第40話 宗介の部屋①
——— 五月。連休が明けて数日。いつもの日常に戻っている。
とある日の昼休み。
この頃になると、仲良しグループも出来上がって『一緒にお弁当食べよう』と新しい関わりを求めて声を掛ける者は居なくなっていた。
ついでに言えば、食べ終わった後はそのグループで談話している。私に話し掛ける者は誰も居ない。
よって、私のボッチは完成した……嬉しいような寂しいような……。
そして一人で席に座っていると周りから色んな話が聞こえてくるもので……。
「ねぇ、聞いた? 柳生君、バスケ部でもうレギュラーになったらしいよ」
「まじ? だって、入学してまだ一ヶ月過ぎたばっかでしょ?」
「なんか中学で全国優勝してたみたいで、身長もあるから即戦力らしいよ」
「ただでさえ背も高くてカッコいいのにバスケ部でしかも一年でレギュラーって……カッコいいにも程があるって」
「彼女いるのかな……」
「いるなら遠距離? 高校一年生で? それもどうなんだろ?」
「そう言えば、中等部のめっちゃ可愛い双子、双子じゃ無いって知ってた?」
「いつの話してんの。情報遅いって。苗字も全然違うじゃん」
「なんだ知ってたんだ……でもメッチャ可愛いよねぇ。しかもあんなに似てるって……天使じゃん」
「だよねぇ」
「『真壁奈々菜』ちゃんと『桜木藍』ちゃん……奈々菜ちゃんってなんか私達よりしっかりした感じあるよ」
「藍ちゃんも可愛らしくてなんか構いたくなるような……」
「あんな可愛い妹欲しいよねぇ……うちの妹もあの位可愛かったらなぁ……」
「妹か……妹も良いね」
「うちの弟。ま、そこそこカッコいいからいいけど」
「マジ? 紹介してよ♪」
「いいけど、まだ小学生だよ?」
「はぁ? それ単に贔屓目じゃん」
「奈々菜ちゃんと藍ちゃん、なんとか仲良くなれないかな……」
「ま、、私達が関わる事は無いんだろうね」
「だね」
悪い内容では無いのだが、身内の噂話はあんまり聞きたく無いものだ。取り敢えず藍と奈々菜ちゃんには黙っとこ。
※ ※ ※
———ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピp……
朝五時十分。この日の朝は雨が降っていた。雨の日はジョギングはしない。雨の日、俺は部屋で簡単なストレッチをする。これが俺の雨の日の朝の日課だった。過去形だ。今は……。
「おはよ」
『はよ』
「雨だな」
『だね』
翠さんと出会ってから雨の日の朝はビデオ通話で互いの顔を見ながら、ヨガマットの上で翠さんの指導の下、ヨガをする。翠さんはゆっくりじっくりヨガのポーズを俺に示して行く。
『相変わらず宗介さん硬いなー』
「翠さんが柔らかすぎんだよ」
翠さんが取るポーズは中にはエロっぽいものもあるが、均整の取れたその体は芸術作品のようなそれでしか無かった。ただ俺は……。
「イデデデデデデデ…………」
『あはははははは ———ちょっと朝から笑わせないでよ。皆まだ寝てるんだし』
「んな事言ったってな、毎回このポーズは……イデデデデデデデ……」
『あはははははは ———』
朝から屈託の無い極上な笑顔を見せる彼女。
その笑顔を見て俺は微笑む。
そして翠さんは俺のその微笑みを見て満たされた気分の表情になる。
更に俺はその表情を見て……ようは朝からハッピーって話だ。
——— 時間だ。残念だが楽しい一時は此処で終わりだ。二人は通話を切って学校に行くための身支度を始める。
※ ※ ※
「お姉ちゃん、朝から何爆笑してんの? おかげで目が覚めちゃったよ」
「ごめんごめん。宗介さんの体が硬くてさ、毎回同じポーズで『イデデデデデデデ』って言うんだよ。その時の顔がまた面白くて……あははは……ダメ……思い出しちゃう……プププププ……あははは……」
私はお姉ちゃんのこんな姿を目にするようになるとは思わなかった。
いつも何かに怯えるように周りを警戒して外を歩き、家の中でも笑顔は見せるがお腹を抱えて笑うなんて事は、私の記憶では一度も無い。多分、家族全員誰も見た事が無い筈だ。
私は少し宗介さんに嫉妬した。それと同時に感謝もした。
※ ※ ※
――― 今日は桜木家が真壁家にお邪魔して夕食を共にしている。そして食事も終わって子供達は俺の部屋に集まっていた。部屋に入るなり翠さんは、
「う〜ん……宗介さんの匂いだ……」
「クンクン……ホントだ」
「おいおい、二人ともあんまり変な行動するなよ」
すると、翠さんは俺の顔を見るなり『ニヤリ』と不適な笑みを見せたかと思うと、突然!
「藍! ベッドの下、要チェック!」
「イエス マム!」
ウィッグを外している時の翠さんはノリが良い。結構ひょうきんな面を見せる。そして意外にも藍ちゃんもノリが良い。何時もと違う二人に奈々菜はちょっと面食らい戸惑っていた。
「おいおい、何探してんだよ」
「え? エロ本」
翠さんは真顔で答える。言葉と表情のギャップがなんとも可笑しくて俺は思わず吹き出しそうになる。
「ぷっ……今時そんなの隠し持ってる奴なんていねぇよ」
「そうなの?」
「そ。今はネットで事足りるからな」
「そうなんだ。宗介さんもネットで見るんだ?」
「………………」
「沈黙は正解の証。そっか……宗介さんもやっぱ男の子なんだね」
「………………」
否定しても翠さんはそれを否定するだろう。肯定すれば素直にそうだと受け取るだろう……何にせよ、彼女を部屋に入れた時点で、俺は『スケベ認定』される運命だったわけだ。
だったら俺はスケベに生きたいと思う。
——— 冗談はさておき、翠さんは改めて俺の部屋を見渡す。
「でも、ホント本の数と映画の数凄いね」
「まぁな」
「エロいのは無いんだ」
「有っても堂々と棚に置かねぇよ」
「だよねー」
翠さん、エロいの探しているけど、そんないエロビデオとか見たいんだろうか?
一応、一通りの事をやって満足したのか翠さんは床に座った。俺と奈々菜はベッドに腰掛け、藍ちゃんもベッドに座ろうとするが、奈々菜に
「そう言えば、最近、奈々菜と藍ちゃんは部活どうなんだ? 前は男子二人の愚痴っぽい事言ってたけど?」
「部活自体は楽しいよ。ただ、前話した二人の男の子は……何だかねぇ……」
「うーん……何だかねぇ……」
奈々菜と藍は顔を見合わせる。
そもそも奈々菜は学校の特定の子の話をしない。藍ちゃんもそうらしい。しても何か面白い出来事があった時だけ話し、悪口なんかはまず言わない。と言うか、悪口を言う程の興味すら持たないようだ。
その奈々菜が一人の男子を語る……まぁ、フラグだな。
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