第31話 宗介と翠のデート①

 ―――ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピp…


 私は目覚まし時計を止め、いつものようにカーテンを開け外を見る。


「……雨」


 今日は日曜日だ。今日までジョギングは毎朝続けていた。

 天気は今日までずっと晴れていたわけでは無い。当然雨の日はあった。ただ、朝からの雨は初めてだ。

 私は宗介さんにメッセージを送った。


[おはよう。外は雨です。どうすんの?]


 ——— ピコン♪ 返信が来た。


[おはよ。雨の日は部屋でストレッチしてる]


 ストレッチか……残念だ。

 今日まで続いた宗介さんとのジョギングが途切れた。そして今日は日曜日。宗介さんと会う予定が無い。

 毎日欠かさず宗介さんと顔を合わせていたが、この日初めて顔を見ない日になりそうで、なんか寂しいというか、ちょっと物足りない一日になるような気がしていた。


「取り敢えず、『体を動かす』という日課はクリアしないと……日課を体に定着させねば……」


 私はヨガマットを収納棚から出して硬いフローリングの床に敷き、静かにヨガを始めた。

 引っ越し前、ヨガは母が教室でやっていて、家でも母の真似をして私と藍は母と一緒に動画サイトを見ながらやっていた。

 私は雨の日はストレッチよりも馴染みのあるヨガをやる事にした。


「——— 宗介さんもヨガやらないかな?」


 朝ごはんを食べ、朝の勉強を済ませた私はスマートフォンに手を伸ばす。

 そして『真壁宗介』の名前を表示させ『通話』の表示をタップ…………。

 画面には『真壁宗介』の名前は出ている。『通話』をタップすればいいだけだ。私は人差し指を伸ばし画面に触れ…………。

 時間が経ち、画面消えた。私は再び画面に『真壁宗介』の名前を表示させ『通話』ボタンを…………。

 だから『通話』ボタンを………。

 『通話』を………なんで⁈


「ちょっと、なんで通話ボタン押せない? 何これ? 何で、押そうとするたび天井見て指引っ込めちゃうの? なんで押す前に深呼吸する? 指震える? 意味分かんない。緑の表示を人差し指で軽く触るだけだよ? その所作が何故出来ない?」


 私は宗介さんに電話が出来ないでいた。

 毎日顔を合わせてるのになんでなの?

 思い返せば私は身内以外に電話をした事が無い。

 他人に、しかも男の子に電話するのは初めてだ。

 電話ってこんなに緊張するもんなの? 

 違うな……これ、緊張じゃなくて、忙しく無いかとか、嫌がられないかとか、あれこれ詮索してしまうんだな ——— うん、そうに違いない。

 私は『そうなんだ』と自分に言い聞かせてみたけど、皆こんなもんなんの?

 私に『電話』という行為はハードルが高かった。なのでメッセージを送る事にした。


[こんにちは。今いい?]

[いいよ。どうした?]


 返事が早い。それだけでなんか嬉しい。

 私はテンポ良く返信する。


[ヨガやらない?]

[ヨガ?]

[雨の日の朝のストレッチの代わりに]


 テンポよく返信が来ていたがここで少し間があった。なんか変な事言ったかな?


 ———ピコン♪


 あ、来た。


[いいよ。ただ、ヨガマットとか必要?]

[無いと床でゴリゴリ]

[んじゃ買ってくる]

[だったら一緒にいい?]

[是非。じゃあ、デートって事で]

[時間は?]

[昼食ったらで]

[おk]



 ※  ※  ※



 昼ご飯を食べ、俺はいつもの『陰キャスタイル』に身を包み、マンションの通路で待っていた。


 ——— ガチャ。


 桜木家のドアが開くと、同じく「陰キャスタイル(雀斑そばかす無し)」の翠さんが出てきた。今日はフレアスカートでの登場だ。

 翠さんは顔のなりとは裏腹に、服は何でも着こなす。今日もキマってる。


「お待たせ」

「やっぱ、翠さん着こなしいいわ」

「ありがと。そういう宗介さんだって……」


 翠さんは俺の足元の目線を落とし、ゆっくり上に上げて行く。そして俺顔を見ると、


「——— っぷ! 宗介さんもキマり過ぎてて顔とのギャップが凄いよ」

「それ褒めてる? 翠さんだってそのボサボサの髪で全部台無しだぞ。なんかある意味シミラーコーデだな」

「いいんじゃ無い? カップルぽくて」

「んじゃ行くか」

「初デートにゴー♡」


 俺達は肩を並べて道を進む。

 メッセージでもそうだったが、翠さんは『デート』と言う単語を気軽に使っている。

 デートに関しては彼女も俺と同じ価値観のようだ。

 『デート』という言葉、行為、状況を否定したり照れる奴が居るが、俺は『デート』という言葉と行為にそんなに深く考えた事は無く、奈々菜とは『兄妹でデート』と言って普通に出掛けるし、お袋と二人で歩けば、お袋も『息子とデート』なんて言ってくる。


「翠さんは『デート』って言葉、普通に言うんだ?」

「うん。お父さんと二人で歩けばそれも『デート』。宗介さんも奈々菜ちゃんと買い物とか出かけたら『デート』って言わない?」

「言う。いや、俺も普通にそう思ってて、だけどそういうの照れたり否定したりする奴いるじゃん。翠さんそうじゃなかったからさ」

「気の合う男女が一緒に出掛けたらデートでしょ?」

「だよな」

「でも、流石に今宗介さんと手を繋いだり腕組んだりはちょっと無理かな」

「だよな」

「ふふ〜ん……繋いでみる?」

「出来んの?」

「……ゴメン、無理。照れる」

「俺も」


 なんか楽しいぞおい!

 奈々菜とは違う空気のデートに心躍った。これは照れるわ!


 ――― 中心街に着いた。今日は更にモールへ移動だ。電車を乗り換えてモールへ向かう。

 すれ違う人は必ず俺と翠さんを見る。

 出掛けに翠さんに『キマってる』と言われたが、以前、奈々菜にも言われたのだが、俺は服は何を着ても様になって、歩く姿も格好良いんだそうだ。なので人目を引くという。

 その言葉を少し意識して隣を歩く翠さんを見ると、背筋がスッと伸びててスタスタ歩き、なんか『素敵な女性の歩き方の見本』って感じが見て取れた。格好良いな。

 一瞬目を奪われたすれ違う人は、俺達の顔を見てガッカリして小さく溜息を吐き、そして目を逸らしていた。


「そう言えば今日、妹達もモールに行くって言ってたな」

「もしかして会うかもね」

「だな」


 皆スマートフォンは持っている。何かあっても連絡を取るのは容易だ。


「一応、メッセージは入れとくか……」


 ——— 俺達はモールに到着した。

 此処のモールは始めて来たが、結構大きい部類のモールだと思う。


「翠さん此処来た?」

「初めて。宗介さんは?」

「俺も初めて」

「じゃあ、一通り歩こうよ」

「そうだな」



 ※  ※  ※



 ——— この後、奈々菜達と遭遇するのだが……ナンパされている最中だった……モールでナンパって……どうなの?

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