第18話 蒼苑の想い
「私は萌希を捨てたわけではない」
二人は蒼苑様の言葉に驚いた顔をした。
「そんな…でも姉上は家に戻ってきたんだぞ…」
「そうだ、お前は姉上を捨てたんだ」
絞り出す声には戸惑いと怒りがこもっていた。
「家に戻り体を休めと言ったのは私だ…産み月より早く子がでてしまったのは萌希のせいではないのに自分を責めてばかりいたから…」
「蒼苑!」
「あのまま
「蒼苑!!」
話を聞いていた敦子様が赤い顔で名前を何度も呼ぶ。
「あの女を戻す?何をおかしなことを言うのです。いいですか、子を産めぬ女は用は無いのです。新しい妃の話はいくつもあるというに」
「母上、私はこれ以上妃を迎えるつもりはありません。萌希のことも…小夜のことも…私のせいです…」
目頭を抑えた蒼苑様は泣いているようだった。それを見て二人も複雑な顔をしている。
「姉様…」
隣にいた諏訪媛様がつぶやきながら下を向いた。蒼苑様に嫁いでいたお姉様を思い出したのかと心配していた時だった。
「子を産めぬ女も子ができないからと自害する女もそなたにはいらぬものだと何故わからぬのですか」
敦子様の心ない言葉に、俯いていた諏訪媛様が顔を上げた。
「…それでも…それでも姉は蒼苑様をただ思い、蒼苑様の子を一途に願っておりました。だからこそ子ができぬことに苦しみ、いつしか心を病んでしまい…本当に…」
涙が溢れ、言葉に詰まりながらも伝えようとする諏訪媛様の姿に皆が驚く。
「そなた小夜の……」
「はい諏訪にございます」
「諏訪媛であったか、申し訳ない。小夜と共に会ったのは、まだ幼子の時であったな」
「はい…」
「母上は大事なかったか?百井は大事ないと言うばかりで、案じていたのだ」
「ずっと伏せっていたのですが先ごろ、やっと起き上がることができました」
「そうか…それはよかった…」
蒼苑様と諏訪媛様の会話を聞いていた二人がゆっくり刃を降ろし隼人様から離れた。
「…姉上は戻れるのか…?」
「ああ、もちろんだ。案ずることはない。館で待っていると伝えよ」
「…こんなことをしてしまって…どうすれば…」
「気にすることはない」
「…でも」
「蒼苑様、今日の余興はいかがでしたか?」
「余興?貴仁様…何を…」
「隼人と共に蒼苑様を驚かそうと考えた余興です。そのためにこの者たちに無理を言いました。お前達、礼を言うぞ」
「えっ…」「あ…」
驚いた二人とは対照的に貴仁様の言葉と笑顔に隼人様も蒼苑様も笑顔で頷いた。皆がこの場をうまく収めようとしていた。
「この者たちを直ちに捕らえなさい」
敦子様の容赦ない命令に警護の者が一瞬動きかけたが蒼苑様が制止した。
「母上、貴仁様と隼人の余興にうまく乗せられましたね」
「蒼苑!私は許しませんよ」
「母上、余興だと言っているでしょう。これはもう終わりです。これ以上何かするならば私が黙っていません。母上でも許しません、いいですね」
蒼苑様の強い言葉に敦子様は文句を言いながら、先に帰ると館を後にした。
「貴仁様の機転に助けられました」
「蒼苑様」
「隼人、諏訪媛、明日香媛も迷惑をかけてすまなかった」
「大雅、凰雅、萌希に伝えてくれるか?」
「はい」
「私はいつまででも待っていると。心が落ち着いた時でいい、戻ってきてほしいと」
「はい!」
「信じていいの…ですか?」
「ああ大雅。そなたや凰雅のような弟がいて萌希は幸せだな。戻るまでの間、萌希を守ってくれるか?」
「はい!」
やっと笑った二人の顔はとても幼く可愛く見えた。
「隼人、二人を送ってくれ。私は諏訪媛を送ろう」
「いいえ、そのような…」
「いいのだ。百井にも奥方にも謝らねばならぬと思っていた。そなたに会えたのも小夜の導きだろう」
「蒼苑様…」
蒼苑様と諏訪媛様が館を去ると隼人様も二人を連れて館を出ていった。残ったのは私と貴仁様だけになった。
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