第18話 限界線

 渦は限界線を超えた瞬間に消えた。気を失った葵の左肩にはえぐられたような傷跡が残っていた。向日葵は流れる血を止めようと落ちていた軍服の切れ端を傷口に巻き付けた。今起きたことが現実だったことは、バラバラになった自衛隊員の死体が証明していた。「ここからすぐに離れて」茜の声が耳元で囁いていた。

「限界線は時間の経過とともに休息に拡大している。急がないと間に合わない」

「葵こっちよ」向日葵は配達中で停車している軽トラックの近くで手招きしていた。

「さあ乗って」向日葵は運転席に乗り込むと葵に助手席に乗るように指示した。

「ぐずぐずしていると運転手が戻って来る」葵がシートベルトを締める前に向日葵は軽トラックを発進していた。

「運転できるの」「久しぶりだけど心配ないわ」葵は向日葵が運転するところを一度も見たことがなかった。

「いったいどこに行くつもりなの」「葵、あなたには特別な能力があると言ったけどあの怪物には今は勝てない。その能力を飛躍的に高める必要がある。そのための場所に行く」葵はその場所まで無事にたどりつけるか不安だった。

「向日葵、葵、その場所にたどりつくまで私は全能力を使う」茜の声は悲壮感が漂っていた。軽トラックの窓から見える景色は霧に包まれたように見えなくなっていった。

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