第42話 宗介の部屋③

 ——— 奈々菜ちゃんの話は結構コッテリだけど、の話は単純に嫉妬……なのかな? 

 あの『メガネ君』の事を考えると、怒りともちょっと違うよく分からない感情がモヤモヤと胸の中に広がってくる。間違っても恋愛的な感情では無い事だけはハッキリ言える。


 滝沢君は以前、私の事を「どうでもいい」と言った。しかも面と向かってだ。

 今まで人に突き離されるような事を言われたのは、お姉ちゃんからの「あんた邪魔! あっち行って!」位だ。

 大体、入部の動機は「桜木さんの傍に居たいから」だったくせに……なんなの? 今じゃ、『筋肉ガー』って、完全に私の事、眼中に無くなってる感じだし……。


 ——— そんな話を宗介さんとお姉ちゃんにしていたら、奈々菜ちゃんが私のイライラに気付いたようだ。


「何? 藍ちゃん筋肉に嫉妬?」

「嫉妬……じゃないと思うけど……大体、本人目の前にして『どうでもいい』って酷くない? 私が目的で入部したって言ってたのにいきなり方向転換されたら頭くんじゃん! で、また『藍ちゃんと打ち合いしてみたい』なんて言ったかと思ったら今度は、『ボール打った時の感触がたまんない』なんて言って私の事また無視するし……」


 私はこの怒りにも似た感情がなんなのかよく分からなかった。嫉妬ともちょっと違う。でも、この事がきっかけで私は彼を意識し始める。



 ※  ※  ※



 忘れちゃってるかも知れないけど、今日は真壁家で宴会だ。そして今、私と藍は宗介さんの部屋にお邪魔しているところだ。

 私は宗介さんの部屋に来たら見せて貰おうと思っていた物が在ったんだけど……何だったか忘れちゃった。


 私と宗介さんは、藍と奈々菜ちゃんのソフトテニス部での話を聞いていたわけだけど、私達二人はちょっと驚いていた。と言うのも、私は藍がここまで一人の子……しかも男の子の話をするのを見た事がなかったからだ。宗介さんも奈々菜ちゃんのこんな姿を見たのは初めてだと言う。

 奈々菜ちゃんは怒っているような呆れているような複雑な表情だ。

 藍もなんだか複雑な気持ちのようだ。

 

「部活か……」


 私はふと口にする。

 部活で汗をかいていた頃を思い出していた……なんだか懐かしい。

 

 ——— でもなんだろう? 何か大事な事を忘れているような……あれ? 此処に来たら宗介さんにお願いしようと思ってた事が有ったんだけど……何だっけ?

 何かを思い出そうとしている私の様子に気付いた宗介さんが、私の顔を覗き込む。


「翠さんどうした」

「うん、中学時代の部活の事思い出してたら、宗介さんの……あ! 思い出した! アルバムだよ。卒アル。宗介さんの卒アル見たい。ダメ?」

「え、別にいいけど……」 


 宗介さんはベッドから降り、そして本棚から卒業アルバムを取り出し私に渡してくれた。

 私と藍はそのアルバムを開き覗き込んだ。

 まずは各クラスの写真からだ。


 私は一枚一枚捲ってはゆっくり眺めて行く。

 隣に宗介さんが居るが何も言って来ない。

 こういうのは『探す』のが醍醐味だ。宗介さんはそこんとこ分かってるようだ。

 するとページを捲った瞬間に私と藍の網膜にイケメン越えの顔が飛び込んできた。


「いたー! 宗介さんはっけーん♪ 全然カッコよすぎ。でもちょっと幼い? これ撮影まだ一年経ってないよね?」

「経って無いな」


 私はテンションが上がった。上がりまくった。藍と二人で暫く写真の宗介に見惚れる。そして藍がはしゃぐ。


「―――やば。隣に『素顔の生宗介』居るのに、写真の宗介さんに見惚れてたよ」

「ははは。恥ずかしいからあんま見ないでくれよ」

「そう言われてもねぇ」

「ねぇ♪」


 私と藍はそう言って顔を見合わせ、そして宗介さんの顔を見る。宗介さんも困惑した顔だ。



 ※  ※  ※



 翠さんと藍ちゃんはキラキラした目でマジマジと俺の顔を見る……やっぱりだ。

 今までの女の子達と違って、やはり二人の視線からは何故か何も感じない。

 母親と妹と同じ感覚……何も感じないから『感覚がある』という表現はちょっと変だがそういう『感覚』だ。

 するとアルバムは部活のページに入ったようだ。そして ———、


「――― あ、バスケ部だ♪ ……宗介さん発け……ん? 何、……全国大会優勝? え? この賞状、全国大会準優勝って書いてるよ」


 その写真はバスケ部員が並んでいて、中央に座る人物が賞状を持っていた。


「お兄ちゃんのチーム、全国大会で準優勝してんの」

「え ―――! マジ? 凄いじゃん!」

「ついでに負けたの、あの柳生流星の学校な」


 俺は、アルバムを一枚捲り、文化祭とか大会とかが写っているページを見せ、そして一枚の写真を指差した。


「これって、柳生君だ……へぇー、二人マンツーで写ってるってなんか運命めいたもの感じちゃうね」

「確かに他県の全く縁のない高校に入学して顔を合わせるなんて夢にも思わないわな。多分、あいつに俺のこの顔見せればすぐ思い出すんじゃ無いか?」

「確かに宗介さんの顔、一回見たら忘れないもんね……」


 翠さんはそう言いながらページを戻して再びバスケ部の写真を見る。


「あれ? 宗介さんも賞状持ってるけど……」

「それ、最優秀賞だな」

「うっそー! 最優秀賞って普通、優勝チームから選ばれるもんじゃ無い? え? 優勝チーム差し置いて賞貰ったんだ⁈」

「まぁ……な」

「うん、お兄ちゃん、大会の個人最多得点の記録倍近く塗り替えたんだもん」

「倍? ……倍って凄過ぎ!」

「そうだ。翠さんも卒アル持って来てよ」

「えー、私のはまた今度。部屋に遊びに来た時ね」

 

 ——— この日の騒ぎはここまでだ。

 そして連休が明けると、中等部ソフトテニス部では奈々菜と藍ちゃんが個人戦ソフトテニスはダブルスで選手に選ばれた。


 ——— 六月。体育祭が始まるがその前に……。

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