第47話 宗介と翠がバイトする②
——— 夏休みに入り、バイト生活を満喫している。
バイト先でも俺と翠は周りの人と必要以上に話をせず、勿論、俺達自身も必要以上の会話をせずに居た。
ただ、些細な雰囲気や空気感を察する人はいるもので……。
「真壁君と桜木さんって付き合ってんの?」
「はい? 藪から棒に何ですか突然」
店長は棚卸しのやり方を教えながら俺に質問して来た。
店長は俺と翠のプロフィールは履歴書を見て把握している。誕生日が同じところまで知ってるかは分からないが、住所が同じである事は知っていた。
「いや、君達同じマンションで部屋も隣で、様相も似た感じなのに、お互い意識して無視してるような雰囲気あるからさ。付き合ってる事周りに隠す奴って居るだろ? 何となくそんな空気感じただけだ」
翠はレジを担当していてここに居ない。当店はレンタルは100%セルフレジで、中古品を売りに来たお客さんを対応している。
さて、翠が居ないこの場でどう答えたものか……。
「実は……まぁ……付き合っては居ないんですが……これからですね」
俺は『好意がある』程度に言葉を濁した。
実際好意はある。なんせ素顔は可愛いし性格も、後先考えず人を助けるような子だ。
料理も出来るし勉強もできるしスポーツも出来て……何このパーフェクト姉ちゃん。今気付いたが欠点有るのか?
「あんまり『くっつけよう』とか気を利かせないで下さいよ。俺、そういうのやられると結構シラけちゃうタイプなんで……」
「分かってるよ。ま、付き合ってたとしても店でイチャ付かなきゃそれでいいよ。以前それで店が変な感じになった事あったからな。一応、忠告兼ねて言ってみただけだ」
「——— 分かりました。そこは気をつけます」
因みに店長は三十台後半の『意識高い系』な雰囲気を出している独身だ。
聞けば、仲間内で色々とイベントやら何やら引っ張って盛り上げていたら、周りがどんどんくっ付いて結婚して、気付いたら一人取り残されてたらしい。
今の仕事は経営系シミュレーションゲームが好きで、リアルにこの店で実践してたら店長に抜擢されたという。因みに県内限定で転勤があるそうだ。
※ ※ ※
——— バイトが終わって私は今、宗介の部屋に居た。いつもの事だね。
私は宗介のベッドに横になって部屋から持って来た雑誌を眺めていた。宗介はベッドに持たれ掛かって雑誌を開いて眺めている。
「——— って事があったわけだ」
「へぇ、店長鋭いな。でも、他の店員に私達が仲良しなのバレても別に問題なく無い?」
「うーん……だな。店員にバレたところで何もなんないな。だったら自然体で行くか?」
「ただ、ひょんな事から仲良く話してるトコとか学園の子に見られたら……」
「『桜木さんってあんな笑い方するんだね』とか言われたり? あり得るな」
「ちょっと待って、宗介今どっから声出した? 何それ? 誰の声真似?」
宗介は突然甲高い裏声で、誰の物真似か分からないが、女性っぽい話し方で誰かの声真似っぽい事をした。
突然、宗介の意外な一面を見せられた。
「あはははは、何それ、宗介もそんな事やるんだ。あはははは」
「ん? 俺はやる時はやる男だからな」
「何それ、あんな声の後に ——— あはは……そんな——— あー、キメ顔で……んップ……渋い声出されても ——— ひー……、ウケるだけだって……あははははは ———」
宗介は偶に変な事をやる。そこが好きっちゃ好きだ。
そう言えば……。
「何? 店長に『これからですね』なんて言ったみたいだけど、これからなの?」
私は聞き逃さなかった。ハッキリ聞いた。
そして、さり気無く、素っ気なく、恥ずかし気無く、真顔で宗介に聞いてみた。
「あ? あぁ……んあ? そんな事言っ……ったっけ? な、何がこ、これからんなん、なんだ?」
宗介慌てて忘れたふりして目を逸らす。顔が真っ赤だ。ンフ♡ 可愛いにも程がある。
「ん? 今なんか言ったか?」
「え? 気のせいじゃない?」
思わず本心が口から漏れた。
大体、女の子は好意が無きゃ男の子の部屋になんて上がり込まないっての!
