第54話 お盆だから爺ちゃんちに来た⑥
俺は行く先々で『お! 海苔干しの、今年も帰ってきたか』と声をかけられていた。
中には『海苔干しの孫娘、双子だったか?』なんてのもあった。
勿論、翠を見て『今年は彼女連れてきたか』という声もあったが、『キシちゃいの孫です』で全て通った。
屋台でかなり食べた。翠は右手にイカのポッポ焼き(串刺し)、左手にホタテの串刺し(三個付き)を持っている。
「前も思ったけど『キシちゃい』説明楽でいい……モグモグ」
「だな。俺も『海苔干し』で通じるからな」
「……ごっくん。でも、宗介の事皆知ってんだ」
「小学生の時から顔出してるからな。で、この顔だし、嫌でも覚えられちまうわな」
「同じ世代の子って居ないの? あむ……モグモグ」
「ん? 居るぞ。殆ど屋台のそっち側で焼き方してるけどな」
「モグモグ……ごっくん。え? あの人達って……」
「高校生だな」
「えー、なんか皆しっかりしてて大学生とかだと思ってた」
「こっちの奴ら大人びてっからな。考え方とかも全然大人だよ」
——— 暫くベンチに座って休む。櫓では太鼓を鳴らして盆踊りを踊っている。奈々菜と藍は色んな人と話をしているが何やら楽しそうに話している。
「食ったー……藍と奈々菜ちゃん楽しそうだね」
「あぁ、こっちの連中裏表無いから奈々菜も気を使わないんだよ」
「確かに皆宗介に興味無さそうだったね」
「『他所の土地の人間』程度の興味しか無いみたいだな。だから俺も毎年この祭りに顔出せんだよ」
「なるほど」
暫く休んで、最後に金魚掬いをする事になった。奈々菜と藍も合流している。
「え? お姉ちゃん金魚掬いやんの? やめた方がいいって」
「だってこれ見たらやんなきゃ駄目でしょ」
「どうなっても知らないよ」
翠と藍ちゃんのやり取りに、首をを傾げる俺と奈々菜。
「藍ちゃんどうした?」
「うーん……宗介君、後宜しくね」
「え……うん。よく分かんないけど分かったよ」
金魚掬いには今誰もいない。俺と翠の二人の貸切状態だ。翠の目がギラつき始める。
「オジさん二人お願いします。これって最高何匹貰えます?」
「三匹だね」
翠はそれだけ確認すると、ポイを手にして、そして俺に勝負を挑んできた。因みに金魚は貰う気は全く無いようだ。
「勝負! 勿論多く掬った方が勝ちね。勝ったら負けた人の言う事を何でも一つ聞く。期限は無期限。いい?」
「分かった……分かったけど……自信満々だな」
「えへへ……」
翠はポイを右手に持ち、右腕の袖を左手で捲って落ちないように押さえる。白く細い腕が顕になってる。
俺も、ポイを手に取り準備する。
「藍、掛け声よろしく」
「じゃあ行くよ。よーい……スタート!」
俺はポイを極力濡らさないように金魚を追いかける。片や翠はポイを全部水に浸して水の中から金魚を追いかける。
俺は一匹はなんとか捕まえたが、二匹目でポイが破れた。
「かぁー! 終わっちまった。翠は……はぁ?」
俺は目を疑った。
始まって数十秒。翠のお手元の椀には金魚が数えられないくらい入っていた。お椀は既に二つ目なっている。
「ねぇ、藍ちゃん、数えてる?」
「うん、今、二十六匹……二十七……二十九……」
同時に二匹掬う。
「翠すげぇ! 何この特技」
「三十四……三十五……三十六……あ、」
三十六匹でポイが破れた。
「お姉ちゃんすごーい」
気付くと翠の隣に小さい女の子がちょこんと座っていた。
「えへへー、凄いでしょ?」
翠は小さい子の言葉に応える。すると後ろからも声が聞こえて来た。
「何だ、キシちゃいんとこのか? うぉ! 何だこれ? すげぇな!」
その声に翠が後ろを振り向くと、かなりの
「やばい! 翠が……」
俺は慌てて翠を
「オジさん、金魚は小さい子にあげといて」
「どうした?」
オジさんの言葉も中途半端に宗介は急いでこの場を去った。
「ちょっとねー!」
俺は翠を抱きかかえたまま学校から出ると、バス停留所待合小屋を見つけた。その中の長椅子に腰をかける。
「ハァハァ……藍ちゃんが言ってたのはこの事だったか……」
「宗介ありがと。もう大丈夫」
「そうか、良かった」
「…………」
「…………」
俺は翠を下ろす事なく、膝の上に乗せていた。
重さが適度に心地良く、翠のお尻の温もりもいい感じに伝わって来る。なんか生々しい感じだ。
※ ※ ※
私は力が入らず宗介の胸に頭を付けてもたれ掛かっていたが、視線も無くなり体に力は入るまで回復した。したけど……宗介の心臓の音……もう少しこうして居たい……かな?
すると藍と奈々菜ちゃんが陰からヒョコッと顔を覗かせた。
「お兄ちゃ……ちょっといつまで抱っこしてんの?」
「え? あ、す、翠さん、もう、だい、大丈夫?」
「え、あ、はい、私、わた、わた……大丈夫。うん、もう大丈夫。ありがと……ははは」
照れと焦りが二人をギクシャクさせる。宗介は私をそっと椅子に降ろす。そして二人でモジモジしている。
「だから言ったのに」
「ごめんごめん」
「でも翠にあんな特技があったとは……」
「最高四十八匹ね」
「はぁ⁈」
「約束は守って貰うからね」
「分かったよ」
四人はそのまま家路に着いた。
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