第67話 宗介と翠の通学

 ——— 学園祭真っ只中だ。俺と翠に学園祭中に進展は無いし事件も無いので割愛だ。ついでに奈々菜達の話も前回の動きが今回のピークだ。なので割愛だ。


 

 ※  ※  ※



「来羅何やってくれてんのもぉ!」

「え? ミスコンのエントリーだけど何か問題でも?」

「問題大有りでしょ! 私なんか出たってピエロになるだけだよ!」

「大丈夫。芹葉なら余裕でクィーン取れる」


 江藤来羅が私を勝手にミスコンにエントリーした。

 私なんかが出ても道化になるだけの恥晒しだ。

 周りの子は私を『綺麗』とか『モデルみたい』なんて煽てて囃し立てるけど、私にそんな自覚は一切無い。


「ちょっと流星君からも何とか言って!」

「んー? 別にいいだろ? お前、実際綺麗だし、出たところで誰も揶揄する事は言わねぇよ。寧ろ一緒にエントリーした奴らが可哀想ってもんだ」

「流星君までもう!」

「ほら、欠場しちゃうと穴空いて運営に迷惑かけちゃうよ」

「来年覚えといてよ!」


 ミスコンが始まり、ステージにに上がった。

 エントリーは八人。皆可愛いかったり綺麗な子ばかりだ。私に票を入れる子なんているわけ無い。

 そう思ってたんだけど ———。


「今年のミス新川学園はー……エントリーナンバー5番。1—D、深川芹葉に決定しましたぁ!」

「わあああああぁぁぁぁぁぁぁ———」


 ——— 満場一致で芹葉がクィーンに選ばれた。

 なお、一度クィーンに選ばれると、次回以降のミスコンには参加できないというルールだ。



 ※  ※  ※



 文化祭が終わり少し経った頃、俺と翠の登下校に変化があった。

 終始一緒に並んで歩くようになったのだ。

 初めの頃は色々警戒して駅と学校の間は離れて歩いていたが、ある日ふと気付いた。


「なぁ、翠はさ、通学の時誰かの顔って……見るか? いや、『見える』か?」

「うーん……見ないし見えないね」

「クラスの奴とか、背中でしか分かんないよな?」

「だね。しかもクラスで目立つ子以外は、その子があの子かどうかも自信ないね」

「振り向く奴も稀だよな?」

「だね」

「俺ら一緒に歩ってても気付かれ無いんじゃね?」

「…………だね」

「明日試しに家から学校まで一緒に並んで歩いてみるか」

「うん♪」


 ——— 翌日。マンションを二人で出る。


「おはよ。ここから駅まではいいんだよな」

「うん。駅迄はね」


 マンションから駅正面の大通りに出るまでは高校生の姿は見かけるが新山学園の生徒は誰もいない。大通りに出るとチラホラ見え始めるが俺達を気にする者は居ない。


「翠、大丈夫?」

「うん……視線は感じて無い。行ける……と思う」


 翠はそう言いながらも俺の袖を掴んでいる。女の子に服掴まれるってなんか嬉しいよな。

 掴まれた袖から翠の不安が伝わって来る。

 俺は袖を掴む翠の手に手を添えて「大丈夫」と囁く。そのまま改札を抜け、ホームに並ぶ。掴んだ袖はそのままだ。

 そして電車がホームに入り、いつものとおり乗り込むのだが……なんか自分からくっついて来て無いか?

 普段はただ俺の前に立つ翠だが、今日は宗介のブレザーのフロントラインを掴み自分に引き寄せるように自分から密着して来てる。

 ただ、普段はここまで密着しないが、最近この密着が心地よく感じていて、俺の般若心経は既に不要になっていた。

 俺はこの状態に『悟りを開いた』と思っていたのだが、それは大きな勘違いであるという事は言うまでも無い。

 俺は翠に目を下ろすと、髪で隠れ気味だが上目遣いで俺を見ていた。その僅かに見える目が余計に可愛さを引き立てて俺は立ったまま数秒間キュン死していた。

 少し電車に揺られ、何となく翠の様子が気になって、翠の耳元に顔を近付け声を掛けた。


「——— 大丈夫か?」


 すると、突然翠が俺の服を掴んで足をガクガクし始めた。どうしたんだ?



 ※  ※  ※



 宗介が珍しく耳元で話し掛けてきたと思ったら、宗介独特の低いトーンが私のなんかのスイッチを入れたらしく、一気に足の力が抜けてしまった。

 『感じた』とかそういうのでは無く、単に『弱い』ってやつだ。足に力が入らず、ガクガクする。


「どうした?」


 再び耳元で囁かれる。 ——— やん♡ それダメ♡ 部屋ならいいけどここではやめて♡

 私は宗介のブレザーフロントラインを引っ張り頭を下げさせた。

 そして宗介の耳元で、お返しとばかり吐息混じりに囁いた。


「それダメ……足、力抜けちゃう」



 ※  ※  ※



 俺は翠の耳元での囁きにエロさを感じ、『宗介の目覚め』に堪えながら電車を降り駅を出た……ふぅ……。

 ここから学校まで、何時もであれば他人の振りをして歩いていたのだが、今日はそんな素振りすら見せず、一緒に学校まで歩く。

 翠の肩が俺の腕に幾度となく触れてくる。俺に触れようと肩を寄せて来ているようだ。

 多分不安なんだ。

 俺は照れが入り体が逃げようとするが、翠の不安を受け止めるべく体が逃げないように耐えながら歩いた。

 周りに気を配るが誰も何の反応も示さない。


「翠、どう?」


 俺は翠に顔を向け、翠だけに聞こえるトーンで語りかける。翠も俺に顔を向け、俺だけに聞こえるトーンで話す。


「うん。平気。ちょっと怖いけど大丈夫」


 そして昇降口。靴を履くとバラバラに教室へ向かった。



 ※  ※  ※


 

 ——— 昼休み。いつものように空き教室で弁当を食べる。


「なんか、今までビビってたのなんだったの? て感じだよ」

「うーん……例えばな、幽霊って小さい頃怖かったよな?」

「うん。今でも怖いけど……小さい頃のは些細な事でも怖かったね」

「今は?」

「心霊系の番組とか観ればちょっとビビるけど……そんなもんだね」

「多分そう言う事だと思うんだ。知らないから怖い。知れば怖く無い」

「まさに今回のはそれだね」

「でだ、そうやって一つ一つ分かって行けば、翠の恐怖症も治ると思うんだよ。結構地道な努力は欲しいと思うけど」

「なる程。じゃあまずは、知らない事が何なのか知ることから始めればいい訳だ」

「そう。でもそれって眼に見えない物を理解する訳だから『空気を目で見る』のと同じ位難しいと思う」

「…………」

「どうした?」

「空気見てる…………」

「…………見えたか?」

「埃が舞ってるのが見えた」


 多分、俺達に気付いたクラスメイトもいたと思う。

 ただ、俺達はクラスでは純度の高いボッチだ。

 話し掛けられる事は無く、噂にもならなかった。この日から家から学校まで二人並んで会話しながら通うようになる。

 そして電車で悟りを開いたはずの俺だったが、藍ちゃんが電車で一緒になった時、彼女に密着された瞬間、その悟りは何処かへ消えた。それと同時に俺に『妹属性』が芽生えようとしているのでは無いかと、一週間自問自答の日々が続いた。


 ——— そして間も無く、奈々菜に劇的な変化が訪れる。

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