第二章 真壁奈々菜

第35話 奈々菜と藍の〇〇〇 その1

 ——— 今日から部活動入部届けの受付開始となる。

 私と藍ちゃんは、自己紹介でソフトテニス部に入部すると宣言していた。


「奈々菜ちゃんは部活、ソフトテニス部に入るんだっけ?」

「うん。前の学校でもやってたしね」

「レギュラーだったとか?」

「まっさかぁ。去年一年生だよ? ボール拾いの日々だよ」


 と、言ってはみたものの、実際、私は去年の新人戦でレギュラーで試合に出ていた。藍ちゃんも同じだ。


 部活の入部受付が開始されると、二年生で文化部に在籍していた幽霊部員が、こぞってソフトテニス部に入部して来た。

 私と藍ちゃんのクラスの子達は元より、他のクラスの子達も噂を聞きつけ入部して来たようだ。

 男子だけじゃなく女子もだ。

 男子は明らかに下心100%なのは察した。私達に近付きたいってオーラが漏れまくってる。

 女子は『奈々菜と藍がやる事は全てお洒落』と思っての入部だ。

 私達と同じ事をすれば可愛いとか思ってるんだろうけど、そうは問屋が卸さない。

 藍ちゃんはどうか分からないけど、私は思いっきりガチ勢だ。熱血でスポ根だ。

 皆そんなテンションと意気込みだなんて露程にも思ってない。

 この後、彼女達は思いっきり後悔する事となる。

 結局一年生の入部は男女合わせて十一人。二年生の入部は三十六人になった。二年生の内訳は、男子が二十三人、女子が十三人だ。十三人には私達も含まれている。

 そして男子テニス部の部長が新入部員に一言。


「二年の男子共、お前ら完全に真壁と桜木狙いだろ? 本気じゃ無い奴はこの部に要らんからな。まず、お前らの本気を見せて貰おうか……そうだな……まず走るか? 四月中、走り抜いた奴は入部を認める」


 その言葉に二年生男子新入部員は不平不満を口にする。


「マジかよ!」

「別にいいじゃねぇかよ」

「ま、俺には余裕だね」

「まずは挑戦……」


 男子部部長は『走れ』と言った。

 ——— 走る……ま、部活っていうか『スポーツの基本』だ。


「私達も走ります。いいですよね?」


 私は正直走りたくてウズウズしている。

 走った後の達成感にも似た『やり切った感』が結構好きなのだ。

 私の言葉に女子部の部長がちょっと驚く。


「はい? 走るの? それは……うん、別にいいけど……でもあなた達は関係無いでしょ?」


 すると私じゃ無くて藍ちゃんがその言葉に答えた。


「私達も途中からの入部で別メニューってのもどうかと。それにこの位の事は前の学校では普通だったんで……奈々菜ちゃんトコどうだった?」


 藍ちゃんの言葉に部長はビックリしていたが、私もちょっとビックリした。


 ——— あは♡ 藍ちゃんも私と同類だった♪


「走りまくってたね。普通、五キロ位走ってから練習入るでしょ?」

「うん。まずは走る。スポーツの基本」

 

 私と藍ちゃんの言葉に部長を含め全員唖然とする。っていうか、逆に皆のリアクションに私と藍ちゃんは唖然とした。

 何? この学校のソフトテニス部ってそんなに緩いの? そう思っていたら藍ちゃんが早速走り出した。


「それじゃあ行ってみよう♪」


 私は藍ちゃんに着いて行く。

 私達が走り始めた事で、女子も全員走らなくてはならない空気になった ———。


 ——— 何周走ったろう? いい感じで汗を掻く。気持ちいい。


「真壁さんと……ハァ……桜木さんは……ハァハァ……普段走ってるの? ハァハァ……」

「全然。運動は好きだけどね♪」

「私も全然。でも汗掻くのは好き」

「もしかして……ハァハァ……結構ガチな感じ? ハァハァ……」

「え? 部活ってガチでやるもんでしょ?」

「ガチかどうか分かんないけど、テニス好きだよ」



 ※  ※  ※



 ——— 今日で四月も終わりだ。二年生の途中入部組はほぼ辞めてしまったのだが、そんなある日の昼休み、私は一人の男の子に声を掛けた。

 この時全然気付かなかったけど、今思えば私から男子に声掛けたのって、コイツが初めてだった……気がする……。


「ねぇ、成宮君はテニス続けるの?」

「うわっ、ビックリした……まさか真壁っちから話しかけられるとは……」


 私が話しかけた男の子は、同じクラスの『成宮翔馬なりみやしょうま』だ。クラスが変わり、クラス内全員が顔を合わせてまだ日は浅いが、彼を知る者は『適当な男』『調子のいい軽い男』と口々に言い、クラス内でもその事は既に伝播している。

