第5話 おまけ②「薔薇色の騎士」

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おまけ②「薔薇色の騎士」




 おまけ②【薔薇色の騎士~rose knight~】




























 かつて、薔薇色の騎士―ローズナイトーと呼ばれた男がいた。


 薔薇に囲まれた美しい城で、騎士として雇われていたその男の胸には、象徴ともいえる薔薇が描かれていた。


 その薔薇は、誰にでも描かれるわけではなく、命を懸けて国を守る、国中の誰もが騎士と認める者だけにつけることが赦された、紋章でもあった。


 まだ若かったその男は、薔薇に似合う漆黒の髪を纏い、また、瞳も美しい黒であった。


 「君がいてくれる限り、この国は安泰だ」


 生まれたときから、この城に仕えていたわけではない。


 貧しくもない、だからといって裕福でもない家に生まれた男は、代々の鍛冶屋を継ぐと思っていた。


 熱そうに仕事をしている親の姿を、一時は嫌悪感を抱いていたが、ある日、親がうった刀を使っている兵士と出会った。


 「君の両親の腕は素晴らしい。色んな国を見てきたが、これほどまでの腕を持つ職人はそうはいなかった。私の刀を、見事なまでに蘇らせてくれた」


 そう言われ、とても誇りに思う様になった。


 それからすぐ、親の手伝いをするようになった。


 しかし、すぐに不幸がおとずれる。


 「武器となるものを製造している者達は、全て罰する」


 何が起こったのかなんて、分からない。


 ただ、時代が変わったのか、国が変わったのか。


 両親は、職人として大事な腕を斬り落とされただけではなく、自分たちが作ってきた刀で串刺しにされたのだ。


 まだ少年だった男は、必死になって逃げた。


 逃げた先にあったのが、今の国だ。


 子供だからと見逃されたのかもしれないが、正直なところ、一緒に殺された方がマシだったのかもしれないと思ったこともある。


 1人で生きていくことは、思っている以上に過酷なことくらい、分かっていた。


 だが、その国の人間は、なぜかとても穏やかだった。


 1人で歩いているところを声をかけてきて、孤児ならば城で引き取ってくれると言われた。


 城まで連れて行ってもらうと、そこには同じような境遇の子供たちがいて、国王も女王も、とても優しかった。


 どういう経緯でここに来たのかとか、何があったのかとか、そういうことは一切聞いてこなかった。


 城で生活をしていくと、ある光景を見た。


 それは、城の騎士たちが訓練をしているところだった。


 じーっと見ていると、その中の1人が気付いて、声をかけてきた。


 「こっちおいで」


 言われた通り行ってみると、急に剣を渡してきた。


 そんなもの、人生で持ったことがないというのに。


 持ち方から構えから、その男に教わった。


 黒髪のその男は、胸に薔薇を掲げていた。


 いいな、と最初は憧れから入っただけなのだが、徐々に剣の扱いも様になってきて、ついには城に認められるほどの腕前となった。


 この城はとても平和で、戦争なんてない。


 それでもこうして騎士たちがいるのは、薔薇の騎士という象徴がいることで、他の国が攻めてくることを制止しているのだ。


 いわば、抑止力としての存在だ。


 そんなある日、1人の女性が迷い込んできた。


 国王と女王は快くその女性を受け入れた。


 しかし、それが悲劇の始まりだった。


 女性が住みこむようになってから、1年以上が経った頃だろうか。


 女性は深夜、国王と女王が眠る寝室に忍び込み、2人をナイフで刺した。


 女性はすぐに捕えられたのだが、国王も女王も危険な状態で、すぐさま手術が行われることになった。


 捕虜にした女性を問い詰めれば、あっさりと答えた。


 「この城の領土が欲しいって何度も頼んでるのに、首を縦に振らない、あの馬鹿国王が悪いのよ!!」


 どうも、女性は他国からこの国の領土を奪うために来たらしい。


 最初は国王を色仕掛けでなんとか丸めこもうとしたようだが、国王がそんなものに靡くはずもなく、この手を使うことになった。


 「どうせ助からないわよ。気付いてないみらいだけど、この国にはもう、私の他に何人ものスパイが潜りこんでるんだから」


