第24話 真壁宗介①

「真壁宗介」

「はいっ!」


 中学校入学式。名前を呼ばれ、元気よく返事をする俺がいる。

 中学生に成り立ての頃は全てにおいて可も無く不可も無く、無難な普通の少年だった……筈だ。

 一年の時は、女の子数人から告白されるなど、リア充なイベントは在ったものの、恋愛なんてお子様脳だった俺には全く理解できなかった。告白されても、


「よくわかんないや」


 って、バカっぽい返事をして女との関わりをかわしていた。女よりも男友達とバカな事やって遊んでいるのが一番楽しかった。

 しかし、二年生になると徐々に状況が変わって来た。


 夏休み、急に身長が伸びた。そして声変わりをする。

 中学入学時点から伸び続けては居たのだが、夏休みが明け、一ヶ月振りに会った連中からは「デカくなったな」と、声を掛けられた。

 部活で顔を合わせていた連中は、殆ど毎日会っていたから「そうか?あんまり変わんねーだろ」という反応だった。


「真壁君、好きです。付き合ってください」

「——— 御免なさい」

「ねぇねぇ。放課後どっか遊びに行こうよ」

「部活で忙しい」


 校舎裏での告白は週二回は当たり前。放課後、休日のお誘いはほぼ毎日だ。夏休みが明けてから、そんなやりとりが日常的に行われるようになった。


 ——— 君、先月も告ったよね?


 覚えていないと思われてるのか、リトライしてくる女子も多かった。

 兎に角、廊下を歩けば「キャー」。

 靴を履いていれば「キャー」。

 鉛筆を落とせば「……」。

 授業中だ。流石に声は上げなかった。

 兎に角モテた。みんなにお裾分けしたい程モテた。

 クラスカースト上位の女の子数人は常に俺の周りに居た。顔を合わせれば、


「付き合って♡」

「だが断る!」


 が、挨拶がわりだ。因みに彼女達の名前は覚えていない。

 この子達が纏わり付いてたお陰で男友達は誰も俺に近付けなくなり、部活仲間以外の男友達と疎遠になった。全くいい思いはしなかった。


 そして季節はバレンタイン。——— 一つの伝説が生まれた。

 なんと! 学校に在籍する女子のほぼ全員からチョコを貰ったのだ。その数……見るからに百を超えてて数えるのをやめた。

 ——— 持ち帰れない。それ以前に置き場所がなく、大きめの段ボール五つに入れ、先生に断ってその辺の倉庫に置かせてもらった。

 下校時間。段ボールを眺め、どうやって持って帰ろうか途方に暮れていたら、見かねた先生(新任で女)が車で自宅まで運んでくれた。

 荷物を卸すと「はいコレ」と言ってトドメのチョコを手渡された。 ——— 義理チョコだ。

 あまりのチョコの量に、お袋と妹は、目が点になっていた。

 夜、箱を開け一つチョコを食べた。それは手作りチョコだったのだが……。


「ん ——— !」


 変な舌触りがしたのでチョコを吐き出した。吐き出したチョコから黒い糸状の物が出て来た。髪の毛だった。

 手作りチョコは全部捨てた。この日から、見知らぬ女子が作った食べ物は食べない事にした。


 ——— そしてホワイトデー。


「貰った物はお返しはしないと、人としてダメでしょ」


 我ながら律儀である。ただ、数が半端じゃない。あと、誰がくれたか判らない。学校の女子ほぼ全員なんだが……。

 最近、人付き合いも薄くなり、相談相手が居なくなたので、取り巻きの女の子達に相談してみた。


「握手会でいいっしょ」


 と、軽いノリで言われた。

 放課後、部活を休んで校庭の邪魔にならないところで、机と椅子を出して「握手会」をやってみた。全て先生の許可は貰っている。

 場の仕切りは取り巻きの女の子達だ。凄い行列ができた。

 握手会が始まり、一人十秒の握手を交わす。最初は人数を数えていたが、二十より先は数えるのをやめた。後半、握力がなくなって来た。

 アイドルグループ◯KB系列がやってる握手会の過酷さを思い知った瞬間だった。

 どの筋トレよりも厳しい練習だったと思う。部活を休んだはずなのに、誰よりも厳しい練習……いや、鍛錬をしていた。

 一時間はやっていたのだろうか? 右手が逝き、左手も逝った。何人か感極まって失神したのは、俺のせいじゃないとだけ言っておく。


 三年生になり、身長も176㎝と平均身長よりは大きくなり、顔も幼さが徐々に消え、イケメン度は更に上がったと嫌でも自覚した。

 この頃には、決して小さい街では無かったが、街中の中学校に俺の存在が認知されていて、街を歩くと手を振って挨拶されたりした。

 学校生活は二年の頃と殆ど変わりなく、


「真壁君、好きです。付き合って下さい」

「御免なさい」

「ねぇねぇ。放課後どっか行こうよ」

「受験有るから勉強しないと」


 は、相変わらずの日常であった。

 普通、モテれば同性から妬まれたりするものだが、俺の場合、


「あそこまではちょっとなー」

「ハーレムにも限度がある」


 と、哀れみの目で見られていた。

 そして季節は再び悪夢のバレンタインへ。

 なんと! この年のチョコは母と妹からの二個で終わったのだ。

 昨年のバレンタインで途方に暮れている俺を見た女子数人が「真壁君にチョコあげない協定」を呼びかけ、女子全員と協定締結したとのことだ。

 因みに違反した者がどうなるかは、女社会を知る者であれば想像に足る。

 聞き込みで、言い出してくれた女の子達(俺は「六人の聖女」と名付けた)を教えて貰い、ホワイトデーにクッキー(一つ330円税込)をあげたら、その内の四人が大号泣して、午後、授業にならなかったそうだ。


 ——— そして夕食時に親父が開口一番。


「本社に転勤だ」

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