第28話 宗介の宗介の目覚め

 最初に断っておくがタイトルは打ち間違いとかでは無いので悪しからず。


 ——— 月曜の朝。翠さんとのジョギングで一日が始まった。

 翠さんが一緒な事で清々しい朝がより一層清々しく感じられる朝だった。

 そして登校の時間だ。俺と奈々菜は一緒に玄関を出る。すると通路に藍ちゃんが一人立っていた。

 藍ちゃんの髪型はツインテールだ。奈々菜はワンサイドヘアで左に流してまとめてる。

 奈々菜はツインテールにした事がない。俺は藍ちゃんを見て、奈々菜がツインテールにするとこんな感じかと納得する。


「おはよう」

「おはよ」


 挨拶を交わすと、「それじゃ、私達先に行ってるね」と奈々菜は藍ちゃんとマンションを出る。


「お姉ちゃん、もう少し時間かかるんでもうちょっと待ってて下さい」

「あいよ」

「じゃ、また後でね」


 奈々菜と藍ちゃんは先に駅に向かった。

 俺は外を眺めて翠さんを待つ。


 ——— ガチャ


 玄関が開くと、いつもの『陰キャスタイル』の翠さんが出てきた。


「御免なさい。お待たせしました」


 そう言いながら玄関の鍵を閉める。


「うん、大丈夫。今出て来たトコだから」

「フフ、ありがと。それじゃあお願いします」


 俺達はマンションを出ると一緒に歩き始める。マンションから駅前の大通りに出るまでは新山学園の制服を着た生徒は居ないようだ。

 なので俺は翠さんと並んで歩いた。


「今日、対面式あるんだよね?」

「だったな。何やるんだ?」

「上級生と新入生の顔合わせ。後、生徒会規約とかの説明と部活紹介……かな?」

「そう言えば部活は何入るの?」

「文芸部。養護教諭から聞いた話だと、活動も文化祭の時だけで殆ど活動してないんだって。文化祭もそれ程頑張って無いみたいだから丁度いいだろうって」

「成る程ね。俺も文化部かな……」

「勿体無いな」

「そっちもな」


 いつの間にか駅に着いた。すると奈々菜達が改札の前で待っていた。

 奈々菜達は通り過ぎる人達から視線を浴びまくっていた。殆ど双子な容姿で滅茶苦茶可愛かったら身内の俺でも魅入ってしまう。

 俺達が着くと二人は俺達に目を向ける事なく、無言で俺達の行動に合わせて歩き始める。

 周りには新山学園の制服を着た生徒が結構見えた。当然駅のホームにはうちの学校の生徒はいる。

 俺と翠さんは妹がいる事は内緒だ。逆に妹達も兄、姉がいる事は内緒にする。

 可愛い妹がいるって知られればそれはそれで注目されるからな。翠さんは分かるが俺は注目されても良いだろう? って声が聞こえて来そうだが、注目されれば俺の素顔がバレる確率が上がる。一人に知られれば最後。人の口に戸は建てられない。ネットワーク社会の今のご時世、噂なんて秒で広まる。

 駅のホームに立つ。ホームで電車が来るのを並んで待つが、俺の隣に翠さんが素知らぬフリで立っている。後ろに奈々菜と藍ちゃんが並んでいる。並んで待つ事数分。電車がホームに入って来た。電車の中は既に一杯だ。


「あちゃ〜」


 翠さんが電車の中の様子を見て小さく声を漏らす。俺と奈々菜はこの混み具合は経験がない。翠さんをチラッと見たら苦虫を噛み潰したような顔をしている。翠さんも経験が無いようだ。

