第29話 ピンチはピンチ
——— ギブアップ!
——— 電車の中で妹、翠さんそして藍ちゃんの三人と密着し、『宗介』の目覚めを阻止できなかった俺なわけだが、俺が負けを認めた瞬間、電車は目的地に到着。四人は電車を降りた。
ヤバかったー……ハァハァ……
※ ※ ※
宗介さんの腕……もう少し捕まっていたかったな……
※ ※ ※
宗介さんの温もり……ご馳走様♡
※ ※ ※
お兄ちゃん息切らしてるけど……恐怖症? 大丈夫だったの?
※ ※ ※
ここで翌日の話をするが、翌日も同じように密着して電車に乗る事になり、ピンチを迎える。「ピンチはチャンス」とよく言うが、この場合「ピンチはピンチ」でしか無かった。
愚息のセンサーは全身くまなく張り巡らされ、結局、般若心経に頼るしか対策は無かった。
ただ、三日目から妹達は通学時間を早めたため、翠さんの温もりだけを十二分に堪能しながら通学する事になる。
———— 話は今日に戻り、翠さんは電車を降りると人の流れの邪魔にならない場所で一度立ち止まる。
——— おお! なるほどな。
俺は少し先に進み、翠さんから少し離れた場所で人が捌けるのを待った。待つと言っても三十秒も待たない時間だ。
奈々菜達は人の流れに乗って先に出口へ向かっていた。
駅から人が
俺もそれに合わせて歩き始め、共に改札へ向かう。改札に着くと、改札の外で奈々菜と藍ちゃんが何か話しながら自然な感じで立っていた。
そして合流しつつもやはり距離は置いて歩く。
周りはほぼ新山学園の生徒しか歩いていない。駅から歩く者の他に、バスで来る者、自転車で来る者、通学方法は様々だが徐々に生徒の数が増えて来る。流石二千人級のマンモス校なだけあって凄い人の数だ。
俺と翠さんは一緒に歩かないようにしていたが、何だかんだで気付けば間隔はあるものの、ほぼ並んで歩き、そして奈々菜達の三、四メートル後ろを歩いていた。勿論、反対隣を歩く人、追い越して行く人は居る。これだけ生徒が多いと目立つも何も無いから安心ではある。
すると後ろから少し駆け足気味に走って来た子が2人居た。そして顔を確認して奈々菜に話しかけた。
「桜木さんおはよう」
「おはよう御座います。桜木さんはこちらですよ」
奈々菜が藍ちゃんと間違えられて挨拶された。奈々菜はニコニコしながら藍ちゃんを手で指し示す。藍ちゃんもニコニコしている。
「え? あ、ごめんなさい」
二人組の女の子は歩きながら奈々菜と藍ちゃんを交互に見て「え?」っという表情をしている。
「貴女は……隣のクラスの転校生?」
奈々菜はその問いに「はい」とだけ返事をして後はニコニコ笑顔を振り撒いて黙っている。
藍ちゃんも同じだ。
見ていると二人は自分からは話しかけない。
「御免なさい。双子みたいにそっくりな子が転校して来たって話は聞いてたけど、ホントにそっくりなんだ」
「はい。フフフ……」
そう返事するだけで奈々菜達はいいけどニコニコしている。
決して奈々菜と藍から話題を振る事は無く、校門迄は一緒に歩き、そして俺達はそれぞれの校舎に無言で分かれた。
※ ※ ※
———
宗介は普通に教室へ向かったが、私の足は保健室へ向いていた。保健室で予鈴直前迄時間を潰すつもりだ。
今日から本格的に高校生活が始まる。上がり組の子達は別だがそれでも新しい顔ぶれに友達を作ろうと話しかけて来る子は多い。
当然私は友達なんて作る気は無い。なので態度は素っ気なくせざるを得なくなる。
素っ気ない態度を取ってそれで終わればいいが、人によっては『態度が気に入らない』とか難癖つけてありもしない噂なんかを流す輩もいる。噂だけで終わればいいが、目の敵にされると何かと絡む人もいる。
養護教諭はそこを心配したようだ。なので私は四月中は朝は保健室に顔を出し、予鈴直前に席に着いて誰とも関わらないようにした。
勿論、昼休みも同じだ。
グループが出来上がるまで『一緒に食べよう』とか声を掛けられる。なのでお昼も弁当を食べる時間だけ保健室に避難する事にしていた。
そして、一時間目のホームルーム。
委員会やら役員やら決めるのだが、早速ピンチが襲って来た。
「それじゃあ、先週もお話ししたけど、中等部から上がって来た人、高校から入学した人、全員揃ったからまずは自己紹介だな」
——— ん? 先週お話しした? 私聞いてないよ? そりゃそうだ。教室に居なかったもんね。
私の病気は担任の先生は知らない。入学式での点呼とかは、教頭は担任に「初日から欠席だと悪目立ちするから教室でもその事に触れるな」と話していたらしい。
「自己紹介の後、学級委員決めるな。それじゃあ、出席番号順に前に来て自己紹介宜しく。名前と出身中学、あと趣味なり適当に自己アピールな」
私は焦る。この人数で注目を浴びたら確実に発作が起きる。この先生は病気の事も発作の事も知らない。
——— 一人ずつ自己紹介が進んで行く。
そして ———、
「
メガネを掛けた綺麗な子が挨拶を終えた。「才女」という言葉がピッタリハマる。そんな子だ。
後で知るが、中等部の時から「学園一の美少女の一人」として注目を浴びている子だ。
ただ私はそれどころでは無かった。
どうする? 策が無い! 何も思い浮かばない。『ピンチはチャンス』なんて言ったもんだが、ここでは『ピンチはピンチ』でしか無かった。
すると、今挨拶を終えた江藤さんが自分の席に戻らず私の席に真っ直ぐやってきた。彼女の席はこことは反対の窓側の方だ。
——— どうしたんだろう?
そう思って彼女の動きを追う。
こっちに来る。
明らかに私を見ている。
そして彼女は私の隣に立ち私を見下ろす。
当然周りは彼女を目で追い、彼女が立ち止まれば彼女の視線の先に居る私を見る。
皆見る。
皆一斉に私を見る。
——— ちょっと何やってくれてんの!
当然、意識した私は無条件に発作が始まった。
体が震え、硬直し、呼吸が荒くなるが周りにそれを気付かれないよう、必死で抑える。
ホントこの人何してくれてんの! 私は発作を抑える事で精一杯だ。
「先生、保健室連れてきます。彼女、顔、真っ青なんで」
「ん? ホントだ。大丈夫か? それじゃあ江藤、頼む」
彼女は「はい」と返事をすると私を立たせて腰の辺りを支えるように手を添えて教室を出る。え? 何? 私助かった? いや、結果発作が起きてるから助かってないのだが、最悪な状況にならずに済んだようだ。ただ、教室を出るまで一斉に視線が集まり発作は絶賛発動中だ。
ただ、この場を立ち去れるという思いから、なんとか耐えた。
そして教室を出る間際、彼女は立ち止まり振り返る。
「あ、この後委員決めるんですよね?」
「あぁ」
「なら私、保険委員に立候補で」
彼女はそう一言言い残し、私を教室から連れ出した。
彼女のこの行動の理由は二年になってから知るのだが、それまで彼女との関わりは一切無く、接点も一切無かった。
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