第4話 悲しくも甘い恋
仕事を終えて帰宅する最中、メンバーの言葉が頭に浮かぶ。「早く伝えないと、後悔するよ」そう言われても、じゃあどうすればいい。奏斗が受け入れてくれるとは思えない。男同士だからとか、芸能人だから、とかじゃなくて。奏斗は自分よりも人のことを考えてしまうような男だから、きっと今後誰とも付き合おうとしないだろう。
「俺だって言いてぇーよ」
車の窓にもたれて呟く声を運転していたマネージャーに聞こえたのか、こちらをチラリと見て困った顔のまま愛想笑いを浮かべた。
「また悩んでるんですか」
「うるさ。運転に集中しろよ」
「貴方は高校生ですか。もう30でしょ。いい大人がいつまでうじうじ悩んでるんです」
そう言ってため息をつくマネージャーに、眉をしかめてひどく憂鬱そうな顔をする俺。
俺への扱いが雑なのは前から分かっていたけど、ここまで言われるとは心外だ。不満そうな俺の顔を見て、挑んだ表情を目に浮かべながらも声色は穏やかに話し出した。
「仕事柄、色んな人を見てきたんです。まぁ、芸能人の有明さんも見てきたと思いますけど」
「・・・何が言いたいのさ」
「気持ちって、案外目を見れば分かるもんなんですよ」
もっと奏斗さんの目を見てください。と笑うマネージャーの顔は漂白されたような温和な表情だった。
「これでも俺、応援してるんですよ。貴方のこと尊敬してますから。きっと大丈夫ですよ」
なんの根拠があってそう言っているんだと言いたくなるが、顔を見ると言う気が失せ、あっそ。と素っ気なく返事する。
照れ屋ですねー。と笑うマネージャーを無視して、窓の外に目をやる。いつもと変わらない風景だけど、今朝よりも少し鮮やかな気がする。
奏斗はきっと自分の病気が相手への足枷になると思い、誰からの気持ちも拒む。俺だってそうすると思う。相手を置いて逝ってしまう恐怖も、罪悪感も、味わいたくない。
それをわかった上で、それでも俺は奏斗にとって1番近い存在でいたい。
今の距離感で満足かと聞かれれば、答えは否だ。1番に病気を報告してくれたのだから、既に特別ではあると思うけど、結局は先輩と後輩。そうじゃないんだ。恋人という肩書きがほしいから。
今と何が変わるか分からないけど、それでもどうしようもないほど俺は奏斗の恋人になりたい。
幸せを知った2人 夢噺 @kurumi0822
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