第43話 体育祭 その1
——— 五月の末に行われた中総体市内大会で奈々菜と藍ちゃんが
学園内は当然騒ぎになった。
ついでに大会でも『双子のような美少女ペアが優勝』と、ちょっとした騒ぎになったのは言うまでもない。
——— 間も無く高等部の体育祭が始まる。組は「東軍」と「西軍」に分けられ、クラス単位でくじ引きで振り分けられる。俺と翠さんのクラスは別の組になってしまった。
「組が一緒だったらちょっとは楽しめたのに……残念」
「俺らは全力出せないから結局楽しめないよ」
俺も翠さんも本気を出せば人並み以上の運動能力があると自負するが、目立つのは不本意だ。余り目立つ競技には参加しないようにした結果、
「宗介さんは何の種目に出るの?」
「俺? 俺は綱引きと借り人競争」
「借り人は私と一緒だね」
「もう一つは?」
「妨害玉入れ」
「無難だ」
「流石に汗掻くような競技はね」
「その『妨害玉入れ』ってどんな競技なんだ?」
「まず、玉入れそのものは普通なんだけど、内側にディフェンスゾーンってのがあって、そこに妨害する人が居るの。妨害者はそのゾーンから出ないのと、相手の体に触れなければ、何を使って妨害してもいいってルール」
「結構高校生向きな競技だな。俺もそれにすれば良かったかな?」
「宗介さんって興味が無いと適当に決めるよね?」
「……はい。妹によく怒られます」
「ふふふ、奈々菜ちゃん厳しいね」
※ ※ ※
——— そして体育祭当日。
俺が参加した綱引きは無難に終わった。
ただ、男女混合なのだが、意外にも運動部の熱の入り方が半端無く、大いに盛り上がった。
そして気付いたのだが、団体戦なので全力を出しても実力を気付かれる事は無かった。なので俺は全力を出した。勝敗は……どうでも良いとして、『来年も参加しよう』と、密かに決意した。
翠さんが参加する『妨害玉入れ』は、八つのカゴと其々に妨害者が二人ずついる。妨害する道具がユニークで、どう見ても妨害出来ないだろうというウケ狙いのアイテムから、アイテムが『壁』そのものだがそこから移動が出来ないものなど様々だ。
妨害するアイテムは個人が各々に準備している。妨害者はカゴの移動は出来ないが、入れる側はカゴの移動は自由だ。
カゴの高さも様々で、やたら高い籠も有れば人の背丈程度の高さのものもある。バレーのネット程の高さのカゴはバレー部とバスケ部がオフェンスに集まり、ディフェンスもバレー部バスケ部が担当したようだ。なのでこのカゴだけやたらと白熱した戦いを繰り広げていた。ついでにこのカゴは暗黙のルールでディフェンスは道具は使わず素手だ。なので皆ピョンピョン跳ねててなんか変な感じになっていた。
ついでに翠さんはカゴは移動せず一つのカゴに玉を入れ続けた。そして例のシュート力を何気に使っていて、実は翠さんが担当したカゴの得点の半分以上を翠さんが稼いでいた事は翠さん自身知らない話であり、俺を含む周りの人も気付いていなかった。
そして、そのカゴだけ異常な点数を叩き出していた。
——— 『借り人競争』の時間だ……二回実施したのだが二回ともちょっとした審議が入った。
一位でゴールした人のお題が『ヅラの人』だった。そして連れて来られた人は教頭先生だったのだが、教頭はカツラを帽子を脱ぐように頭から外す。当然、会場はドッと沸く。
これはいつもの事で、教頭は自分がカツラを被っている事は公にしており、自分でもネタにしている。
暑い日は人前でカツラを取って汗を拭くと言う事は普通にしており、偶に金髪のカツラを被って来たりする。
そんな教頭が司会のマイクを奪い取り、カツラを高々と天に突き上げ、顔を真っ赤にして突然怒鳴った。
「これはヅラじゃねぇ! 『ウィッグ』だ!」
会場はヤンヤヤンヤの爆笑の渦となり、審議は却下され順位も変動は無しとなる。
——— 二回目も教頭が借り出されるも今度は司会から審議が入った。
お題には 『イケメンの先生』と書かれていたのだ。
すると教頭は再びマイクを手に取り熱弁した。
「俺がイケメン教師じゃなきゃ、他にイケメン教師なんていねぇだろ!」
右手にマイク、左手には「ウィッグ」が握られている。態々ウィッグを外す必要は無いのだが……暑いのか?
教頭は審議に対して全力で熱弁、そして否定してきた。
会場の評価は東軍と西軍で二分した。
自分らのチームの得点に直接影響されるからだ。
そして判定は学園長に委ねられた。校長はマイクを手に朝礼台上に立つ。
「審議の結果、学園一イケメン先生は私なので ——— 失格!」
ドングリの背比べと言いたいが、実際、学園長は渋い感じでダンディーだったりする。保護者の奥様たちは勿論だが、翠さんの話によると、実はおじさん好きの女子生徒数人が狙っているとの噂も聞こえているそうだ。
ただ、『〇活』みたいな感じになるので、学校に迷惑どころか学園長自身に迷惑が掛かるということで、皆一歩下がって見ているらしい。
流石良識ある進学校だ。
ついでに翠さんの借り人は『学級委員長」。俺は『メガネの人』と無難な人だった。
「借り人競争、一緒の組になったから何かあるかと思ったけど……無かったね」
「俺の借り人『メガネの人』だったから翠さん連れて行こうと思ったんだけど……流石にダメだよな」
「うん。正直ゴールでちょっと発作起きかけたんだよね。でも視線が遠かったのが幸いだったのと宗介さんの背中見て何とか耐えた」
「それ、結構やばく無いか?」
「うん……来年はちょっと考えないとね」
「俺、気付いたんだけど、集団でやる競技は全力出しても注目浴びない事を発見した」
「……そうだね。なんで気付かなかったんだろ?」
「だから来年は、また綱引きやろうと思ってんだ。あと玉入れ」
「いいね。私もそうしよ」
「そう言えば教頭のズラって翠さん知ってた?」
「知ってた。実は、私が自分のを『ウィッグ』って呼んでんの、教頭先生からの熱い指導のせいなんだよ」
「そうなの?」
「最初に病気の事説明しに来た時、お父さん『カツラ』って言う度、教頭先生『ウィッグ』って言うもんだから、お父さんも諦めて『ウィッグ』って」
「そう言えば、生徒手帳に書いてる校則読んでたら変なの有ったな。『理由があってウィッグを付ける場合学園長と教頭に理由を説明し、身に付ける許可を貰う事。学園長と教頭はその事を外部に開示してはならない。ただし理由によっては必要に応じて必要最小限の者に情報を開示できるものとし、開示された者はその情報を他に開示してはならない。また、第八条二項に示す個人情報と同じ扱いとする』っだったかな?」
「それ、私の為の校則なの」
「へ?」
「私の行為って、宗介さんの『イメチェン』と違って『変装』だからね。これって偽称的な行為でしょ? それ擁護するのにこの条文付け加えたんだって」
宗介は一人の生徒に為にルールを作る姿勢に学園長と教頭の背中に『真のイケメン』を見た気がしたが気のせいだった事は言うまでも無い。
——— 今回の話はここまで。
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