第26話 実は……①

 ―――ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピp…


 私は目覚ましを止め時間を見る。針は五時四十五分を指していた。

 毎朝五時十分に起きているのだが、昨夜は宴会の片付けで寝るのが遅く、目覚ましも無意識に止めスヌーズになっていた。


「あちゃー、寝坊したか……ま、今日は土曜日だし今から走っても支障ないね」


 少し遅い時間だが、私は日課になりつつあるジョギングをする事にした。

 継続は力だ。

 私は手早く支度をした。

 ジョギングはこの街に引っ越して来てから始めた。精神的な病はストレスが蓄積されやすいからね。

 なので運動をして発散させる目的で始めたんだけど、


「うーん……冷たくて澄んだ空気……堪んないね。汗も気持ちよく掻けるし……いいね」


 元々運動好きだった事もあって、早朝のジョギングを日課とするのに時間は掛からなかった。

 ジョギングの時は流石にウィッグは着けない。代わりにターバンヘッドのような大きいヘアバンドを頭に着けて走る。

 ウィッグを付けずに人前に出て大丈夫なのかと言われそうだけど、私が駄目とするのは『自分に視線が事』だ。一人二人の視線は一瞬不快感は覚えるがどうという事は無い。

 朝、しかも早朝は人も殆ど見かけず、又、走り始めて一週間。日頃見かける人も少し慣れたのか普通に挨拶をしても最初の頃のような反応は薄くなった気がしていた。

 今日はいつもより遅い時間にマンションを出たので、すれ違う人の顔触れがいつもと違っていた事に少し新鮮さを覚える。

 ただ流石に初めて見かける人が殆どだ。『え⁉︎』っという顔はされる。

 私のジョギングコースは運動公園の近くを通る。今日もその公園に差し掛かかるが……


 ——— ダン、ダン、ダン、ダン…………


 ボールを突く音が聞こえてきた。

 早朝で喧騒の無い今の時間は音がよく響く。

 この音はバスケットボールを地面に突く音だ。間違いない。

 確かそっちにコートがあったけど……。

 私は中学生の時の部活はバスケットボール部だった。一応、二年生でレギュラーになれる位の実力はある。そしてバスケットボールは好きだったので、当然、この音を聞けば昔の血が騒いで来る。

 気になった私はジョギングコースを少し外れ、音のする方へ向かった。

 向かう先には3×3スリー・エックス・スリーのコートがある。


 ——— ガシャーン……ダン、ダンダダ…………


 コートに着くと、男の人が一人、バスケットボールで言う処の3ポイントライン3×3は2ポイント。このラインを「アーク」と言うからシュートを決めていた。


「リングに触れるか……やっぱ、ボールの大きさか? ちょっと小さいもんな……」


 その男性はボヤキながら転がるボールを追いかける。

 何となく見覚えのある後ろ姿だ。

 その姿を黙って見てると、男はボールを拾い振り向いた。

 そして金網の外に立つ私と目が合った。



 ※  ※  ※



 俺は朝の日課であるジョギングをしている。

 走りながら翠さんの姿を思い出していた。

 しかし綺麗だった……いや、綺麗よりは可愛い感じなのか? 俺的には可愛い方が好みなんだが……あの吸い込まれそうな大きな目……実際吸い込まれてた訳だが……俺の女性恐怖症も平気な女性ひとがいるって分かった。

 これは大きな収穫だ。

 藍ちゃんが平気なのは、完全に藍ちゃん自身の態度だな。

 妹に似てるっていうのもあるかも知れないが、彼女、俺に興味示さないのが一番でかい。

 翠さんは……翠さんの素顔を知る前から平気だった。

 俺が相手の事を知れば平気なのか? 

 それが分かれば……と、ふと周りを見ると、全く見覚えのない場所を走っていた。


「——— どこだここ?」


 周りにはサッカーゴールが置いてあるグランド、野球場、テニスコートがある。

 どうやら運動公園に迷い込んだらしい。

 俺は今スマートフォンを持っていない。人知れず迷子になったようだ。

 運動公園は綺麗に整備されているが管理棟などは無く、自由に使っていいようだ。

 そして俺の目に飛び込んできたのは、バスケットゴールだ。俺はそのゴールに近付く。


「半分……3×3スリー・エックス・スリーか……」


 コートは金網で囲われている。ただ、出入り口には鍵が掛かっておらず、出入りは自由のようだ。コートを眺めていると、誰かが忘れていったと思われるバスケットボールが転がっていた。

 俺はコートに入りボールを拾ってその場でボールを突き始める。


 ——— ダン、ダン、ダン、ダン……


 まだ早朝、喧騒も無い時間帯だ。

 ボールを突く音が公園内に良く響く。

 ただ、民家は近くに無い。なので音を気にする事なくドリブルをする。

 そして ——— 、


 ——— ダン……ダン……ダン…………パサッ……ダントントトト……


 ドリブルで走り込み、軽くレイアップシュートを決める。


「やっぱいいね」


 次はアーク2ポイントラインに立ち、数回ボールを両手で地面に突いてからシュートを放つ。


 ——— ガシャーン……ダン、ダンダダ…………


 ボールはリングに当たって入った。


「リングに触れるか……やっぱ、ボールの大きさか? ちょっと小さいもんな……」


 俺はボヤキながら転がるボールを追いかけ、そしてボールを拾い、頭を上げ振り向くと、金網の外に女性が立っていた。


 ——— 翠さんだ。

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