第38話 連休で爺ちゃんちに来た③
翠さんは茶の間に上がって俺と一緒にお茶を啜っている。
「今迄、此処に泊まりに来て翠さんと会った事無かったけど……」
「うちって前住んでたトコ、此処よりも北だから夏涼しくて冬寒かったんだよ。だから、寒い冬に暖かいお爺ちゃんちに来てたんだ」
「うちと逆か……なる程な」
我が家は、夏は涼しみにこっちに来て、冬は寒いから来ていなかった。
「まさか毎回お野菜とかお魚持ってくるお婆ちゃんが宗介さんのお婆ちゃんだとは思わなかったよ」
「うん、俺も。って言うか、最近まで翠さんの存在も知らなかったもんな」
「だね」
——— 奈々菜と藍ちゃんはずっと台所で婆ちゃんと何かやってた。何か仕込んでいるようだ。
——— そしてお昼ご飯の時間になり、翠さん達はお昼ご飯を食べに一度家に戻って、再びうちにやって来た。
「宗介さん、散歩行かない?」
「良いよ」
「えへへ、実は私達、冬にしか来ないからあんまりこの辺歩いた事ないんだよ」
「そうなんだ? そう言えば翠さんトコの屋号聞いた?」
「あ、聞いてない」
「爺ちゃん、桜木の家、名前なんて言うんだ?」
「んぁ? あぁ、『キシちゃい』だな」
「『キシちゃい』?」
俺は当然頭の上に「?」が出た。翠さんに目を向けると納得している顔をしていた。
「んだ、『キシちゃい』。むがし店やっでだんだ。んで、店のどごは、皆その店のガガだの名前で呼ばっでだの」
「……なんて?」
俺は翠さんに通訳を求めた。
「昔この地域でお店開いてたところは全部その家のお母さんの名前で呼んでたんだって。だから『キシちゃい』は、うちのお婆ちゃんの名前で『キシちゃんの家』って意味になるのね」
「……なるほど……」
俺達四人は家を出た。翠さんはウィッグは付けず、キャスケットだけだ。此処は発作が起きる程人が集まる場所は無いのでホントは帽子も要らないが、日除目的で被っていた。
「どこ行きたい?」
「海」
即答だ。
「私達、此処じゃ冬の荒れた海しか見た事なくて……」
「なる程……ちょっと階段キツイけど砂浜行くか?」
「行く♪」
俺と奈々菜は翠さん達を連れて毎年来ている地元の人も来ない砂浜に来ていた。
この砂浜は、道路からの高低差が100m有り、近くに駐車場も無くバス停も無い。なので地元の、しかも近所の人しか入って来ない場所だ。
その近所の人も高低差がキツくて滅多に来ない。
ついでに道路から少し陰になって見えない位置にあるので殆どプライベートビーチだ。
ただ、誰も来ないだけあって砂浜には流木やゴミが流れ着いてたり少し荒れ気味なのが玉に瑕な部分である。
「凄いね。ここに降りて来たの初めてだよ」
「私とお兄ちゃん、毎年此処で海水浴するんだよ」
「へぇ、なんか良いね。ちょっと荒れ気味だけど……あと、帰り……うわぁー……」
翠さんは上の方を見て大後悔している。
「帰りの事は考えない。ゴミの方は……年二回、地域全体でゴミ拾いやってるみたいだから、夏休みに入る頃にはゴミは少なくなってんな」
「ヨシッ! 藍、奈々菜ちゃん。帰ったら水着買いに行こう!」
「うん」
「えへへ、何気に海水浴って一回しかした事無いよね」
「だね。前の街だと海まで遠かったし……」
「そうなの?」
「うん、車で二時間位かな? 来てもジロジロ見られて落ち着かなかったし……それ以来だね。プールもあんまり行かないし……やっぱ雪国育ちは雪山の方が馴染みあるね」
「だね」
「翠さん滑れんの?」
「勿論♪ だって授業でやるくらいだもん」
「マジ?」
「スケートも出来るよ」
「俺らどっちも経験ないな」
「やってみたーい」
「それじゃあ、冬はウィンタースポーツで」
——— 少し歩いて家に着く頃には夕食の時間になった。家に着くと爺ちゃんがバーベキューのコンロと炭を出して待っていた。
「宗介、おめだっつぁこれ貸すがら火おごしてにぐど貝どさがなど焼いで、け」
「翠さん頼む」
「『宗介、お前達にこれ貸すから火を着けて肉と貝と魚焼いて食え』だってさ」
縁側に婆ちゃんが食材を並べているが、何と! アワビ、サザエが置いてあった。ウニは無かった。まだ時期が早いらしい。魚も旬で美味そうな魚が数尾置いてある。カツオもあるが……婆ちゃんそれ捌いて刺身にしようよ。因みに肉は豚バラ肉だ。婆ちゃんは『肉なら何でもいいだろ』程度にしか考えてないようだ。
「爺ちゃん達も食うだろ?」
「んぁ、おらだぢ年寄りゃはいいがら、
「お爺ちゃんも折角だし食べようよ」
「顎ぉ疲れでわがんね。いいがらおめづだげで、け」
さっきから最後に『け』を付けてるが、どうやらこれが『食え』と言う意味らしい。この地方の共通語だ。因みに言われた方は食べるなら『く』と言えば通じるが、これは結構乱暴な返事で普通に『頂きます』と返すのが一般的と言う事だ。
「まさかここでこうして宗介さんとバーベキューやるなんて全然思わなかったよ。あ、ホタテ焼けてる。はい」
「ありがと。正直、連休は翠さんの顔見れないのかと思ってたけど……ん?」
「ん? なんか今嬉しくなるような事言わなかった?」
「言ったな……ま、今日まで毎日顔見てれば見ない日が来たらなんか抜けた感じするだろ。ほれ、エビ」
「ありがと……うん、正直私もちょっとガッカリな気分だったんだ」
そう言って屈託無く笑う翠さんは照れを隠すように美味しそうにエビにかぶりついた。
「そう言えば明日の朝、日課どうする?」
「私は走る気満々だったよ。もう日課として定着したしね。エビ
「なら一緒に走るか? ホタテもーらい」
「勿論。今更一人で走れないよ。って、そのホタテ私育ててたやつ!」
「ごめんごめん。ほら、サザエやるよ」
「許す♪」
「んじゃ、迎え行くよ。時間はいつもの時間でいいね?」
「うん、よろしく」
余談だが、一匹丸っと置いてあったカツオは、何と! 藍ちゃんが綺麗に「さく」に卸してた。
勿論、刺身とタタキで美味しく頂きました。
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