しかも毎日も。
流石に露音おばさんには気付かれてるけど、宗介もいい加減私の気持ちに気付け!
※ ※ ※
翠は突然不機嫌な感じになった。笑ったり不機嫌になったりと忙しい奴だ。ま、奈々菜もそんな時がある。これが女ってもんなんだろう。
俺は再び雑誌を読み始めるが、何だか耳の奥が痒くなって来た。俺は机の引き出しから耳掻きを取り出して自分で耳掻きを始めた。
「耳掻き?」
「あぁ、見ての通り」
「やってやろうか?」
「やってくれるか?」
「いいぞ?」
「やめとく」
「なんで?」
「だってお前……女の子が耳掻きしてくれるって、それ膝枕するって事だろ?」
「そうだぞ?」
「そうだぞって、お前今履いてんの短パンだろ。太腿丸出しだよ? 正直目のやり場に困ってたのに、お前の素肌に直に頭乗せんの? ちょっとハードル高く無いか?」
「目のやり場の困ってたんだろ? 私の太腿に頭乗せれば太腿見る事なくて目のやり場に困んなくなるぞ」
「いや、理屈はそうだが、お前いいのか?」
「いいから言ってる。嫌なら部屋にすら来ない。安心しろ。痛いのは最初だけだ。慣れれば痛く無いよ。穴ん中に先っぽ入れるだけだから。な?」
「『な?』じゃねーよちょっと待てよ。そもそも痛いのか? 下手なのか?」
「うーん……初めてだから……上手く出来ないかも」
「んじゃ遠慮しとくよ」
「ウソウソ。藍のしょっ中やってるから大丈夫だよ」
「そうか、だったらお願いするか……」
翠はベッドの上に腰掛け、そしてベッドに敷いてあったタオルケットを膝に敷き、膝の上を手でポンポンと叩いた。
俺は膝に敷かれたタオルケットにちょっと安心しつつもガッカリした。
俺は翠とは反対の方に顔を向け頭を乗せた。
しかしタオルケット越しとは言え太腿の感触は柔らかい。人類で最初に膝枕をやった人に敬意を表す。
俺は黙って翠の耳掻き捌きに身を委ねる……気持ちいい。そして心地良い。
すると翠は突然俺の耳に息を吹きかけた。
「あん♡」
「何今の声?」
「うるせぇ、耳に息吹きかけられたら誰でも『あん♡』って出るだろ!」
「あはは、そんな出ないって。はい、次反対」
俺は頭を翠側に向きを変えた。仰向けになった瞬間、翠と目が合った。俺は動きを止め、翠の顔に魅入ってしまった。
下を向く翠の短い髪は前に垂れ、顔が陰になっている。口元はちょっと微笑み加減で、メガネの向こう側には大きな目と瞳が俺を見ている。下を向いてるので若干二重顎気味なのもちょっとしたアクセントだ。何この天使。
「何見てんの。早くお腹向いて」
「お、おう」
俺は翠のお腹を向いた……向いた瞬間俺はそこに桃源郷を見た。何だこれ!
お腹に顔を向けた瞬間、お腹に籠る温かい空気。翠の温もりが顔面を包み込む。そして鼻先を擽ぐる翠独特のいい香り。俺は余りの心地良さに ———
——— 秒で寝てしまった。
※ ※ ※
私が宗介に耳掻きをしていると、宗介は寝てしまった。可愛い寝顔だ。
私は起きるまでそっとしてようと思ったが……いや、そっとしてない。頭撫でたり鼻先チョンチョン触ったり、鼻の穴に指突っ込んでみたり、中々起きなかったので色々悪戯してみた。写真も撮った。
流石に時間も遅くなったので、彼の頭をそっとずらして布団を掛け、私はそっと部屋を出た。
「おやすみ宗介」
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