第48話 誕生日

 ——— とある日の部活だ。私は藍といつものように学校に着く。グラウンドに目をやると成宮と滝沢君が誰も居ないグラウンドを走っている。いつもの光景だ。

 しかし、彼等のソフトテニスに対する熱意は凄いと言っていいのか、私に対する熱意なのか分からないが、入部から今日まで継続している事は悔しいけど尊敬に値するし努力は認めなきゃならない。

 しかし、こんなに認めたい気持ちを否定したくなる感情を抑えなきゃならないってどう言う事? 


「アイツら今日も気合い入ってるね」

「うん。少々の雨でも走ってるもんね」

「凄いよ……凄いんだけど……」

「気持ちは分かる。認めたくないよね」

「そうなの! 何であの努力の行き先が『私とのラリー』なの⁈ こんな努力の無駄使い見た事も聞いた事もないよ!」

「いいじゃん。奈々菜目的で入部して、今でもちゃんと『真壁っち〜♡』って恥ずかし気も無く口にして、それに向かって真っ直ぐ進んでんだもん。私なんてそっぽ向かれたからね。しかも二回も」

「へ? 二回目あったの?」

「うん。『私と打ち合いたい』って言いながら『ボールの感触最高!』って話したよね?」

「してたね」

「でさ、この前『一緒に打つ?』って聞いてみたらさ……」

「聞いてみたら?」

「『ちょっと今何か掴みそうだから邪魔しないで』って……」

「……何だかまだ私に揺るぎなくベクトル向けてる成宮がいい奴に思えてきた……」


 男の子に興味を示さない私達だが『モテる』に対するプライドは少なからず持っている。

 やらしい話、私達が一声男の子に「付き合って」と言えば誰でも余裕で付き合って貰えると思っている事も事実だ。尤も、それを滲み出す事すらしないからこその話でもある。

 

「落ち込まない。そういう人もいるって事だよ」

「だよね……うん。そのうち滝沢君をしっかり私に振り向かせて見せるよ」


 藍、それ……好きな人に対するセリフ……。



 ※  ※  ※



 ——— 八月六日。俺と翠の誕生日だ。

 家ではそれをキッカケに宴会を開く。

 今回は桜木家で開催だ。宴会は月一回開いていて、偶数月は桜木家。奇数月なら真壁家だ。

 食事も終わり、子供達は皆翠の部屋にいた。翠の部屋に入るのは三回目だ。誕生日のプレゼントを互いに交換する。

 バイトを始めてまだ二週間ちょっとだ。当然バイト代はまだ入っていない。

 小遣いも多いわけではないので互いに手作りの物を贈る事にした。一応、ある程度の決まり事を作らないと、片方だけやたらと高価なものになったりするから注意が必要だ。


「今ミサンガってファッションとしてどうなの?」


 俺からのプレゼントは細めのミサンガを十本だ。勿論手作りである。通常、ミサンガは結んで取らない物だが、俺のは一本を残して、残りは全て取り外し可能な状態に作っている。

 なのでミサンガ風ブレスレットとでも言うんだろうか?


「それって願掛けでしょ? 願掛けに流行りも何もないよ。ありがと。付けてくれる?」


 俺は翠の言葉に従って取り外し出来ない一本のミサンガを左手に付けてあげた。


「願い事はちゃんと考えた?」

「一応ね。でもこれ、折角宗介に貰ったんだ、切れないで欲しいな」

「……そう考えるとプレゼントとしてミサンガって微妙だな」

「あはは、そうかもね」


 今度は翠からプレゼントを手渡される。


「私のも似てるけど……はい」

「これって……パラコード?」

「うん」

 

 翠のプレゼントはパラコードを編み込んだブレスレットだ。色はコヨーテだ。


「ありがと。それじゃあ……俺にも付けてくれるか?」

「うん」


 翠はパラコードブレスレットを俺の左腕に付けた。普通のよりちょっと太い気がしたが、バックルはプラスチックの物が付いていて、ワンタッチでカチッとハマった。


「ありがと。これ……手作りか?」

「正解。ミサンガと同じね。この手の物って結局編み方同じだしね」

「確かに。うん、大切にするよ。ありがと」

「あ、それ解くと4m位になるから、重さも150kg位は余裕で支えるみたい。いざって時は解いて使って」


 4m……太いと思ったが気のせいじゃ無かったようだ。


「分かった。その時は遠慮なく使わせてもらうよ」


 そして、奈々菜と藍ちゃんからもプレゼントがあった。


「えへへ……私達からはこのケーキね」

「私と奈々菜ちゃんで作ったんだ」


 二人からは手作りのケーキだ。少し歪だがそれがまたいい味を出してて『手作りだからこその美味しさ』感を十二分に醸し出していた。


「なんか歪なんだけど……」


 藍ちゃんがなんとなく申し訳ないような顔をしている。

 

「藍に良いこと教えてあげる。お兄ちゃん、こういう手作りのものって、形が整って無かったり味が一味足りない方が『美味しい』って思ってくれるんだよ。だからこれ、お兄ちゃん的には、見た目に美味しいって思ってるから大丈夫」

「そうなの?」

「そう。なんか『手作りのお菓子』って、未完成な感じがいいんじゃん? 一生懸命感が出てさ。だからこれ、既に見た目が美味いから安心して」

「そうなんだ。なんか複雑だな……でもありがと」

「こっちこそ有り難うだよ」


 ケーキの上には「1」と「6」と書かれた蝋燭が刺さっている。部屋を暗くし、蝋燭に火が灯る。そして奈々菜と藍ちゃんが歌い始める。


「ハッピバースデートゥーユー ———♪」


 歌い終わって俺と翠が二人で蝋燭の火を吹き消すが、なんか変な『照れ』が入る……何だこれ?

 俺は妙な気分になり翠に目を向けると、翠はそっぽを向いて手で顔を扇いでいた。翠の耳は真っ赤になっていた。どうやら俺と同じ気持ちだったようだ。

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