第34話 我慢出来なかった

「待たせたな」

「ホントに来るんですか?」


 奥からガイルさんが大きな荷物を背負って俺のところまで来た。そして、背負っていた荷物を下ろすと冗談じゃないとばかりに俺に言う。


「今更何を言うんだ。もう、こんな風に荷物も纏めたと言うのに!」

「まあ、そうですね。じゃ、荷物は預かりますね」

「ん? 俺を年寄り扱いするつもりか?」

「そういう訳じゃないけど……はい、これで終わり」


 アイテムボックスにガイルさんの荷物を収納するとガイルさんは驚き俺の顔をジッと見る。


「ん? おい、今何をした?」

「何ってガイルさんの荷物を預かっただけだよ」

「……いや、いい。俺は黙って着いていくだけだ。荷物はありがとうな」


 ガイルさんがなんとなく納得してくれたので、鍛冶屋から出るとアオイが「遅い!」と言ってきた。


「あ、そうだった! ガイルさん、アオイに護身用のナイフを買いに来たんだけど、いいかな」

「ふむ、この嬢ちゃんにはなにも必要は無さそうだけどな。まあ、そうだな。ちょっと待ってろ」


 ガイルさんがそう言って一度、鍛冶屋の中に戻ると一振りの大きめのナイフを手に戻って来た。


「持ってみろ」

「ふむ、なんかいいな」

「なら、ソレを持っているがいい」

「ガイルさん、ありがとうございます。お代は?」

「いらん……と言いたいが、それじゃお前が困るだろうから、そうだな。お前の授業料ってことでいいぞ」

「ガイルさん、いいんですか?」

「ああ、構わん。それよりも急ぐんだろ? なら、行くぞ」


「あ、はい」


 なんだか知らない内にガイルさんを先頭に冒険者ギルドへと向かうことになった。冒険者ギルドに入るとガイルさんは真っ直ぐに受付カウンターに座っているノエルさんの前に向かう。


「あらガイルさん珍しい。どうしたんですか?」

「ノエル、しばらくの間留守にするから俺の店を頼む」

「はい? コータ君と一緒にいるってことは……まさか!」

「その、まさかさ」


 そう言って、ガイルさんはニヤリと笑って見せる。


「ちょっと、一緒にいいですか? コータ君も来て」

「え? 急いでいるんだけど……」

「ダリウスから預かる物があるでしょ」

「あ、はい……アオイ、タロと一緒に待っててくれるかな」

「ああ、いいぞ」

「アオイちゃん、隣の食堂で待っててね」

『ワフゥ!』

「タロ、また食べるつもりか。まあ、大人しくしていてくれるのならいいか。じゃあ、ギルマスの奢りだな」

「ふふふ、そうよ。どうぞ、ご遠慮なく」


 アオイとタロは機嫌良さげに食堂へと向かうとコータとガイルはノエルの案内での部屋へと案内される。


「入りますよ」

「おお、来たか」

「こんに……って、どうしたの、それ?」

「また、派手にやられたな。ダリウス」


 部屋に入ると頭や顔を引っ掻き傷だらけのギルマスが待っていた。


「まるで他人事だな」

「え? どういう意味なの?」

「ニャルだよ! アイツ、俺が帰るなり『子供の昼を抜くなんて、何考えているの!』ってな。言い訳もさせて貰えずにコレだよ」


 そう言ってギルマスは右頬の大きな引っ掻き傷を指で差す。


「え? なんでニャルさんが、ギルマスと……え、ええ~ウソ!」

「何がウソだよ」

「ふふふ、コータ君。言いたいことは分かるけど、残念ながらニャルとダリウスは夫婦よ」

「……」

「なんだ、何が不満なんだ」

「だって、ニャルさんだよ」

「だから……んだよ」

「え?」


 俺が不満そうにしているとギルマスが不機嫌そうに返事をするが、上手く聞き取れないので聞き返す。


「すみません、もう一度!」

「だから、触っちまったんだよ。思わずシッポをこう、ギュッて……な、お前なら分かるだろ? あんな物が目の前でふわふわしていたら触るだろ」

「……」


 俺は思わずコクリと頷いてしまう。俺、獣王国じゃ手を縛っておかないとダメかも。

『肯定します』


「ダリウスったら、あんなこと言っているけど……実はね」

「ノエル!」

「ふん、今更隠すことでもないだろ。大体、いつまでもうじうじとハッキリしないお前に業を煮やしたニャルから仕掛けたんじゃないか。まったくいい歳した男が……ハァ~」

「あの……」

「あら、ごめんなさいね。置いてきぼりにしちゃったわね」

「いや、いいんですけど。もしかしてギルマスにニャルさんにノエルさんにガイルさんでパーティ組んでたとか」

「惜しい!」

「え?」

「ハンスも一緒だったのよ。だから、五人で組んでいたの。でもな、ダリウスが深手を負って冒険者を引退したのを切っ掛けに私達も引退したの」

「あ~なるほど」

「分かってくれたら、話に戻るがいいか?」

「はい」

「お前なら獣王国で嫁さんをダース単位で作りそうだな」

「……俺もそう思う。ホントに拘束されないとダメっぽい」

『肯定します』


 ギルマス達の馴れ初めに少し驚いたが、今はそんなことよりもさっさと紹介状なりなんなりを受け取って早く町から出たい。


 そう思い俺はギルマスへ手を差し出す。


「ん? どうした?」

「どうしたじゃなくて、紹介状。あるんでしょ早く」

「おう、そうだったな。これだ」


 ギルマスは机の上に置いてあった羊皮紙の束を俺に差し出す。


「私のもあるから、よろしくね」

「はい」


 俺はそれをアイテムボックスに入れ、部屋から出ようとすると「ちょっと待て」と止められる。


「え~何、急いでいるんだけど?」

「どうしてガイルがそこにいるんだ?」

「どうしてって、勝手に着いて来てんだけど」

「そういうことだ。スマンが暫く留守にするから、よろしくな」

「分からん。俺にはお前達が言っていることが全く理解出来ない」

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