エンディング(最終話)

ㅤ紡の住むアパートの前に立ち、呼吸を整える。まずは、謝ろう。いくら驚いたとはいえ、突き飛ばしてごめん。逃げてごめんと、きちんと伝えよう。紡の部屋の前に立ち、インターホンを押す。

返事は無い。

ㅤ二度、三度と鳴らすが、紡は出てこなかった。嫌な予感がする。ドアノブに手をかけると、ガチャリと回った。僅かに開いて中を覗く。廊下は薄暗い。


「紡? 入るよ」


ㅤ声をかけるが、やはり返事は無い。何かあったのだろうか。もしかして、振り払ったときに打ちどころが悪くて……などと、嫌な予感が胸に満ちる。まさか、そんなこと、と考えながら、急く気持ちで廊下を進む。奥の扉を開けた先のリビングも、やはり、電気が着いていなかった。薄闇の中央に、うずくまる影が見える。


「紡、大丈夫!?」


ㅤ電気をつけ、駆け寄る。見たところ、出血などは無さそうだ。思わず肩に手をかければ、紡がゆっくりとこちらを見た。先程まで泣いていたのだろうか。膜が張った瞳から、ぼたりと雫が落ちる。


「リセちゃん……?」


ㅤ驚きに目が見開かれ、


「リセちゃん!」


ㅤ振り返った紡に、抱き着かれた。バランスを崩し、後ろに倒れそうになる。冷えきったその体を控えめに抱き締めた。紡が顔を上げる。その大きな瞳から、涙が、次から次へと溢れてくる。


「リセちゃん、ごめんね、ごめんなさい。つむぎのこと、嫌いになったよね」


ㅤ縋り付きながら泣きじゃくる紡。


「ならないよ。嫌いになんて。私の方こそ、ごめん。突き飛ばしたりなんかして」


ㅤ紡は首を振った。


「つむぎ、悪い子だ。悪い子なんだよ。リセちゃんのこと、閉じ込めようとして」

「嫌じゃなかったよ」

「でも」

「逃げちゃってごめん。びっくりしただけなんだ。ねぇ、紡、話をしよう」


ㅤ抱き締める力を少し強くして、背中をさする。嗚咽おえつが次第に小さくなっていく。


「私、紡と一緒にいたいよ」


ㅤできるだけ、真摯に、柔らかい声音になるように、伝える。


灯彩ひいろちゃんは?」

「友達になろうと思ったんだ」


ㅤ友達になろうと思った。友達になって、ゲームをクリアしたかった。


「死にたくなかったんだ。生きて、紡と一緒にいたかった」


ㅤあの優しい子を、私は利用しようとした。


「私、酷い人だよね」

「そんなこと!」


ㅤ首を振る。


「私も、紡も、間違えちゃったんだ。でもね、紡は、謝ってくれた。こうして、私のために泣いてまで」


ㅤ頬に手を添え、滲む涙を拭う。


「私も、謝ろうと思う。あの子に。ね、二人でやり直そう」


ㅤ私の打算なんて吹き飛ばすくらいに仲良くしてくれたあの子に、心配してくれたあの子に、謝ろう。


「つむぎ、リセちゃんと一緒にいていいの?」

「もちろん!ㅤ明日も、ずっと、私は紡と一緒にいるよ 」


ㅤ腕の中の体を、強く抱き締める。


「私、紡のことが好き。ずっと、一緒にいてほしい」


「つむぎも」

ㅤと、小さく囁くのが聞こえた。腕を放し、目を合わせる。紡は、見たことがないくらい、幸せそうに笑った。目尻から雫が落ちる。


「これからも、よろしくね。紡」

「うん。リセちゃん、大好き!」


ㅤ勢いよく抱きつかれ、今度こそ、床にしたたかに背中を打ち付けた。



True End

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乙女ゲームなのに百合ルートが無いなんて嘘だ! 伊予葛 @utubokazura

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