第4話 おまけ①「通りがけにて」

 4℃

おまけ①「通りがけにて」



 おまけ①【通りがけにて】




























 「ブライト、まだ着かねえ?」


 「まだです。今はもう拠点を変えているはずですから、ずっと先ですね」


 「馬借りねえ?そっちの方が早いって。こんなにぜえぜえ言わなくても着くって」


 「馬を借りるだけの余裕はありません。もともと調査するためだけに出ましたので、それほど持ってきてませんでしたし」


 「なら、タカヒサから金塊一個もらっときゃよかったな」


 はあ、と大きなため息を吐いていると、目の前からどこかで見た様な顔を近づいてきたため、イデアムは思わず近づいて行った。


 そしていきなりその人物の手を掴むと、こう言った。


 「銀魔!こんなところでお前に会えるとは思ってなかったよ!!お願いがあるんだ!俺達、金がねえんだ!!何か御馳走してくれ!!」


 「イデアムさん、恥ずかしいので止めてください」


 「仕方ねぇだろ!背に腹は変えられねえんだ!!」


 「・・・・・・」


 「ほら、銀魔さんも困って・・・」


 ふと、ブライトは違和感を覚えた。


 確かに、つい最近まで一緒にいた銀魔によく似ているのだが、なんとなく違う。


 男はイデアムを見て怪訝そうな顔を見せたかと思うと、イデアムの頭をがしっと鷲掴みした。


 「いでででででででででで!!何すんだよ銀魔!俺のこと忘れたのか!薄情な奴!」


 「銀魔が薄情な奴ってのは俺も賛同するが、俺とあいつを間違えんじゃねえ」


 「あ?」


 イデアムは、じーっと目の前の男を見た。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人違いでした」


 ぺこり、とちゃんと頭を下げて謝れば、男はイデアムとブライトを見て、口を開く。


 「なんで銀魔を知ってる」


 簡単に事の経緯を説明すれば、男ははあ、とため息を吐いていた。


 それにしても似てるな、と思っていると、男はイデアムたちに軽い食事なら出してやる、と言って歩き出した。


 その後ろをついて行くと、男は山道をずんずん歩いていき、辿りついたのは、なんとも殺風景な古民家だった。


 「師匠!おかえりなさーい!」


 にこにこと、わんぱく坊主みたいなぼさぼさ頭の男と、頭にタオルを巻いている無口な男がいた。


 わんぱく坊主は天馬、無口な男は蒼真、というらしい。


 「俺は海浪だ。銀魔とは師匠が同じなんだ」


 「師匠って確か、森蘭だよな」


 「ああ」


 「じゃあ、お前もあいつと一緒であのすげぇ変装出来んのか?」


 一緒、という単語が出ただけで、海浪は至極不機嫌そうな顔になったため、イデアムはニコニコしながら気付かないふりをして、だされた食事を食べる。


 質素だが、空腹を満たすには充分だ。


 「あの変装が出来るのはあいつだけだ。俺だって、どうやってあいつがあんな変装してるのか知らねえ」


 「へぇ。あれ面白ぇよな。初めてみた」


 「まあ、変装が出来るからっていって、サシで勝負すりゃ俺が勝つけどな」


 「すごいすごい」


 もう完全に聞き流しているイデアム。


 なんとも負けず嫌いだな、と思っていると、そこへ天馬がやってきた。


 「師匠師匠!捕まえた!トカゲ!」


 「天馬、お前少しは大人しくしてろ」


 「はーい!蒼真!鬼ごっこしよう!お前が鬼な!」


 「やらない」


 「じゃあ10数えて!!」


 1人鬼ごっこを始めてしまった天馬は、どこまで走って行っていくのだろう。


 そんな天馬を見て、いつまで経っても落ち着かねえ奴だと呟けば、落ち着いても可愛くねぇぞ、とイデアムに言われた。


 「なあ、銀魔にしろお前にしろ、何してんだ?」


 「何もしてねぇよ」


 「森蘭の弟子ってだけで追われてるだろ?なんでだ?そもそも、森蘭って何かしたのか?」


 名前は知っていても、昔のことだからよくは知らない。


 イデアムの質問に、海浪は茶を啜る。


 「師匠だって何もしてねぇよ。あの人が目をつけられたのは、遊びで動物を傷つけてる貴族から、動物を庇ったからだ」


 「なんだそりゃ。いいことだろ」


 「高貴な身分の野郎の趣味なんざ知りたかねぇが、当時はわざわざ動物を買って、その動物をいじめるって遊びが流行ってたらしい」


 自分よりも弱いものを傷つけ、面白がる。


 人間としては最低のことだが、それを身分の高い者がやると、誰も否定することが出来なくなってしまう。


 「今よりも、権力にたてつくってことが御法度だった時代だ。師匠は捕まっていた動物たちを逃がしたんだ。まあ、すでに目が見えなくなっていたり、手足がない動物も沢山いたらしいが」


