第27話 実は……②

 ——— 早朝、ジョギング中に3×3コートで俺は翠さんとばったり会った。


「宗介……さん?」

「あれ? 翠さん、おはよう」

「おはよう。早いね」


 翠さんは慣れた感じでコートの中に入って来た。


「え? あぁ、日課。毎朝走ってる。翠さんこそ……もしかして?」

「うん、私も走ってる」

「え? マジ? そうだったんだ。昨日そんな話出なかったよね? って俺も出さなかったか」

「私はこっちに引っ越して来てから始めたんだ。まだ日課にもなってない感じ? だから自慢気に『毎朝ジョギングしてる』なんてまだね。因みに今日で一週間だね」

「そうなんだ」

「ちょっとボール貸して」


 俺は片手で下から『ポイッ』と投げ、翠さんの足元でワンバウンドさせてボールを渡す。

 翠さんはボールを受け取ると、ゴールを見ながら手元を見ず、手慣れた感じで両手で地面にボールを二回突いてツーハンドシュートでシュートを放った。


 ——— シュパッ………。


 ボールは綺麗な弧を描き、リングに触れる事なく通り抜ける。


「——— ヒュー♪」


 俺は華麗なシュート思わず口笛を吹いた。そしてボールを拾いに行く。


「凄いな」

「一応、元バスケ部です」


 そう言って笑顔でVサインを出し俺に誇示する。


「シュートだけは自信あるんだぁ。ドリブルとかは……まぁ、ソコソコだとは思うんだけど……」


 俺は転がるボールを拾いそして一度アークライン辺りまでボールを突いて下がる。そしてドリブルしながら一気にゴールに切り込み、


 ——— ダン……ダン……ダン…………パサッ……ダントントトト……


 俺はレイアップシュートを放つ。


「綺麗……もしかして宗介さんもやってた?」

「やってた」

「なんだ、言ってよもう……」

「まぁ……この学校ではやるつもり無いからな」

「……私もね。ウィッグ邪魔!」


 翠さんはそう言って髪の毛をグシャっと掴む。掴んだ髪は亜麻色の地毛だ。


「そのうちさ、奈々菜と藍ちゃん誘ってやってみるか」

「うん」


 ——— 俺達はこの場を離れ、歩いてマンションに向かった。


「——— そっか、毎朝見かけてたの、あれ、翠さんだったんだ」

「多分私だね、——— ね、もし迷惑じゃ無かったら明日から一緒に走んない? 宗介さんさえ良ければだけど」

「それは全然良いよ」

「ありがと。これで何とかジョギングが朝の日課になるような気がするよ」


 そのまま走る時間とかも決めながら俺達二人は部屋に戻った。



 ※  ※  ※



 ——— シャワーを浴び、朝ごはんも食べ、ひと段落な空気だ。

 そして今、藍が私の部屋にいる。ただ二人でゴロゴロしていた。


「ねぇ、藍、宗介さん秘密が幾つか分かったよ」

「何々?」

「まず、毎朝走ってる。普段から鍛えてたみたいだね」

「へぇ。あの腕の筋肉とチラ見せの胸筋は只者じゃ無いと思ったけどそうだったんだね」

「でね、朝一緒に走る事になったの」

「よかったじゃん♪」

「良いかどうかは分かんないけど私の日課にはなりそうだね。でね、バスケットマンだった」

「マジ⁈ 何その無駄な上昇補正……スポーツマンって、完全にオーバースペックだね。これ、惚れない方が難しいよ」

「うん、ちょっと意識しちゃう……かな?」

「しちゃえしちゃえ♪」



 ※  ※  ※



 ——— ジョギングの後シャワーを浴び、上半身裸で部屋に入ると奈々菜は俺のベッドの上で本を読んでいた。

 いつもの事なので気にはしないが……。


「ここに居たか」

「何? 私が朝、洗面所に入って居ないって珍しい事もあるもんだなって思ってたけど、どうしたの?」


 俺はチェストからシャツを取り出し袖を通す。


「毎朝、マンションに入って行く女の人を見かけてるって言ったよな?」

「言ってたね」

「今日、その女の人と話した」

「え? お兄ちゃん、その顔で大丈夫だったの?」

「あぁ。大丈夫だった。っていうか、翠さんだった」

「え? 翠さん朝走ってんの?」

「走ってた。でだ、バスケやってた」

「へー、なんかインドアな印象あったけど意外」

「で、毎朝一緒に走る事になった」

「よかったじゃん」

「んー、そこは良いのか分かんないな」


 ——— この日の俺と翠さんの関わりはこれで終わりだ。

 午前中、翠さんは病院へ行くと言っていた。社交不安症の治療……と言うよりカウンセリングだ。

 俺は家で映画を見ていた。

 午後も何をするという訳でもなく、ダラダラと過ごす。

 翌日の朝、初めて翠さんと一緒にジョギングをし、そして日中は特に何もせず、自分の時間をダラダラ過ごした。


 ——— そして月曜日。今日もジョギングをする。俺は心無しか顔を合わせるのが少し楽しみになって来ていたのだが、まだ自分でもその『楽しみ』と言う感情というか感覚がよく分からないでいた。


「今日はこのあと学校だね」

「だな。それじゃあ玄関先で待ってるよ。それでいいか?」

「うん」


 何気に待ち合わせを約束するが、よくよく考えると『一緒に学校に行く』前提で話をしていた。

 入学式と違うんだ。

 別に一所じゃなくてもいいんだが、一緒に通学する事に抵抗は全く感じなかった。

 そして ——— 。



 ※  ※  ※



「——— 流石に電車、混んでるね」


 今、窮地に立たされている。

 俺は社会的に抹消されかねない事態に直面していた。

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