第44話 宗介と翠の距離①

「体育祭の次は中間テストだね? って事で私と一緒にテスト勉強しない?」


 私は思い切って宗介さんを誘ってみた。

 何しろこの誘いは、『宗介さんの部屋に上がり込もう』且つ『二人きり』という下心が少なからずあるからだ……グヘヘ♪


「別にいいけど……何処で?」

「宗介さんの部屋……ダメ?」


 私は宗介さんの顔を覗き込む。上目遣いで可愛らしさをアピールするが、前髪で目が隠れて余り見えてないと思う。

 一応、口元をちょっとアヒル口っぽい感じにして可愛らしさをアピールしてみる。


「うーん……別にいいけど……えー!」

「『えー!』ってどういう意味?」

「だって男女が同じ空間に二人きりって……ちょっと不味くない?」

「何? 私の事嫌いなの?」


 そう言い放ち、私はちょっと拗ねてみる。

 これも『あざとい』仕草だ。

 そして追い討ちの『ホッペぷくぅ〜』でプンプン怒ってみる。

 宗介さんは顔を赤くして私から視線を外す。へっへーこれは効いてる♡



 ※  ※  ※



 ——— さっきから翠さん何なんだ? 


 俺は翠さんの仕草に一々『キュン死』しかかっていた。

 そして今も翠さんは口を膨らませて怒っている。目元は隠れて表情そのものがよく分からないが、逆にそれが『キュンキュン』来る。


 ——— これで目元が見えたらどうなるんだ? 俺、何回死ねばいい?


「嫌いじゃないけど、そう言う話じゃなくて……」

「じゃあ、妹達も一緒ならいいでしょ?」

「それだったら……まぁ……」


 そして、土曜日から一緒に勉強会が始まる。


 ——— 当初、俺の部屋で勉強しようという話だったが、部屋のテーブルは炬燵こたつサイズで少々小さい。なので大きいローテーブルがあるリビングで勉強する事にした。

 因みに親父は休みの日は晴れていれば釣りかゴルフに出掛け、お袋は土日はパートで昼過ぎに帰ってくる。なので午前中の今は子供達しか居ない。

 ついでに言うが、お袋の休みは平日なので悪しからず。



 ※  ※  ※



 最初は二人きりと思っていたが、実際同じ空間にいると妹達が居ても一緒に居るだけで満足していた。

 ただ、今座っている配置にはちょっと納得がいかなかった。

 テーブルは長いので二人ずつ対面で座っているのだが、宗介さんの正面には奈々菜ちゃん。これはまぁいい。そして宗介さんの左隣に藍……何で藍なの? で、藍の正面に私が座っていた。私と宗介さんの位置は対角線上だ。


「宗介さん、この問題教えて」


 藍は問題が書かれた本を宗介さんに差し出して聞く。当然宗介さんは問題を見ようと藍に体を寄せるのだが、それに併せて藍も宗介さんの方に少し体を寄せて行く。しかも顔が近い! 藍の奴、狙ってやってるな? 

 すると、


「藍ちゃん近い! 何、さり気無くくっ付こうとしてんの! それは藍ちゃんでもダメ!」


 と、奈々菜ちゃんからクレームが入った。


「えー、気のせいじゃ無い? そんなに近かった? ふーん……そんな事無いと思うけど?」


 藍はとぼけた感じで答える。そして、


「藍ちゃん私と場所交換ね。藍ちゃんお兄ちゃんに何するか分かったもんじゃ無い」

「えー、お姉ちゃんが隣? ま、その方が宗介さん正面から見えるし……いっか」


 場所も変わって四人は淡々と勉強を進めた。


 ——— 暫くしてお昼になる。折角だし私が腕を振るってあげよう! ってか、ここで宗介さんの胃袋をゲットだ!


「台所借りていい? 私、お昼ご飯作るよ」

「お? じゃあ冷蔵庫とかも勝手に漁って」

「ありがと——— 」


 私は冷蔵庫を勝手に開けて中を物色する。露音おばさんは余り冷蔵庫に物を入れない主義のようだ。必要最小限な物しか無い。

 今ある食材で出来るのはどう見ても『焼きそば』だけだ。


「——— 焼きそばだね……焼きそばでいい?」

「いいよ。今日のお昼、それの予定だったから」

「私も手伝う。いつも土日のお昼は私が作ってんだ」


 奈々菜ちゃんも立ち上がりダイニングテーブルの椅子に掛けられたエプロンを私に渡した。

 私と奈々菜ちゃんはエプロンを身に付ける。


「藍、うちの焼きそばも持って来て。あと半端なキャベツとか玉ねぎとか焼きそばに使う野菜持って来て」「何人前?」

「宗介さん普段、どこくらい食べる?」

「あ、お兄ちゃんは私と合わせて三人前で」

「分かった。じゃあ、ウチからも三人前」

「はーい♪」


 藍もそれなりに料理は出来る。人数分の食材の量をお願いすれば対応できる。

 私は真壁家の包丁で野菜を切っていくが、使い慣れない包丁は意外と使い難い。ちょっとリズムよく切れないでいたが、なんとか下拵えをしていった。


「やっぱ包丁変わると違うよね」

「だね。同じような形なんだけど……不思議」


 藍が戻ってきた。


「持って来たよー」

「ありがと、そこ置いといて」

「あーい」



 ※  ※  ※



「——— ご馳走様でした」

「いやー、食った食った。しかしうちのと全然味が違うんだけど……何で? 市販の焼きそばだろ? 誰が作ってもここまで味が違くなるとは思えないんだけど……不思議だ……」

「へっへー、実はソースは別で作ってるの」

「翠さん一緒に入ってたソースに色々混ぜてオリジナルのソース作ってた」

「は? そんな事出来んだ? 例えば?」

「実は少し醤油が入ってます」

「醤油?」

「あとは?」

「そこは企業秘密で……ケチャップも少々とだけ」

「へぇー、翠さん料理、かなり出来るんだ」

「えへへ、まぁ、それなりだよ」


 お母さんと露音おばさんのパート先は違うところだけど、帰ってくる時間はほぼ同じだ。フライパンには二人の分の焼きそばを残していた。

 すると露音おばさんが帰ってきた。


「ただいまー、あら? 二人共来てたの? いらっしゃい」

「お帰りなさいおばさん」


 奈々菜ちゃんが露音おばさんに焼きそばを皿によそう。


「今日は焼きそばね。翠ちゃん作ったの。ここ置いとくよ」

「あらぁ、翠ちゃんありがと」


 残った焼きそばは藍がウチに持って行った。お母さんがそろそろ帰ってくるから向こうで準備だ。

 露音おばさんは帰って来てから着替えとか身の回りの事を一通り済ませて食事を取る。


「あら? いつもと味が……美味しい♪」

「美味しいでしょ? 翠さんのオリジナルソース」


 奈々菜ちゃんの言葉におばさんが、


「翠ちゃんうちに嫁に来な」

「はい?」

「今すぐ来なよ。稜ちゃんには私から言っとくから……ふふふ」

「えー、それはまだ早いですよ」

「『まだ』って事はその気はあるのね? だったら『今』でも問題ないでしょ?」

「お袋、翠さん困らすなって、あんまりくどいとうちに遊びに来なくなるぞ」

「ふふふ、御免御免。でも台所の物は全部自由に使っていいからいつでも作りに来てね」

「はい」


 勉強会はまだ続く。

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