 「で、目をつけられちまったってわけか」


 「師匠は逃げるようにその国から去ったが、腹の虫がおさまらなかったそいつらは、師匠を国際的に抹殺することにした」


 「酷ぇもんだな」


 すでに食事を食べ終えたイデアムは、胡坐をかいた状態で頬杖をつき、その体勢で話しを聞いていた。


 そのとき、イデアムは何かを思い出したように口を開く。


 「あれ?森蘭・・・って、確かもう死んでるよな?何十年か前に、新聞か何かで読んだような気が・・・」


 「ああ。死んだことにはなってる。世間的にはな」


 「意味深な言い方だな。ってことは、何か?生きてるのか?」


 ズズ、と茶を啜ってから、海浪は少し考えてから言う。


 「ああ。生きてる」


 「・・・それ、俺に言っていいのか?」


 「お前は師匠には興味はないと判断した。師匠はある日突然、俺と銀魔の前から姿を消して、隠居生活を始めた。そのことは俺達しか知らない。師匠を追ってる奴らは、もうすでに死んでると勝手に思いこんでる」


 「まあ、わざわざ否定する必要はねぇしな」


 「師匠は見たくねぇんだよ。こんな薄汚れた景色。あの人が夢見た景色はもっと、今よりずっと色鮮やかだ」


 「・・・・・・」


 しんみりとなったその場に、またしてもあの男がやってきた。


 「師匠!!!!蒼真が追ってこない!全然追ってこない!俺、隣街まで走って逃げたのに、全然追ってこなかった!!」


 「誰が鬼ごっこなんてやるって言った。1人でやってろ」


 「蒼真、そういうこと言っちゃダメなんだからな!!!師匠が怒るからな!!ね!師匠!言ってやって!」


 ふふん、と両腕を腰に置いて、なぜか偉そうに言っている天馬に、海浪は静かにこう告げる。


 「天馬、薪割り100本やっとけ」


 「いえっさー!!」


 海浪に言われると、天馬はさっさと裏手の方に回っていった。


 すると、裏の方からはカンカンというか、バキバキというか、そういった木が真っ二つに割れているんだろうな、という音が盛大に響いていた。


 活きが良い奴だな、とイデアムが思っていると、海浪と目が合った。


 「用がすんだら、さっさと行きな」


 「・・・ああ。そうするよ」


 イデアムが腰を持ちあげると、隣にいたブライトも同じように立ち上がる。


 そして戸を開けて一歩外へ出ると、曇っているのに眩しく鈍い光が視界に入り込み、思わず顔を顰めた。


 「世話になったな。借りは必ず返させてもらうよ」


 「別にいらねぇよ」


 中にいる海浪にそう言われ、イデアムは小さく笑って去っていった。


 それからすぐ、蒼真が海浪のもとへやってきた。


 「あの2人、何者ですか?」


 「・・・通りすがりの、革命家だ」


 「革命家、ですか」


 「・・・・・・」


 イデアム、としか名乗っていなかったが、あの銀髪に隻眼は知っている。


 特に気にしてもいなかったし、そこまで興味もなかったし、他人が決めてやることに口出しはしない。


 その男は大きな反勢力のリーダーでありながら、まるで人間らしく笑う。


 虎視眈眈、今は大きな動きはしていないにしろ、これから先、最も危険視されていることに変わりはない。


 銀魔にしろ、海浪にしろ、自ら喧嘩をしに行くということはしない。


 ただ自分たちに向かってきた敵を倒すだけ。


 だが、革命家は違う。


 きっと準備が整って、タイミングが合って、それでいてチャンスがおとずれたとき、奴等は隠していた牙を一斉に剥き出しにするのだ。


 「デスロイヤ・イデアム。どう世界を変えるのか、お手並み拝見といこうじゃねえか」


 「師匠師匠!!土で作ったお団子!!今夜のおかずにしよう!!」


 「そりゃ無理だ」








 きっと奴らは、牙を磨いているのだ。


 一噛みで世界を喰い殺すために。






 「天馬、皿に並べんじゃねえ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る