第39話 連休で爺ちゃんちに来た④
——— 翌日の朝。俺は翠さんと一緒に海辺の集落を走っていた。
家は海辺からは結構高い位置にあり、海に降りるには結構な階段を降りなければならない。
今はジョギング中だ。海辺に降りても道は無いから此処で降りる意味は無い。
俺達は暫く道路を走る。道路には広い歩道もあって並んで走る事が出来た。
時間は日の出が過ぎて間も無い。
街場には無い、海辺特有の朝の爽やかな空気に足取りも軽く、道路を緩やかに下って行く。
「ねぇ、これって……帰り登るの?」
「そう」
「キッツイなぁ……」
「普段平らなところ走ってるからな。今、結構膝、骨に直接衝撃来てないか?」
「なんか踵から骨に直接響く衝撃が来るね」
「下りって自分の体重と落下する重さも少なからず加わるから楽そうで結構キツイ」
「なる程」
「上りは自分の体重持ち上げ続けるからキッツイ」
「まんまだね」
「兎に角坂道はキツイ」
「うわぁ〜」
暫く走ると防潮堤が長く続く道路に出た。防潮堤の天端は結構広く、二人並んで走るには十分の広さがあった。
俺達は防潮堤に上がり海を眺めながら並んで走る。波が砂浜を打ち付ける『ドドドン』っという音が、自分達が今『海』に居る事を意識させる。
「なんか凄いね」
「あぁ、ここは俺のお気に入りでもある。ちょっと遠いけどあっちの端まで行って戻ってくるぞ。此処でのジョギングはロングランな」
「最高♪ これならいつまでも走ってられる」
防潮堤は片道2.5㎞ある。そして坂道は片道1.5㎞だ。往復で合計8㎞。何時もの倍の距離になる。
海風を浴び、朝日を浴び、気分は爽快だ。
——— そして防潮堤の端まで来た。翠は後ろを振り返り来た道を見る。
「うわぁー、結構走ったね。今からこれ戻るんでしょ?」
「そう。なんだ? ギブアップか?」
「いやぁー、ゴールが目に見えるって結構キツイものがあるね」
「見えるのも良し悪しだな。しかもいつもの倍だし、正直、俺も視覚的にキツいと思ってる」
「ははは、宗介がキツイなら私もキツくて当たり前か」
「だな。それじゃあ頑張るか」
「おう!」
——— 防潮堤は難なく過ぎ、今、復路の坂道を登っている。
「そ……宗介さん……ちょ……っと待って……ハァハァ」
「なんだ? ギブアップか?」
「流石に辛い……舐めてた。……ハァハァ……御免なさい、ハァハァ……いつまでも走れませんでした……ハァハァ、ハァハァ」
「歩くか?」
「ダメ……走る、ハァハァ……引っ張って……」
翠さんは手を差し出してきた。
俺は躊躇う事なくその手を掴み引っ張って走るが……柔らかい。ちょっと汗で
宗介は翠の手を意識する事なく握ったが、ちょっとドキドキしていた。
※ ※ ※
私は体力の限界で宗介さんに手を差し出したが、宗介さんは躊躇う事なく私の手を掴んで来た。
——— あっ、汗!
その瞬間、私は少し後悔した。
しかし時既に遅く、私の手は宗介さんにしっかり掴まれている。 ……うわぁー、やっぱ男だね。ゴツゴツしてる。力強い。でもホッとする……不思議だ。
宗介さんは力強く私の手を握って来た。宗介さんの手も少し汗ばんではいたが全く不快では無い。
互いの体温が同じなのだろう。暖かいとも冷たいとも感じなかったが何時迄も握っていたいと思いつつも、毎日電車でくっ付いてんのに、手、握られただけで照れちゃうのが不思議でならなかった。
手って不思議だね。
※ ※ ※
結局翠さんは俺に手を引っ張られたまま坂道を走って登り切った。登り切れば俺の手はもう必要無い。俺は一瞬手の力を緩めたが、翠さんは立ち止まって呼吸を整える。そっちに意識がいってたんだろう。翠さんは俺の手を握ったままだ。
「大丈夫か?」
「ハァハァ……ひー、しんど」
呼吸を整えて歩き始めるが、なんか手を離すタイミングを逸してしまった。
そう。なんかこういうのって微妙にタイミングってあるよな? 此処で離すと「嫌なの?」って思われるんじゃないかとか……すまん。言い訳だ。俺は手を離したく無かった。それだけだ。
ま、誰も見てないし……な。
俺はそのまま家迄歩いた。
※ ※ ※
私は呼吸も整ったから手を離そうと手の力を緩めたけど……宗介さんは私が力を緩めている事に気付いてないようだ。全然離す気配がない……ま、いっかこのままで……寧ろ……ね♪
私はそのまま宗介さんと肩を並べて家まで歩く。
「今日は何する?」
「何もせずにゴロゴロするのが田舎の過ごし方。縁側で海の向こうに見える雲とか船とか眺めてるだけでも楽しいもんだよ」
「分かった。暇見て顔出すよ」
「あいよ」
ここでのジョギングは、手を繋いでゴールするのがルーティーンになった。
※ ※ ※
——— 日中特にする事もなく、それぞれ思い思いに過ごすが、俺と翠さんは殆ど景色を眺めながらお話しして時間を過ごした。
奈々菜達は其々の家の台所にずっと居た。
帰りも四人で仲良くマンションに帰って俺達の連休は終わった。
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