第15話 秘密

 地下1階にあるのは慰安室と解剖室、そして消毒室だった。葵は着ていた白衣を向日葵に渡した。その方が自然に見えるからだった。葵は廊下にあった車椅子に座り、医師が障害者に付き添っているような格好で、病院の通用門から院外に出た。

 葵と向日葵は車椅子を捨てると最初は早足で、病院の敷地から出た瞬間に走り出した。とにかく茜の指示に従って逃げることしか頭に無かった。休みなしに走り続けたので、向日葵が先に音を上げた。

「これ以上は無理、少し休ませて」人気のない公園のベンチに二人は腰を下ろした。

「葵、あなたに話していないことがある」向日葵はいつになく真剣な眼差しで葵を見ていた。「もしかして、他人には見えない物が見えることじゃないの。最近は声も聞こえるんだ。幻覚や幻聴だとしたら一体どうなるんだろう」

「葵、幻覚や幻聴なんかじゃない。あなたの特別な能力なの。声が聞こえると言ったけど、それは茜の声のことじゃないの」葵は向日葵から初めて茜の名前を聞いて驚いた。

「なぜ、茜のことを知っているの」「なぜなら茜はあなたの本当の妹だから」

「兄妹はいないと言っていたのは嘘だったの」

「茜はこの世界にはいない。別の世界にいるのだから。だからいないと言ったの」

「いったい何を言っているのか分からない。分かるように説明してよ」向日葵は少し考えた後に意を決したように話し始めた。

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