第3話 お前に力を貸してやる!

 ロジャーの語りが終わったあと、しばらくの間、沈黙が流れた。

 セレスティアは口をつぐんだまま、じっとロジャーを見つめている。

 その表情には、驚きと困惑と、ほんの少しの、尊敬が混じっていた。


「そこまで筋の通った理由があったとは……」


 彼女はようやくそう呟いた。


「まあ、変態に変わりはありませんけどね」


 マリーナが辛辣な言葉を述べる。


「なんでだよ! 俺の話をちゃんと聞いてたか!?」

「聞いてました。確かに筋が通っていましたし、理にかなっているかと思いますが、それでも死と隣り合わせの冒険者として考えるなら変態的な思考の持ち主とか言えません」

「どうしてそうなるんだ!? 俺はただ愛に忠実なだけなのに!」


 ロジャーは先程の話を聞いても、自分のことを変態と呼ぶマリーナに嘆いていた。


「でも、セレスティア様も少し変わってますよね。普通、貴族のご令嬢がテイマーになりたいなんて言いませんから」

「それは……そうかもしれないが」


 セレスティアは少しだけ頬を染め、視線を逸らした。

 そこで、ロジャーが思い出したように言った。


「そうだな。天職の儀でテイマーになった貴族ってのは、だいたいが権力と金を使って、強い魔物を無理やりテイムしようとする。まあ、失敗も多いみたいだけどな」


 ――天職の儀。


 それは、この世界で十五歳を迎えた者に与えられる、神からの適性の啓示である。


 十五歳は成人と見なされる年齢であり、多くの人間が各地に設けられた神殿へと赴き、自身の素質に見合った職業を授かる。

 神の力によって授けられるその職業は、生涯を左右する重要なものだ。


 職業の種類は多岐に渡る。

 戦士、剣士、魔法使い、僧侶、狩人、商人、盗賊――いずれも、世の中で広く知られた基本職である。


 だが、ごく稀に特別な職業を授かる者もいる。


 たとえば――剣聖、聖女、聖騎士、勇者、槍王、守護者。

 それらは上位職や加護職とも呼ばれ、他の職業とは一線を画す存在だ。


 こうした特殊職を授与された者には、国からの保護や支援が与えられ、その人生は大きく変わる。

 名誉と期待を背負って生きることとなるのだ。


 反対に――不遇職と呼ばれる職もある。


 その代表格が、テイマー。


 魔物を調教し、使役するという独特の職能を持つが……調教には高度な技術と精神力が求められるうえ、強力な魔物ほどテイムが困難を極める。

 暴走、裏切り、逆襲――テイマーには、命の危険が常に付きまとう。


 そのため、テイマーを授かった者の多くは、冒険者ではなく、牧場主、動物商、調教師、あるいは地道な職に就いて生計を立てている。


 外れ職――それが世間の評価だ。


「だが、俺はそうは思わない! テイマーこそ俺の天職であった! 神に間違いはなかったんだ!」


 ロジャーが胸を張って言うと、セレスティアは少し目を伏せた。


「……だが、不遇職に変わりはない。実際、私もテイマーを授与した際は家族から同情の目を向けられたよ……。ただ、それでも私は諦めたくない! テイマーだからと言って諦める理由にはしたくないんだ!」


 その言葉には、揺るがぬ意志が宿っていた。


「お嬢さん、案外芯は強いんだな」

「当然だ」


 きっぱりと即答するセレスティアに、ロジャーは満足そうに頷いた。


「……お嬢さん。いや、セレスティア。お前が本気で望むなら――ドラゴンのテイムに、俺が力を貸してやってもいい」

「……っ!」


 瞳を大きく見開いたセレスティアが、言葉を失ったままロジャーを見つめる。その瞳に浮かぶのは驚き、そしてほんの少しの、安堵だった。


「ただし」


 ロジャーは指を一本立てる。


「勘違いすんなよ。俺がドラゴンを捕まえてきて、ハイどうぞ、なんてことはしない」

「そ、そうなのか……?」

「当然だ。俺はな、信念を貫いてここまで来た男だ。ドラゴンなんて、あんなの……ごつい! でかい! 愛くるしさゼロ! 癒しポイント皆無!」

「やはり変態なのでは……?」

「うるさい! こだわりと言え、こだわりと!」


 セレスティアは呆れ、マリーナは笑いをこらえている。


「だが、それでも俺はテイマーという職に誇りを持ってる。だからこそ、同じ職業を背負ってる奴が本気で悩んでるなら、力を貸したいとも思ってる」


 ロジャーは腕を組み、真面目な声で言った。


「だから、お前が望むなら、ドラゴンをテイムするための方法――俺が到達したノウハウを教えてやる。テイム寸前まで追い込んだこともあるからな」

「……本当か?」

「ああ。だがな」


 ロジャーは指を二本に増やす。


「その道のりは、とてつもなく辛く、長く、危険に満ちてるぞ? お前が思ってるような楽して成果なんて、一切ない」


 その言葉に、セレスティアは拳を握りしめた。


「それでも――私はやる。やり遂げてみせる!」

「よし! なら決まりだ!」


 ロジャーが勢いよく立ち上がり、拳を突き上げる。

 椅子が倒れそうになってマリーナが慌てて支える。


「がんばってくださいね、セレスティア様。ロジャーさん、本気で教える気みたいですから」


 穏やかな笑みでマリーナが言うと、セレスティアも口元を引き締めた。


「ああ。覚悟はしている。よろしく頼む、ロジャー殿!」


 こうして、奇人変人と呼ばれる男と、美貌の令嬢の、奇妙な師弟関係が始まった。


 目的はただ一つ――


 ドラゴンを、己の力でテイムすること!


 だが、セレスティアはまだ知らなかった。

 この修行が、想像以上に変態で満ちていることを。

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