 『スポーツはそれなりに』といった体格で、顔も普通で格好良いなどの特別な要素は特に無い。


「用があれば話しかけるよ。で、テニス続けるの?」

「勿論!」

「何で?」

「そりゃあ、真壁っちの傍にいたいし? こうしてお話しもしたいし? 現に話しかけられたし? 目的の一つは達成? みたいな?」

「えー、それだけの理由? それだけの為にあんなに走り込んでんの?」

「それだけってどれだけだよ。真壁っちだって走り込んでるだろ。それに俺からすりゃ十分価値ある理由だぜ? ここまでやってやっと話しかけられたんだ。何? 頑張ってる俺に早速惚れたとか?」

「んなわけ無いでしょ! ……なんか呆れる人だなぁ……」

「『呆れる』なんて照れ隠しに言うなよ。そもそも俺は自分が『これ』って思ったら何でもやる。俺はそう言う人間さ」

「なんか色々と動機が不純……ごめん、初めて人を『最低』って思っちゃった」

「わぉ! 真壁っちの初めて頂きぃ♪ いいんじゃない? 一瞬でも真壁っちの中に俺が刻まれた訳だ。それだけでも俺としては嬉しい限りさ。ははっ☆」


 私は言葉を失った。……何なのこのプラス思考男……。

 私は今までに無いタイプの人間に少し戸惑っていた。



 ※  ※  ※



 奈々菜ちゃんが隣のクラスでそんな会話をしている頃、時同じく、のクラスでは一人の男子が体の痛みから雄叫びを上げていた。


「ぬおおおおぉぉぉ……体がぁ……」

「滝沢君大丈夫?」

「大丈夫じゃ無い……大丈夫じゃ無いけど……いい感じだ……」


 彼の名前は『滝沢廉斗たきさわれんと』スポーツとは無縁とも言える、メガネを掛けた真面目そうな男子だ。

 髪も運動とは無縁な七三分けで、こんもりボリュームもある。体型も少しぽっちゃり気味な感じだ。

 一部の子から『メガネ君』と呼ばれるが、それがピッタリハマる子だ。

 そんななりの男の子がスポーツって、不自然で違和感しかなかった。


「何でテニス部に入ったの?」

「君に対する下心だよ。人を好きになるって言うか惹きつけられたって言うか……初めてだったんだこんな気持ち。どうしていいか分からなくて取り敢えず傍に居たいと思って……自分の気持ちに素直に行動してみた。それでテニス部に入部したんだけど……」


 本人はサラッと話したが、周りには沢山のクラスメイトがいる。私は『こんな場所で告白された?』と、ふと思ったが本人はそんな気は無いみたいだ。


「ただ、ここ数日の走り込み……自分を……体を追い込む事がこんなに面白いとは……正直、君の事はどうでもいいって思うくらい走り込みに……いや、体を鍛える事にハマりそうだよ……」


 はぁ? 

 今なんて言った? 

 今『どうでもいい』って言ったよね? 

 何それ?

 正直初めてだ。

 初めて面と向かって直接『どうでもいい』って突き放すような事を言われた。

 そんな突き放すような言葉を言われたのはお姉ちゃんの『あんた邪魔。あっち行って!』位だ。

 私はその言葉に僅かだが『ムッ』っと怒りを覚えるが、これはお姉ちゃんの突き放しとは全く別物だ。

 そして心の奥に出てきた『モヤモヤ』した感じ。今まで人に対して思った事のない初めての感情だったのだが、私はそれが何なのかは全く分かっていなかった。


「これからもテニス続けるの?」

「分からない。まずはラケット振ってから考える。辞めるのはそれからでも遅く無いさ」

「ふーん……ま、頑張って」

「ありがと」


 ——— 何このモヤモヤ……。



 ※  ※  ※



 これが私達と彼ら二人のファーストコンタクトだった。

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