第19話 貴仁の告白
皆がいなくなった館の庭に二人で並ぶ。先ほどまでいた警備の者も陰に隠れ、お付きの者も待つために外に出てしまった。
「大事ないか?」
「はい、貴仁様は?」
「大事ない」
「…貴仁様はご存じだったのですか?」
「何を?」
「蒼苑様の妃の方の…」
「そうだな…我が母の妹君…隼人の母上様は隼人が生まれるまでいつもつらそうにしていたと母から聞いたことがある。敦子様はあの通り気位の高いお方で蒼苑様の妃達に厳しいのは周知の事実だった。これまでもいろいろと噂が多かったが…」
「…」
「隼人が心配していてな。跡継ぎばかりを望む敦子様、そのためにきつく当たられる妃達、そのことに心痛める蒼苑様を」
「…隼人様が…」
「敦子様は…溺愛する蒼苑様が帝になることを誰よりも願っている。そしてそれを継ぐだろう隼人も溺愛している。だが隼人だけでは物足りぬと妃を増やし、男児を産めと…」
「…」
「帝というものにそれほどの魅力があるのか…私にはわからぬが…敦子様には重きことなのだろう」
「はい…」
「だから敦子様にとっては、紫苑帝である父も跡継ぎの私も憎き相手でしかない」
「そのようなことは…」
「ないと言いたいが…今でも父を帝から引きずり下ろすことを常に画策していることは皆が知っている。だが事を起こさなければ、罪に問うことすらできないのも事実」
「諏訪媛様のお姉様のこと、今日知りました」
「そうだろうな。知らせるようなことではない上に敦子様から余計なことを言うなとおそらく口止めされていただろう」
「そうなのですね…」
「あの様子では敦子様は引き下がることはないだろうが蒼苑様がお優しいのが救いだ。今後も板ばさみなのは目に見えているが」
「隼人様もお辛いでしょう…」
並んで話していた貴仁様が急にこちらを向いた。
「明日香媛、私達の話をして良いか?」
「…はい」
「隼人とのこと聞いた。敦子様が決めたのだろうが隼人には嬉しい話だっただろう。明日香媛でなければ…私も祝福していた…」
「…」
「だが明日香媛を妃にと聞いて…黙っていることはどうしてもできなかった。私が直接先生に、いや明日香媛の父上のところに行くと言ったら、父上に止められた。そして代わりに話をしてくれたのだ」
「…」
「…隼人が好きか?」
「…」
「私は明日香媛が好きだ。幼き時から…この気持ちだけは隼人には負けぬ。それを今日会って伝えたかった」
強い言葉と真っ直ぐな瞳に私は動けないでいた。
「なんと言って良いか……。私はどちらかを選ぶことなど考えたこともございませんでした…。お二人と出会った幼き日より、三人で過ごす日々は楽しく…それはかけがえのないものでございました…」
「そうだな、楽しかった。隼人と明日香媛と三人でいることがただただ楽しかった」
「本当に…」
「大人になるのはつらいことだな…」
「はい…選ぶしかないとわかっております…誰の言葉にも流されず自分で決めたいと父に我儘を言いました」
「そうか…どちらを選ぶかを媛が決めるとわかって少し安堵した…」
「…」
幼き日の顔とは違う凛々しい顔の貴仁様が私に微笑む。
「今宵そなたに会えてよかった」
「私もでございます…」
「また会える日を楽しみにしている」
貴仁様のその言葉を後に私達は館を後にした。
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