 女性の言葉は本当だった。


 次々に街は焼け、逃げる人々は殺される。


 騎士たちの中にもスパイがいたようで、騎士同士が殺し合い、倒れて行く。


 男も囲まれ、死を思い浮かべる。


 ―呆れるほど、人間は愚かだ。


 「ふっ・・・」


 鼻で笑うと、男に向かって一斉に襲いかかってくるのは、誰も彼もが見覚えのある顔ばかり。


 斬るなんてこと出来るはずない、と思った。


 だが、思いのほか、自分が冷静であることに気付いた男は、目の前の仲間だった男たちを次々に斬って行く。


 自分の腕が斬られても、頬が斬られても、足が斬られても、そこから出ている血など、まるで自分のものではないような感覚だ。


 「や、やめてくれ・・・!!おお、俺達は、仲間、だろ・・・?」


 「・・・・・・」


 最後の1人の男に切っ先を向けると、その男は命乞いを始めた。


 城にまで燃え広がった炎は留まるところを知らず、男たちを取り囲んでいるだけではない。


 きっと、国王たちのもとにも届いている。


 泣きながら謝り続けてくる、かつて仲間だったその男に、最後の一筋を下ろした。








 燃え広がる城を、男は離れた場所から眺めていた。


 国王たちのもとへ行ってみたのだが、やはりもう手遅れだった。


 仲間たちも、国の人達も、みんなみんな、この炎に巻き込まれてしまったようだ。


 気付けば、男の胸に掲げられている薔薇には、誰のものとも言えない返り血がついていた。


 「・・・・・・」


 男は、剣を棄てた。


 さらっとしていた前髪を後ろにかきあげると、騎士のトレードマークでもあったマントも脱ぎ捨てた。


 薔薇の騎士は、血塗られた薔薇色の騎士となった。








 「起きてってば。折角俺が朝食作ったって、すぐに食べなきゃ冷めちゃうよ」


 「・・・・・・」


 「どうしたの?変な夢でも見た?」


 「・・・いや」


 「今の間は見たね。怖い夢だったんだ。俺が見た面白い夢の話でもしてあげようか」


 「頭カチ割るぞ」


 「あ。起きて早々煙草なんて吸わないでよ。新聞に灰が落ちたらどうすんの。火事になったら大変なんだからね」


 「茶」


 「はいはい」


 橙色の髪に、オッドアイの青年。


 青年がお茶を淹れると、まだ熱いからなのか、しばらく飲むことはなかった。


 独り言を言いながら食事をする青年を無視し、男は新聞を読み続ける。


 「最近面白いことないなー。なんか舞い込んでこないかなー」


 「何もねぇ方がいいだろ」


 「そうかな?あんまり退屈で、俺禿げちゃいそう」


 「どういう理屈だ」


 ぶつぶつと言っていた青年は、自分で焼いたベーコンをぱくりと食べると、ちら、と横を確認してから、隣のベーコンを盗んだ。


 気付いていながらも、男は何も言わない。


 「生きてるからには修羅の道だな」


 「ん?何が?」


 「いや」


 新聞を畳むと、男はようやくお茶を口に含んだ。


 ふう、と息を吐くと、男はご飯を一口、喉に流し込んだ。


 食事を終えると、珍しく男は立ち上がり、裏口から出かけて行こうしたため、青年は声をかけた。


 「え、何処行くの?俺も行く」


 「ついてくるな。ただの散歩だ」


 「なんだ。気をつけてね」


 「余計な御世話だ」


 散歩のときはいつも雪駄を履いて行く男は、だるそうに戸を閉めた。


 男を見送った後、残された青年は後片付けをしながら鼻歌を唄う。


 片づけを終えて居間に戻ると、男が忘れていったであろう煙草を見つけ、すぐに戻ってくるな、と予想する。


 「まったく。自分のことは何に言わないんだから。琴桐は・・・」








 男は、近くの団子屋、とはいってももう店自体は潰れているためやっていないが、そこの椅子に腰かけていた。


 ポケットに指を突っ込んでみると、煙草を忘れたことに気付いた。


 「・・・・・・」


 片方の足をもう片方の足に乗せると、そこに肘をついて頬杖をつく。


 そよそよ吹いている風が、痛いくらい身体に突き刺さる。


 「所詮は、汚れてる手か」




 男は二度と、何者にも染まらない。


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