお姉ちゃんに電話した。

 ただ、電話している事がバレると自分も何をされるか分からない。正直怖い。でも動かないと……奈々菜はまだ捕まっている。ここから逃げる訳には行かない。


 ——— お姉ちゃん気付いて……


 私は、廉斗君が殴られる度に悲鳴を上げる事しか出来なかった……。



 ※  ※  ※



 翔馬は立ち上がり、私の肩に回された腕取ろうと掴みかかるが、その度に吹き飛ばされている。


「ったくしつけー! “バキッ„」

「——— ウガァッ! ア゛———ッ!」

「翔馬ー!」


 なんか鈍い音がした。翔馬は右腕を抑えて悶えている。

 私は翔馬の名前を叫ぶ事しか出来ない。

 翔馬は再び立ち上がりまた男に掴み掛かるが、右腕は垂れ下がったままだ。今度は掴んでいる男に蹴られ阻まれる。


「いい加減うぜぇ……」


 私を掴んでいた男はそう言うと、私を離して翔馬の髪を掴んで無理やり立ち上げる。そして腹に一発拳を叩き込む。


「んごぁっ!」


 翔馬は腹を抑え疼くまる。


「いいからそのまま寝とけよ!」


 そう言い放ち、疼くまる翔馬の顔面を蹴り上げる。


「がぁっ!」


 する私のスマートフォンに一音、着信音が鳴った。男達にバレないように画面を見ると、


[お兄ちゃんさんが位置情報を求めています]


 と表示されていた。

 ——— え? もしかして藍がなんかした?

 私は迷う事なく「はい」をタップした。

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