第45話 宗介と翠の距離②

 ——— 翌日、今日は日曜日だ。昨日に引き続き、私と藍は真壁家のリビングで勉強をしていた。


「奈々菜ちゃん、ここの公式、教科書だけじゃちょっと分かんないよね?」

「どれ……あー、うん……だね。多分この公式とこの公式……あれ? …………あー……思い出した。部屋にある参考書に書いてた。ただ、どの本かちょっと探さないと……」


 奈々菜ちゃんはそういうと、テーブルに広げ物を片付け始めた。


「私達、私の部屋で勉強する。あっちで参考書見ながらやった方が効率良い」

「えー、あっち行っちゃうの? うーん……お姉ちゃん、宗介さんに手、出したらダメだよ」

「出さないよ!」


 そう言って、奈々菜ちゃんと藍は奈々菜ちゃんの部屋に移動した。

 リビングに取り残された私と宗介さんは暫く黙って勉強するが、


「宗介さん、この問題、分かる?」

「えーっと……うん、分かるんだけどちょっと口で説明出来ないな……ちょっと部屋行くか? 参考書沢山あるし……」

「えー! 宗介さんと二人きりぃ? 何かするんじゃ無いでしょうね?」


 私はジト目で宗介さんを見ながら自分の体を守るように自分を抱きしめる。

 ま、私のリアクションはあからさまに冗談だ。宗介さんもそれを知って悪ノリする。


「うーん……どうしようかな? して欲しいってんならしてやってもいいんだからね」

「あはは、何その上から目線のツンデレ言葉。しかも使い方が微妙に下手くそなんだけど」


 宗介さんはなんか罰が悪そうな恥ずかしそうな不思議な表情になってる。ふふ……赤くなっちゃって可愛い♡


 この日を境に藍と奈々菜ちゃんは、互いの部屋を行ったり来たりして勉強をしていた。私は宗介さんと宗介さんの部屋で勉強をした。ついでに言うけど、エロ展開とか誘惑するようなエロい格好とかは一切無いので悪しからず。


 この状況に、「しょうがない、宗介さんはお姉ちゃんに譲るか」と、藍は私に対して余裕のコメントを残している。



 ——— そして私はこの勉強会の流れを逃さなかった。


「ね、明日のお昼休みさ、一緒にお弁当食べようよ。そんでそのまま勉強しよ」

「何処で?」

「旧校舎の空き教室。実は教頭先生から鍵預かってて『色々隠さなきゃダメだろうから自由に使っていいよ』って言われてんだ」

「教頭って、なんか翠さんに対して甘いよな……なんか裏が有りそうなんだが……ま、俺としても昼休み教室から離れられるなら願ったり叶ったりだな。結構、休み時間の教室の喧騒って苦手でな」

「んじゃ決まりね」

 

 もうお分かりだろうが、私は宗介さんに対して好意を抱いている。というか、後にも先にも私に『友人』と呼べる人が宗介さんしか居ないのだ。

 大体、朝起きたら真っ先に宗介さんの『超絶イケメン顔』を見て、学校が終われば一緒に買い物なんかも行って……格好良くて優しくて力強くて……そんでもって最近じゃ寝る前にベランダで少しお話しなんかして……そんな人が常に傍に居たら好意以外に何を寄せたらいいのかって話だ。

 そもそも初めての感情だ。感情に伴う行動の欲求を抑制する術は私には持ち合わせていなかった。


 ——— 翌日の昼休みから毎日二人で弁当を食べる事になった。

 私は一人旧校舎へ誰にも気付かれないように移動する。鍵を開け、中に入ると結構埃っぽいかと思ったがそうでも無いようだ。

 窓を全開にすると外からバレるので、バレない程度に小さく開ける。

 そして机を二つ向かい合わせて並べて席に座り、弁当を机に置いて宗介さんが来るのを待った。

 すると一分もしないうちに、——— ガラガラガラガラ……っとそっと戸が開いた。そしてゆっくり宗介さんの姿が現れた。


「ここか……お待たせ」

「大丈夫。まだ一分も待ってないよ。座って」

「お邪魔しまーす」


 宗介さんは周りをキョロキョロしながら席に座り、弁当を机に出した。

 私はなんだか嬉しくてニコニコしていた。ニコニコしたまま宗介さんの顔を見る。

 宗介さんは真顔で私の顔を見ている。


「んじゃ食べよっか。頂きまーす♪」

「だな。頂きまーす」


 弁当の蓋が開くと、宗介さんの弁当のおかずに唐揚げが入っていた。

 ついでに、私の弁当は私がおかずを詰めているのであんまり楽しみではなかったりする。


「ね、その唐揚げと私のおかず交換しよ♪」

「えー……俺唐揚げ好きなのに……」

「だって露音おばさんの味、結構好みなんだもん。コレあげるから」


 私はそう言って勝手におかずを交換する。宗介さんは仕方なく私から貰ったおかずを頬張るが、


「うん! これは美味い! おばさんの味付け俺好みかも」

「あ、それ私作ったの。えへ♡」


 てな感じで、今日を境に二年生になるまでこんな感じの昼休みが続いた。

 勿論テスト前は、テスト勉強をクイズ形式だけどしっかりやっていた。

 

 ——— そしてテストが終わり、結果の日。昼休みに掲示板に順位が張り出される。

「翠さんは見に行かないの?」

「人混みやだしいいよ。それに順位、後で配られるし」

「だな。俺もいっか」



 ※  ※  ※



 ——— 昼休み、芹葉は掲示板に張り出された中間テストの順位を見に来ていた。掲示板の前では、上位100名の順位が点数付きで張り出されていた。尚、教科は国語、数学、理科、社会、英語の教科に関わる試験の合計点だ。

 この学校は進学校だ。他の教科の点数はどうでもいいって感じだ。


「おい、真壁宗介って何もんだ? 満点ってスゲェな」

「確か入学式ん時、代表で宣誓した奴だったような……」

「ああ! あの……あれ? モッサイ感じしか思い出せねぇ」

「ねぇ、三位と四位に深川さんと江藤さんの名前載ってる。美少女で才女って……天は二物をお与えになられるのね……」

「中等部の時からだもんね。でも深川さん一位取られちゃった」


 一位の「満点」と言うインパクトと、中等部から成績が上位だった私と来羅の名前が際立っていたのか、二位の子には誰も触れないでいた。

 ただ、私と来羅は……、


「ね、来羅? 『桜木翠』さんって……知ってる?」

「うーん……一応、同じクラスだけど……話とか全然しないから分かんないな……芹葉も悔しいって思うんだ」

「うーん……悔しいって言うよりは……『私を成長させてくれる存在であれ!』って感じ? 来羅と同じ存在になって欲しいな」

「アリガト。そうだね……多分なれるんじゃない? ただ、あんまり目立つの好きじゃ無い子みたいだから、そっと近付くんだよ」

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