第6話 夫婦で相談、猫を添えて。

 威智は少しばかり特殊な夢見をする人間である。

 濃密で濃厚な夢と言ったらいいのだろうか……力ある夢で、我ら夢猫が好む夢。

 その夢の力が自身を蝕む程に。

 こう言った者は夢猫を引き寄せる。

 夢猫がその力ある夢を食らえば、夢主は夢の力に蝕まれる事がなくなり、夢猫は力ある夢で腹を充たす事が出来る。

 win-winな関係の出来上がりである。

 力ある夢は我らの口に合う美味なモノ。 普通の夢よりも我らを満足させる夢なのだ。



「威智ちゃん、今年のクリスマスプレゼントはどうしようか?」

「児童書と絵本は数冊見繕ってみたよ」

「威智ちゃんオススメの本ね、後で調べ見ててみるわ」

「よろしく。あとはなぁ、仁和はアイドル魔法使いのマント風コートが欲しいって言ってたなぁ」

「確かに、コートが欲しいって盛り上がってた!」

 子供たちが寝静まり、威智と理乃がリビングでのんびりクリスマスプレゼントの相談を始めた。

「悠良はト〇カかな?」

「新しい施設セットが出たって言ってたわね。 カードゲームも欲しいって言ってなかった?」

「あー、言ってたかも。 図鑑が欲しいっても言ってたなぁ。 翔有はアニメ放送してた漫画が欲しいって聞いたけど」

「楽器がやりたいっても言ってたわよ?」

「え? 楽器?」

 初めて聞いたと威智が驚く。

「SNSか動画で何か観たんじゃないかな? ギターがやりたいって言ってたわ」

「ギターかぁ」

「でも楽器は手にしてみて、しっくり来るモノがいいんじゃないかと思うのよね」

「そうだね」

 とりとめなく子供たちが欲しがっていた物を上げていく。

「ねるはちゅるるだよね」

 威智が寝るのを待つ我は、夫婦の語らいの傍らで香箱座りで会話に耳を傾けていた。

「蹴りぐるみがそろそろ寿命感漂ってたわよ」

 威智よ、ちゅるるを捧げるのはいい心がけだが、我は知っているのだ。

 プレゼントだと渡されたちゅるるだからと言って、一日に食せるちゅるるが増えることはないのだとな!!

「中の綿が出てきてたね」

「羽根の猫じゃらしも、羽が抜け落ちて寂しいことになってたから新しくしてもいいんしゃない?」

 理乃は玩具はどうかと言って、キャットタワー脇に転がる蹴りぐるみを見た。

 確かに所々中の綿が飛び出し始めている。

 しかし、この飛び出した綿もまたいいモノであるのだが、この味わい深さは人間には分からぬか、理乃は新しいものを我に捧げたいと言う。

「仁和は、コート以外だと何か言ってたかなぁ?」

「アイドル魔法使いがマイブームみたいだからソレ系統のものかしら?」

「こないだイベントがあったからその映像が収録された円盤とか?」

「そう。 今も持ってるブルーレイをエンドレス上映会だから、喜ぶとは思うの」

 飽きることなく繰り返し上映される歌って踊って演じる映像か。 仁和は時間さえあれば観たい観たいとせがんでおったな。

 高頻度で催される上映会のため、それに付き合わされる翔有と悠良はまた観るのかと呆れておった。

 呆れはするが、なんやかんやと一緒に観てやる優しき兄たちでもある。

 なんなら一緒に歌って踊っておるからな。

 覚える程観せられたとでも言うか。

「とりあえずまたリサーチだね」

「そーだね」

 話は一段落の様だな。

 そろそろ寝る時間であろう。



 香箱座りからすっと立ち上がり、ぐぐぐっと伸びをする。

「ねるの足が伸びたー」

「その伸びた分はいつもどこに隠してるのかね?」

 この夫婦はいつもコレである。

 そんな簡単に足が伸びたり縮んだりする訳がないだろうに、毎回毎回飽きもせずにこにこと。

「お座りした時の、あのくるんと前足にかかるシッポがまた可愛いんだよ」

「かわいいねー」

「シッポの絡まったあのクリームパンフォルの前足、愛らしさしかないよ!! 芸術的だよね!! 肉球もさ、愛でられる為にある形だし、ふにふにぷにぷにエンドレスだけど、揉むのもいいけど嗅ぐのもまた止められないんだよねー、嗅ぎながら頬に肉球をあてさせてもらってさ、あの感触はもーさ、天国です。 両前足の肉球で頬を挟まれたら昇天必至!!」

 威智の、猫好き語りたいスイッチが入ったらしい。

 こうなると止まらなくなるのは分かっている。

 そして理乃は、ニコニコと頷き飽きることなく聞き続ける。

 止めんかい。

 威智愛に溢れた理乃にしたら、笑顔で語るその姿も愛しいと思っているのであろう。

 いつもの事であっても。

 暴走トークを止める期待は出来ないので、我自ら動くしかあるまい。

「ねるの肉球は、ほんのり甘めの芳ばしい香りで……」

 両前足パンチにするか頭突きにするか一瞬の思案の後、威智の傍に寄り後足に重心を傾けひと伸び。

「ん? ねぶひゅっ」

「なうん」

「はわわ、ねるの肉球頂いてしまったよ、理乃ちゃん!! しかも鳴き声付き!!」

 心底嬉しそうに満面の笑みで理乃に報告する威智。

 やはり褒美と受け取るか、威智よ。

「僕がねるの肉球は最高だって話してたからかな? ねるはやっぱり言葉がわかるんだよ!!」

 更にテンションがヒートアップしていく威智。

 分かってはいたが呆れてしまう。

 やはり頭突きの方が良かっだろうか。

「ご褒美だよね、ねるの肉球が頬にあたってさ、あーー!! ねるが最高過ぎて最高すぎてツーラーイー!! あだっ」

 頭突きも見舞ってやった。

「舌噛んだ」

 クリティカルヒットしたようた。

 ふすんと鼻を鳴らし床に降り振り返り威智を見上げる。

 ごちゃごちゃ言ってないで、寝るぞという意志を込めて再びふすんと鼻から息をはきだす。

「これは、寝るからさっさと来いのお誘いかな?」

「手荒いお誘いだったわね」

 舌を噛んだと嘆く威智に苦笑いの理乃。

 分かればよろしい。

 さっさと布団に行くのだ。

 トコトコと数歩進んで振り返り威智と理乃を見上げ、再び数歩進んでと繰り返し扉の前に座る。

「にゃうん」

 ひと鳴きすれば完壁であろう。

「今のは布団へのお誘いじゃないかしら?」

「そうだね、ねる一緒に寝よう」

 分かればいい。

 やれやれ、威智は察しが悪くて疲れる。

「なんか、呆れられてる気がする」

 そこは察するのか。

「さぁさぁ、またねるに頭突きされる前に寝ましょう!」

 理乃が扉を開き我と威智を促した。

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