第36話 見えない攻防

 気を取り直してクリフさんと一緒に館に帰ると「遅い!」と姫さんに怒られるが、俺には怒られる理由もないので、俺の目の前で手を腰に当て俺を睨んでいる姫さんを無視して部屋に急ごうとするが「わんわん!」と今度はアリス嬢が行く手を阻む。


 だから、俺が「タロ」と一言だけ発すると『ワフ!』とまるで「任せろ!」とでも言いたげにアリス嬢の元へ向かっていく。


 障害物が消えたので俺は真っ直ぐに部屋へと向かう。


「あ~疲れたしハラも減ったし精神的にも結構削られたな~そうかぁ~見られたのか~う~」


 部屋に入るなりベッドに突っ伏してフルチンを見られたことが急に恥ずかしく思えてしまい一人で赤面していると部屋のドアがノックされる。


「はい、どうぞ」

「失礼します。帰られたばかりでお疲れとも思いますが、湯浴みをされてはどうでしょうか? 聞けば、三日ほど依頼で野宿していたとお聞きしましたが……その、ちょっと」

「え?」


 部屋に入ってきたメイドさんに言われ自分で自分の匂いをスンスンと確認してみるがダメだろとなり、着替えを手に取り浴室へと向かう。


「あ、一人で大丈夫ですよ」

「……そうですか。残念です」

「え?」

「あ、いえ。こちらの話です。では、ごゆっくり……」

「はい」


 メイドさんに断り一人で浴室へと向かうが、俺の去った後にさっきまで話していたメイドさんに他のメイドさんが詰め寄っているように見えた。話し声はここまで聞こえてこないけど、聞こえない方がいいんだよね、多分。

『肯定します』


 タロはまだアリス嬢の相手をしてもらっているだろうとは思ったが、洗える時には洗っておかないとダメだろと言うことでアリス嬢には悪いが「タロ!」と呼び出す。


 俺の呼ぶ声が聞こえたのか、すぐにタロが廊下を走ってくるのが見えた。背中にアリス嬢を乗せたままで。


「タロ、お嬢さんまで連れて来ちゃダメだよ」

『ワフ?』

「いやいやいや、何のことじゃないよね? 分かっているんでしょ」

「タロ様~お嬢様~……ハァハァ……や、やっと追いつきました」

「ワンワン、もう一回!」

「お嬢様、勘弁してください。タロ様は今からお風呂なのですから、行きましょう」

「いや!」


 タロの背中に「離れるものか!」とガッシリとしがみ付いているアリス嬢を「はいはい」と軽くいなしてタロの背中からアリス嬢を下ろすとしっかりと抱っこするが、アリス嬢は諦められないらしく両手を伸ばし「ワンワン!」とタロを呼び続けながら廊下の奥へと消えていく。


「行こうか」

『ワフ!』


 タロと一緒に脱衣所に入ると先ず最初に施錠する。これで覗かれることはないだろうと安心して脱衣籠に来ていた服を放り込む。


「これでよし! タロ、行こう」

『ワフ!』


 カラカラ~と浴場へと続く扉を開けると、掛け湯してから洗い場でしっかり汚れを落とす。当然、タロも一緒に洗う訳だが、今回は普通に魔法を使ってタロを綺麗にする。


 その時に脱衣所の向こうから声が聞こえたので、少しだけ注意して聞いてみる。


『ちょっと、どういうことなのよ!』

『私に言われても分からないわよ!』

『静かにしてよ! 解錠出来ないでしょ!』


 ん~どうも不埒な考えを捨てきれないよろしくない人がいるみたいだから、施錠とは別に扉を固定したいんだけどと念じてみると『可能です』とメッセージが流れたので扉自体を固めるイメージで『固定ロック』と念じてみる。すると、それと同時に『やった!』と声が聞こえた。


『開いたわよ!』

『なら早く開けなさいよ!』

『そうよ私だって見たいのに!』

『もう、そんなに慌てなくたって……ん? あれ? どうして?』

『ちょっと、何してるの。鍵は開いたんでしょ』

『うん、鍵は開いたんだけどね。扉が動かないの』

『そんな訳ないでしょ。ちょっと貸してみなさいよ。ふん! ホントだ!』

『もうあんたまで何やってるの。ぺっぺっ……私に任せなさい! ふんぬ、ホントだ』

『『『え~』』』


『大変そうだね~』

「ねえ」


 俺はタロと一緒に湯舟に浸かりながら、まだ扉をどうにかして開けようとしているお姉さん達に恐怖を感じてしまう。


「これがあと二,三日は続くのか~」

『大変だね』

「他人事なんだな」

『うん!』

「ハァ~怒らないと言ったし、しょうがないか」


 久々のお風呂を堪能しタロも俺も十分乾かした後で、扉の『固定』を解除する。


「やっと開いた~あ!」

「もう、開いたのならどきなさいよ。え……」

「そうよ、フルチンなのよ。私にも見せなさいよ。うっ……」


 そこにはメイドのお姉さん達五,六人が固まって俺を見ていた。


「あ、お風呂空きましたよ」

『ワフ!』


 ノエルさんとの約束もあるので怒るわけにもいかず「気付きませんでしたよ」の体で躱すことしか出来なかった。


「待ってたわよ!」

「え?」

「コータ様、タロ様、お食事の準備が出来ております。こちらへどうぞ」


 風呂から出た俺達を待っていたのは姫さんとクリフさん、それにどこか不機嫌な隊長と護衛の騎士達だった。


「あ~これがあったんだ」

『ワン!』


 館にいる限りは晩餐には一緒に席に着くように言われていたことを思い出す。タロは食事出来るだけで嬉しそうだけど、俺にはあの重っ苦しい雰囲気がどうも好きになれない。


「早く一人になりたいよぉ~」

『否定します』

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