 扉が開き押されるままに電車の奥に入って行く。すると俺を中心に、右手に奈々菜、左手に藍ちゃん、正面に翠さんが密着する形になってしまった ——— 。

 ——— 発車して一分後。俺は今、絶体絶命とも言える状況にある。俺の『宗介』が目を覚まさんとムクムク反応しようとしていた。『宗介』が目を覚ますと俺は桜木姉妹は元より、妹の奈々菜からも軽蔑の眼差しを頂くのは、ある種の人種にはご褒美になり得るが、俺にとっては恥辱以外の何物でもない。

 これは参った! 最高だが最悪だ! これはやばい! 般若心経十回唱えても心が鎮まらん! 兎に角柔らかいおっぱいでは無い感触と温もりが三方向から襲ってくる。



 ※  ※  ※


 初めてこんなに混む電車に乗っただが、男性と……しかも超絶イケメンの宗介さんに密着してしまっている。今の見た目は陰キャだけど……ただでさえ男性に免疫が無い私だ。宗介さんの香が……うん、そうそう♪ この香り♡ ジャケットと同じ匂いだ。なんかドキドキ…… “ガタンガタン„ キャッ……あ、思わず服掴んじゃった。体が密着して温もりが……体もしっかりしてて安心感がある。なんかいつまでもくっついていたい気持ちにさせる……離れたくないな……。

 藍を見ると藍も同じように宗介さんの腕にしがみついてうっとりしてた。

 私も藍も男性に対する免疫は普通の女の子より無いと思う。

 免疫が無いと『拒む』ってイメージが強いと思うけど、私達の場合『欲望に抗えない』方に働いちゃったみたいだ。肉食系のようにガッつく感じでここぞとばかりに密着した♡ 藍もそうだね。

 ——— そういや、宗介さん女性恐怖症だったっけ。



 ※  ※  ※



 俺は四方を美少女達にホールドされている。右も左も正面も柔らかい温もりオッパイではないが俺を包む。女の子の体は全体的に柔らかい。ただ、このままでは俺は妹に欲情する事になる。それは避けたい。

 奈々菜は普段から俺に抱きついたり背中に寝そべったり色々密着しているから慣れている。俺はそれを利用する事にした。

 まず奈々菜の感触がどれか、意識を集中して全身をサーチした。触れ慣れた感触だ。今の俺なら奈々菜の温もり、柔らかさは見なくても分かる。そう! 妹は今縋っている! 俺は妹に神経を集中した。そう! この感触。昨夜も俺の背中に寝転がって来た感触に間違いない! そう確信すると共に俺の『宗介』は静かに眠りに就こうとした……その瞬間! 聞き慣れた声が聞こえて来た。


「ちょっと電車の揺れ、踏ん張れない。お兄ちゃん腕貸して」


 ——— あれ? 何で? 左腕に捕まっているのが奈々菜じゃないの? そう思ってゆっくり左に目を向けると、の奈々菜が俺の腕に縋っていた。そしてゆっくり右を見ると奈々菜が吊り革を掴む俺の腕に捕まっていた。


 ——— あ!


 気付いた瞬間、俺の『宗介』は再び起床し始める。俺は急いで般若心経を唱えつつ、神経回路を右腕に集中するが俺の集中力はここで途絶える。事もあろうか、翠さんの感触が俺の『宗介』を支配し始めた。

 ただ俺は思った。これで良い。これなら妹に欲情する事はない。妹で宗介を起こしたらそれはそれで大変だ。

 俺はこの時冷静ではなかった。

 『妹で欲情して「宗介」ガー』では無い! 公衆の面前で『宗介』を起こす事自体が事案で事件だ。

 あー……最高だ! 最高で最悪だ! まさに天国と地獄。妹の目の前で俺の『宗介』を起こすわけには行かない! いや、公衆の面前で起こす訳には行かない! 耐えろ! 耐えるんだ!

 そして耐えた。兎に角耐えた。しかし追い討ちをかけるように奈々菜とは違ういい香りが鼻先を刺激し理性を飛ばす。

 このままでは『宗介』が反応する ――― !




 ——— ギブアップ!




 俺は負けを認め涙した……。

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