第14話 再会
「葵、顔を上げて。下を向いていると怪しまれるわよ」茜の声は葵にははっきりと聞こえていたが、周囲の人間にはまったく聞こえないようだった。葵は中学生にしては体は大きい方だが、とても大学出たての医者には見えなかった。すれ違う若い看護師も不思議そうに葵の顔を見ていた。
「葵、向日葵は集中治療管理室(ICU)にいる」ICUの隣はナースステーションだった。葵はベッドに横たわっている向日葵に声をかけた。思わず声を上げそうになった。そこにいたのは向日葵ではなかった。
「葵、大変、向日葵がさらわれた」向日葵をのせたストレッチャーがエレベーターに向かっているのが見えた。ナースステーションでも動きがあった。葵は反射的に行動した。その動きは自分でも驚くほど素早かった。背後で葵を呼び止める声がしたが、無視して、ストレッチャーが運び込まれたエレベーターの扉が閉まる寸前に飛び込んだ。ストレッチャーを押していた看護師はとまどった表情を見せていた。
「この患者は私が担当することになったから君たちはもういいよ」
「でも先生、この患者さんは転院するんですよ」若い看護者は怪訝そうに言った。
「分かっている。移送の担当になったんだ」葵は嘘がばれないでくれと祈った。
「先生、私たちは2階で降りるので、あとはよろしくお願いします」葵は看護師が降りた後、地下1階のボタンを押した。
「葵、びっくりしたわ。その格好はなに」向日葵が突然現れた葵に心底驚いた。
「母さん、説明している暇はないんだ。とにかくここから逃げ出そう」
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