第33話 これもテンプレだよね

 昨日はいろいろあり過ぎて頭がパンクしそうだったが、朝になりタロ達を起こすと身支度を済ませてから一階の食堂で朝食を済ませるとカウンターへと向かう。


「はい。お世話になりました」

「あら、もう出発なの」

「はい、済ませたい用事もあるので」

「そうなのね。はい、代金もちょうど頂きました。またのご利用をお待ちしております」


 受付にいたニャルさんに部屋の鍵と宿泊料金を渡して挨拶すると丁寧なお辞儀で送り出してくれた。


「よし! タロ、アオイ、行くよ」

『ワフ!』

「ああ、いいぞ」

「でも、その前に……」


 冒険者ギルドへ行く前にやっぱりアオイにもナイフぐらいは持っていて欲しいと思いガイルさんの鍛冶屋へと向かう。


「ガイルさ~ん、もしも~し、ガイルさ~ん。あれ?」


 いつもなら奧から返事がするのに何も返ってこないのを不思議に思う。


「生きているよね?」

『肯定します』


 流れるメッセージに安堵を覚えつつ、タロとアオイにはここで待っててもらい「失礼しま~す」と奧へと進む。


「ガイルさん、いるの?」

「……」


 微かに動くなにかに気付きガイルさんなのかと思い声を掛けながら近付くと何かを呪詛の様に繰り返していた。


「ガイルさん?」

「出ねえ……なんで出ねえんだ……なんでだ……」


 何かを呟きながらガイルさんが手に持っていたのは、俺が買った太刀に似た反りを持つ短剣だった。


「ガイルさん、もしもし……ガイルさん、コータだけど……」

「コータ……コータ……コータかぁ!」


 ガイルさんに呼び掛け、俺の名前を告げるとガイルさんは二,三度俺の名前を呟いた後に思いっ切り俺の方を振り返る。振り返ったその顔は頬がごっそりと痩せこけ、以前の様相とは大分変わってしまっている。


「ガイルさん、一体どうしたのさ」

「コータ! お前のを見せろ! ほら、見せろ!」

「いや、何? ガイルさん、どうしたの? 見せろって何?」

「だから、お前が買っていった剣だよ! アレを見せてくれ! 頼む、この通りだ!」

「え?」


 そう言って、ガイルさんはその場で俺に土下座して懇願する。


「ちょ、ちょっとガイルさん。分かったから、分かりましたから、先ずは立って。ほら」

「……すまない」


 ガイルさんは俺に謝り立とうとするが、上手く立てないようでフラついてしまう。


「ガイルさん、俺の肩につかまって」

「ああ、すまないな」

「もしかして、ちゃんと食べてないの?」

「……いつ、食べたかな?」

「ハァ~先ずはキレイにするね」

「お!」


 俺はガイルさんに向かって『クリーン』を実行すると、煤塗れだったガイルさんの顔もキレイになる。


「じゃあ、ご飯ね。好き嫌いはあるかもしれないけど、文句は言わないでね」

「ああ、いいぞ」


 アイテムボックスからパンとスープが入った鍋と深めの皿を取り出すとスープを注ぐ。


「はい、どうぞ。何食か抜いているみたいだからスープにしたよ。慌てないでね」

「ああ、ありがたく頂くよ」


 ガイルさんがスープをスプーンで掬って喉をゴクリと流し込まれたところでどうしてこうなったのかを聞いてみる。


「それで、ガイルさんはどうしてあんなことになっていたの?」

「それが原因だ!」

「それってコレのことなの?」

「ああ、そうだ」


 さっきガイルさんが俺に見せろと言っていたので俺はアイテムボックスから太刀を取り出し側に置いていたのを見たガイルさんが『原因』だと言う。


「えっと、どういうことなの?」

「まずは刃文だ。どうやってもあの模様が出ない」

「あ~」

「それにあの切れ味だ。今までどんな剣を作ってもあんなにキレイに切れたためしがない」

「あ~」

「それを追求していたら……」

「ああなっていたと」

「そうだ。済まなかったな。助かったよ」


 ガイルさんが夢中になっていた原因は分かった。俺があの太刀を試すまでは誰も上手く使いこなせなかったから、あんな風に斬れるものとは思いもしなかったのだろう。それに刃文を出す為には今までのガイルさんのやり方では到底無理だ。だから、それを伝えることにした。


「それはよかった。でも、今のやり方じゃどうやっても近付けないよ」

「ん? どういうことだ? お前、何か知っているのか?」

「ん~知ってはいるけど、俺もちゃんとした知識で知っている訳じゃないよ。でも、一つだけ言えるのは、今のガイルさんのやり方じゃ一生無理だよ」


 俺がそう言うとガイルさんは食事の手を止め、俺に振り返ると俺の両肩をガッシリと掴み「教えろ!」と迫って来た。


「ガイルさん、痛いから離して貰えるかな」

「あ、ああ、スマン」

「いいけど、さっきも言った通り俺もちゃんとは知らないよ」

「それでも何かが掴めるのなら、それでいい。だから教えてくれ」

「ん~そこまで言われると、教えてあげたいけど、もうこの町を出るから。ゴメンね」

「そうか……それでどこに行く予定なんだ?」

「先ずは王都に行ってから、次は『ドンガ国』に行っ「ドンガだと!」て……うん、あ!」

「そうかそうか、ドンガに行くんだな。よし、待ってろ!」

「え? ガイルさん、まさか」

「ああ、俺も行くぞ」

「え? でも「心配はいらん!」……そういう訳には……」

「いいから、待ってろよ!」


 そう言ってガイルさんは奧の方に小走りで向かった。


「これってやっちゃったかな」

『肯定します』

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