第25話 真壁宗介②

 ——— 俺が話終わると、藍ちゃんが姿勢を直す。

 直すのはいいんだが、藍ちゃんは部屋着感が強いミニスカートとロングTシャツ姿でいる。

 この部屋に入ってからチョイチョイ姿勢を直していたが、その度にパンツが見えていた。

 俺は見ないように見ていたのだが、ただ、奈々菜と顔が同じなので微妙な気分になっていた。

 俺の中で藍ちゃんは奈々菜と同じと言う事がパンツで分かった。

 そして翠さんがちょっと神妙な面持ちで俺に質問してきた。


「あのー……初めて会った時から感じてた事あんだけど……」

「何?」

「宗介さんって……女性恐怖症?」

「え?! 何で?」


 俺は驚いた。翠さんと一緒に歩いたのはまだ数回だ。そしてそんな素振りを見せたつもりも無い。


「初めて一緒に歩いた時から感じてたんだけど、なんか女性が近付くと何となく身構えてるって言うか強張ってる様な気がして……」


 まぁ、知られて困る話でも無い。過去の話もした事だし、俺は素直に翠さんの質問に答えた。


「凄いな。一応、そんな素振り出さないように気を付けてたんだけど……実は、女性が近付くと体がちょっと身構える。すれ違うなら一瞬『ハッ』とする感じか? 近くにいれば体が強張る。でもその程度な。理由は……今まで散々言い寄られてきたからだとは思うんだけど……しかしよく気付いたな」

「うん……何となくね。あ、私と一緒に歩いてて大丈夫なの?」

「それがな、翠さんは大丈夫。あと藍ちゃんも。何でかは分かんないけど初めて会った時から全然」

「そうなんだ……良かった。今日も学校行く時とか無理してたらどうしようって思ってたから……でもそこは『翠だけが大丈夫』って答えて欲しかったかな? 藍はここでは邪魔ね」

「ひどーい。お姉ちゃん何アピールしてんの!」

「え? アピ……あ、うん? ……いやいや、アピールって……何の事か……なぁ?」

「妹を邪険にするなんて翠さんも結構悪い奴だな」

「う? うん、そうそう。邪険、邪険ね。そそ、私、逆に良い子の時を見せた事無い……よ あわわ」


 慌てる翠さん。それを見て察する奈々菜。ニヤニヤの藍ちゃん。なんなんだ?


「そう言えば、宗介さんは小学生の頃はそんなにモテなかったんだ?」

「あぁ、告白された事は有ったけど月一位かな? 五年生位から女の子がキャーキャー言い始めた気がするな」

「で、さっきの何なの? バレンタインチョコ学校の女の子全員から貰ったって……何それ? 凄いよね」

「うん、あれはホントに困ったよ。朝学校に着いたら下駄箱の中が赤い包装紙の物で埋め尽くされてて、何の嫌がらせか? って」

「なんか想像したら、その場に立ち尽くしてる自分が見えた」

「私も」

「うん。まさにそのとおりで、両手で抱えて教室に入れば教室の後ろに棚在るだろ? その棚もチョコで一杯で、机の上も中も足元もご丁寧に新聞紙敷いて山積みされてて、椅子にまで置かれて、両手のチョコの行き場所も無くて、困り果ててた処に更に追い討ちでじかに渡してくる子もいてさ」

「なんか困り果ててる宗介さんが目に浮かぶね」

「うん」

「で、クラスの奴が気を利かせて段ボール持って来てくれてその場は難を逃れたんだけど、今度は段ボールの置き場所が無くてさ」

「ホント迷惑な奴らだね」

「でも、私達も同じ学校に居たら一緒になってチョコ渡してたかもよ」

「あー……だね」

「勘弁してくれ。で、昼休みになったら飯食う暇なく行列出来て、俺の机から廊下の向こう側まで列が出来たらしくて、で、聞いた話では学校中の女子、ほぼ全員が俺にチョコくれたって」

「はぁー……ホント凄いね。で律儀にホワイトデーのお返ししたんだ? で、何? 握手会やって失神した子もいたって? それ、何処の事務所のアイドルグループよ」

「失神はまぁ……別に女の子達がどうだって事は無かったからいいんだけど、その後が大変だったんだよ」

「その後って?」

「腱鞘炎で両手力入んなくて鉛筆も箸も持てなくてさ、そしたら取り巻き達がノート取ったりご飯食べさせたり『私が世話する』って殴り合いの喧嘩始めてさ……」

「はぁ? 何それ。で何、病院送りになったとか?」

「…………」

「ウソ! マジで?」

「二人入院した。で、見舞いに行ったらメチャクチャ号泣されて、その母親も娘に『怪我して良かったね』って……」

「………………」


 翠さんと藍ちゃんは目が点になった。


「…………ごめん、言葉失ったわ。なんか壮絶な中学時代だったんだね」

「ずっと女達に纏わりつかれたお陰で友達なんて出来なかったし、外出歩くのも専ら奈々菜とだけだしな」

「私は結構恩恵あって、私からお兄ちゃんに取り次いで貰おうって魂胆で、去年一年間、お姉さん達に色々優しくして貰ったけどね」


 奈々菜の話を聞いた藍ちゃんは、突然声を上げた。どうやら去年感じた違和感の原因に気が付いたようだ。


「そっか! 私も一年の時、他の子に比べて先輩達、私に優しいなぁって思ってたんだけど、そういう事だったんだ。男子は私に対する下心も有ったろうけど、女子の先輩達、なんで優しいんだろうって……そっか、お姉ちゃん取り込むつもりだったんだ」

「宗介さんが女性恐怖症になったのも頷けるわ。常に纏わりつかれたらそりゃ嫌になるよ」

「多分、翠さん達が平気なのは、藍ちゃんは俺の顔見ても、興味を示さないからだと思う。翠さんは素顔見せる前に翠さんの事を知ったからかな? 正直、さっきまでの翠さんの反応が普通の人の反応だから……」

「あら? そういう宗介さんも私に対して普通の人と同じ反応してたよ?」


 翠さんは首を傾げて俺の顔を覗き込んで来た。あまりの可愛さに俺はたじろぎ目を逸らした。


「そう考えると、奈々菜も親父もお袋も翠さんの顔って見慣れた感じなのか?」

「だね。藍ちゃんもそうでしょ? お兄ちゃんの顔って……」

「うん、駅でその顔見た時『お姉ちゃんと同じ』ってね」

「あー……そういう事か。やっとあの時の『同じ』の意味が分かったよ」

「そういう事」


 ——— 夜も更け、今夜の宴会はお開きとなった。

 翌朝、俺はジョギングで意外……でもない人物と顔を合わせる。

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