第2話 都合のいい妄想



余命宣告は夢で、奏斗は死なない。なんてことはなく、目を開けてスマホを見ると奏斗から「昨日はいきなり言ってすみません」と送られてきていた。

変わらない現実だったことに舌打ちをして起き上がり、仕事の準備をする。マネージャーの迎えに来たという連絡を受け、家から出て車に乗った。

今日のスケジュール的に奏斗とは会うことはないだろう。いつもはなんで会えないんだと拗ねるが、今日は会えなくて良かった。会ってしまえば、俺は周りの目なんて気にせずに奏斗を攫ってしまうだろうから。



そう思って仕事場に行って楽屋に入ったのに、目の前に何故へらへら笑っている奏斗がいるのだろうか。

締りのない顔に苛立ち、頬をつねると「痛いですよぉ」と、特に抵抗することなく、されるがままの奏斗。


「なんでここにいるのさ」


「急遽撮影が入って。同じスタジオだったので挨拶しに来たんです」


無駄に上下関係がしっかりしている奏斗だから、先輩である俺たちのグループに挨拶として来たということか。

そういう所も好きだが、今じゃないだろ。


「有明ー、奏斗が可哀想だろー」


呑気に言うメンバーに関係ないでしょとあしらい、奏斗の腕を引いて楽屋を出る。相変わらずされるがままの奏斗は何も言わず俺に着いてくる。と言っても、俺が手を握っているから従うしかないんだろうけど。

スタッフや演者がいない、人気のない場所まで行き、ようやく奏斗から手を離す。握っていた場所を見ると、少し赤くなっていた。



「強く握りすぎてた?ごめん、痛かったよな」


「あ、大丈夫ですよ。ちょっと握っただけでも赤くなっちゃうんです」


そう言って自分の腕をぎゅっと強く握り、そっと離す。確かに俺が握っていたところよりも赤くなっている腕に、ね?と笑いかける奏斗。

病気のせいだろうと察し、出処不明な怒りと悲しみが沸き起こった。


「なら尚更ダメでしょ」


先程よりも優しく腕を掴み、赤くなったところをそっとなぞる。昨日言われたからだろうか、前よりも腕が細くなった気がした。


「有明くんは心配性ですね」


お母さんみたい。と笑う奏斗にデコピンする。何故ここまで呑気でいられるのか不思議だが、むしろこうやっていないと自分が保てないのではないかと思うと、あまり強く言えない。


「・・・本当に病気なんだな」


「そんな顔しないでください。最低でもまだ2年は生きられるんですよ」



そう笑って言えるのは、本心なのか強がりなのか。

分かってあげられるほどの心の余裕など、今の俺にはなかった。


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