第36話 連休で爺ちゃんちに来た①
——— 四月。入部受け付けが開始されると奈々菜と藍ちゃんはソフトテニス部に入部した。当然だが下校時間は俺達と合わなくなる。
当初、翠さんは藍ちゃんと一緒に帰る事で考えていた。なので部活が終わるまで翠さんは学校で待っている予定だった。そうなると藍ちゃんの部活が終わるまで翠さんは学校の何処かで待ってなくてはならなかったのだが、俺の存在が翠さんと藍ちゃんの行動を自由にさせていた。
「宗介さんの存在が私達にこんな恩恵を与えてくれるとは思わなかったよ」
「ホントに御免なさい。色々当てにしてしまって……」
藍ちゃんと翠さんは申し訳なさそうな顔をしているが、俺が普通に高校生活を送れているのは翠さんのお陰なのでこっちは感謝したい位だ。
——— 『感謝』……そう! こういう時、真壁家では一つ習わしがある。
俺は謝る翠さんの『謝罪』という行為を受け入れず、俺は俺が望む行為を要求した。
「ノンノン。こういう時、真壁家では『ありがとう』と言って、『ニコッ』っと微笑むのが習わし。 ——— どうぞ」
「え? ……えっと……こう? こうでいいの? …………ありがと。 ニコッ」
「どう致しまして。 ニコッ」
「——— ップ! あははは、いいねこれ」
「だろ? あとさ、俺の事は気にしないで欲しい。偶々同じような境遇で時間も合うってだけだし、それに俺もまさか放課後限定だけど、こんなに普通の高校生活送れると思ってなかったから、俺の方こそありがとう。 ニコッ だよ。だから遠慮しないで欲しいかな」
「——— ップ! 分かった……うん、遠慮しないで頼りにしていくよ」
「よろしく」
俺と翠さんは毎日一緒に下校する事になった。
余談だが、学園一美少女の一人『深川芹葉』が中等部の部活に引き続き高等部でもバスケットボール部に入部した。
——— 五月だ。明日から大型連休が始まる。我が家は何処かに行く事は無い。
何故なら家族皆で行動すると、高い顔面偏差値に周囲の視線が集まり過ぎてあまり見られたく無いような行動も容易に出来なくなるからだ。
気疲れが半端なく帰ってくると翌日は動きたくなくなる。
ただ、折角の連休だ。何もしないと言うのは勿体無い。そこで ———。
「なぁ、爺ちゃんの家ってこっから結構近いよな?」
「あぁ、電車で二時間も掛かんねぇな」
「え? お婆ちゃんちって近いんだ」
「行っていいか? どうせ人混みだらけだから何処も行かないんだろ?」
「あぁ、行くのはいいが爺さんに電話しとけ。ま、喜んで来い来い言うだろうがな」
奈々菜が婆ちゃんに電話すると今すぐ来いと言われた。流石に今日はもう夜の八時を過ぎている。俺と奈々菜は明日の朝早く、二人で爺ちゃんの家に行く事にした。
俺は翠さんにメッセージを送った。
[こんばんわ。連休中のジョギングなんだけど、明日の朝は一緒に走れるけど、明後日から泊まりで出掛けるから、申し訳ないけど一緒に走れなくなった]
——— ピコン♪
返信が来た。
[こんばんわ。私も連休中出かけます。明日の朝走る時話そうと思ってました]
タイミングが良かったようだ。
[じゃあ、明日。おやすみ]
[うん。おやすみなさい]
俺と奈々菜は爺ちゃんちに行く準備をして寝た。
——— 翌日。
「おはよう」
「おはよう」
俺達は走りながら話す。
「この後俺と奈々菜とで急遽爺ちゃんちに行く事なってさ」
「え、そうなんだ? 私達も藍と二人でお爺ちゃんの家に行くんだけど……」
——— ん?
俺は翠さんの言葉が妙に引っ掛かった。何か大事な事を……いや、大事ではないけど肝心な事を忘れている。なんだ? 違和感じゃ無いが……何かパズルのピースを一個見落としている。
「家族では出掛けないの?」
「うん、家族四人で歩くと視線がねぇ……」
「分かる。ま、旅行もいいけど、爺ちゃんちでマッタリすんのが好きだな」
「私も。いっつも冬に行くから、この時期のお爺ちゃんの家って実は初めてなんだ」
「へぇー、うちは夏しか行った事ないんだよ」
俺は何か肝心な部分を見落としていると感じながら翠さんと会話し、そして走り終え、出掛ける支度をした。
——— 出発の時間が来た。
「行ってきまーす」
俺と奈々菜は玄関を出る。すると翠さんと藍ちゃんも一緒に玄関から出てきた。奈々菜が藍ちゃんに声を掛ける。
「おはよ。藍ちゃん達もお出かけ?」
「おはよ。うん、これからお爺ちゃんの家にお泊まり行くんだ♪」
「え? そうなんだ。私とお兄ちゃんもなの」
桜木姉妹が出掛ける事は奈々菜には教えて無かった。なので奈々菜はちょっと驚いている。
しかしやっぱりだ。藍ちゃんの言葉にも引っ掛かりを覚える。何だろう? 喉に小骨が引っ掛かる感じ……。大事では無いのだが、何か肝心な事を見落としている。何だろう?
俺はそんな事を考えながら四人で駅に向かって歩いた。そして電車に乗り中心街の駅に着く。ここで乗り換える訳だが……。
俺達兄妹と翠さん達姉妹は同じ番線のホームに並んで立つ。この状況が自然と感じている事が不自然でならない。
「あれ? 宗介さんもこの乗り場?」
「うん……」
俺は考え事をしていたせいで気のない返事みたいな返事を返してまった。翠さんも俺の様子に気付いたようで、
「何? なんかさっきから浮かないようだけど……どうしたの?」
俺は翠さんの問いに素直に答える。
「今朝、翠さんと話しててなんか抜けてんなぁって……大事でも大切でも無いってハッキリ分かるんだけど、何か肝心な事を見落としてるような気がして……何だと思う? って、こんな事聞いても分かんないよな?」
「うーん……行き先は?」
「『砂浜海岸駅』なんだけど……」
「え? 私達も……あれ? 何だろ? 私も変な感じだ。同じ場所に行く事が自然と思えるのにその事に不自然さを感じてる……何だろ? 何か見落としてる……」
俺と翠さんは頭に「?」を出したまま列車に乗り込んだ。『電車』では無い。ドイツ式ディーゼルエンジン搭載の『列車』だ。
因みに列車は二輌編成で、扉は扉の隣にある『開く』のボタンを押さないと開かないのが田舎の列車の特徴だ。
俺はその事を知らず、暫く扉の前に立っていたが、知ってた翠さんがニコニコしながらボタンを押してくれた。
——— 余談を挟んだところで次回に続く。
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