第30話 水鬼
葵は自分の体に何が起きたか分からなかった。切断されたと思った両腕はもの凄い勢いで怪物の頭にぶち当たっていた。左側の頭は地面に転がったが、真ん中の頭は当たりが浅くて、脳震盪を起こした程度だった。葵の両腕はブーメランのように戻ってくると元どおりになった。
「葵、あなたの能力は半端ないね」茜は感嘆の声を上げた。
「何が起こったのか自分でも分からない。でも肝心な真ん中の首が残っている」怪物の再生能力は凄まじい。切断された頭頂部が現れ始めていた。
「茜、今すぐシルバーチェーンで真ん中の頭を切断して」怪物は同じ轍を踏まなかった。シルバーチェーンを巧みに2本の手足で絡めとった。
「シルバーチェーンは使えない。葵、もう一度同じ攻撃をやって」
「さっきの攻撃は連続では出来ないみたいだ。まだ能力をコントロール出来ない」
「葵、何とかしないと私たちここで死ぬわよ」怪物が完全に再生されたことは、不敵な笑いを浮かべたことで分かった。これで終わりだと思った瞬間、不敵な笑いを浮かべていた真ん中の首と両側の首が同時に空中に飛んだ。数秒おいて胴体が真っ二つになって川面に崩れ落ちた。倒れた怪物の背後に男が翔然として立っていた。
その男は背が高く、細面の顔は血の気がなく青白かった。長い髪の毛の先からは水が滴っていた。
「茜が知っている男」葵の問いに茜は激しく首を振った。
「まったく知らない男よ。油断しないで」
「俺の住処でうるせいんだよ。おまけにこいつは俺の足を踏んで行きやがった」
「私は葵と言います。こっちは妹の茜です。危ないところを助けてもらって、感謝しています」
「俺は安眠を邪魔する奴が許せなかっただけだ。助けようと思ったわけじゃない」男は握っていた刀を右手から離した。落下した刀が川面に触れた瞬間、水と一体化した。一瞬で消えていた。葵も茜も驚きの声を上げた。
「葵、水の事故で死んだ人間の怨念が亡霊となって現れると聞いたことがある」
「その亡霊は味方なのか」「あの男は水鬼だと思う。敵にしたら大変なことになる」
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