第九話 エルシア先生の吸血鬼講座
「まず初めになのですが、吸血鬼には王族と貴族という二種類の存在があります。
平たく言いますと。王族の吸血鬼は初めから吸血鬼である高位精霊であるのに対して、貴族の吸血鬼は人間やモノが王族、あるいは貴族の吸血鬼の血を体内に摂取したことにより変異した存在です」
「あの、質問いいですか?」
「はい、ノエルさん。どうぞ」
さながら生徒のように挙手をしたノエルを教師のように指示棒でビシッと指す。
「初めから吸血鬼である王族と違い。貴族は王族、貴族の吸血鬼の血を体内に摂取したことで変異した存在だと言われましたが、血を吸われたから変異する。ではないのですか?」
吸血鬼によくある話の一つに『吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼になる』という話がある。ノエルはそのことを思い出し、体内に摂取するではなく血を吸われるからではないかと疑問を抱くが
「いえ、血を吸われただけでは吸血鬼にはなることはありません」
その伝承は間違っていると指摘するようにエルシアはホワイトボードに吸血鬼と書き、となりに棒人間を描いた。
「吸血鬼が血を吸うのは食欲を満たす為や力の補充をするためです。ですので、この世界にある存在を吸血鬼化したい場合はその存在に血を与える必要があります。例えるなら、吸血鬼の力を分け与えるという感じですね」
その説明を聞いて、納得したのかノエルは「なるほど……」と相槌を打つが、先の説明を聞いて新たな疑問が浮かんだのか再び質問をする。
「そういえば、ベル様も仰られていたのですが力の補充というモノは食事と考えてもいいのでしょうか?」
「食事とは少し違いますが、概ねは同じです。吸血鬼は基本的に一定の周期で血を吸うことで体が老いることも、死ぬこともない永遠の存在なのですが、血を吸わないでいると体が衰弱していき、やがて死に至るんです。吸血鬼はそれを回避するために血を吸う。という側面もありますね」
吸血鬼は永遠の存在。
予想はしていたものの、自分の主であるベルは本当に自分とはかけ離れた存在なんだなとノエルは思ってしまう。
「仮に食欲を満たすだけなら人間と同じ食べ物でも満たすことは出来ますよ」
実際、ベルも朝はノエルが作ったホットケーキを何の問題もなく食べていたため、人間と吸血鬼は根本から違うというわけではないのだろうとノエルは考える。
仮にもし、人間が食べるものが食べられないのなら朝の時点でノエルは血を吸われていただろう。
「先生。吸血鬼は人間にはない不死性があることは理解しましたが、人間との違いはそれだけでしょうか?」
場の雰囲気に乗っ取り。ノエルはエルシアの事をそのように呼んだのだが、そのように呼ばれたことが余程嬉しかったのか、エルシアの表情がぱああと明るくなっていく。
「いいえ。それ以外にもありますよ。わたしが説明できる範囲では身体能力の違いとか、固有能力の存在ですね」
「やっぱり、人間とはかけ離れているのですか?」
「はい、吸血鬼の身体能力は普通に人間以上です。例え、吸血鬼ひとりでもダンプカー程度なら簡単に持ち上げられると思います。
次に固有能力ですが、名前から分かる通り超能力です。貴族の吸血鬼はひとりにつき一つ超能力が所持しています」
「超能力って、スプーン曲げとかそういうのですか?」
「サイコキネシスですね。日本国では念動力なんて言ったりもしますかね? ともかく、そのような能力を使う吸血鬼もいますよ。その他には炎を使うとか、剣に特化したのもありますね。コレに関しては様々です」
この国が母国であるにも関わらず、後者の念動力の方が聞いたことのないと思ってしまうノエルであったが、ふと先程のエルシアの発言であることを思う。
「あの、固有能力を所持しているのは貴族の吸血鬼だけなのですか? ベル様のような王族の吸血鬼は持っていないのですか?」
いい所に目を付けたなとでも言いたようにエルシアは少しニコリとしてしまう。
「実はこの固有能力は貴族の吸血鬼が王族の吸血鬼にあるチカラに対抗するために模倣したチカラなのです。ですので、ベルさんを始めとする王族の吸血鬼には別の特異なチカラがあったりするのですが……流石にここでそのことについて説明したら、わたしが怒られそうなので割愛させてもらいますね」
「あ、分かりました」
王族のチカラについてはともかくとして、これまで架空存在としか思っていなかった吸血鬼について知ることが出来てよかったというようにノエルは嬉しそうであった。
そんなノエルに釣られるようにエルシアの表情も笑顔になっていき、そんな二人を遠巻きに見ていたライブラは微笑ましいと思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます