第37話 出発前日
キュリ達と別れてから三日後、街門にキュリが訪ねて来たと連絡があったので俺とタロとクリフさんで冒険者ギルドへ向かうと、そこにはキュリが受付に座っているノエルさんの前に立っていた。
「キュリ、久しぶり」
「おう、コータ」
「キュリ様、こちらへ来られたということは準備が出来たということでよろしいでしょうか」
「ああ、いいぞ。どうする? 今すぐ出るか」
「では、明日の朝、早い時間になりますが……そうですね。陽が昇ったくらいの時間に川でお待ちしたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「あ、ちょっと待て。明日の陽が上がった頃だな。よし、覚えた。それでいいぞ」
「分かりました。それでは明日川の船着き場にてお待ちしております」
「じゃあ、コータ。また明日な」
「え? もう帰るの?」
「ああ、俺にも明日の準備があるからな」
「そうだね、分かった。じゃあ、明日」
「おう!」
キュリがそのまま冒険者ギルドを出て行くのを見送るとクリフさんが「私はこちらの方と話を済ませておきます」と言うので、俺はタロと一緒に冒険者ギルドを出ることにした。
「出たのはいいけど、特にすることもないかな」
『ご飯を用意しといた方がいいと思う』
「あ、そうか。それもそうだね。また野宿になったらご飯が大事だもんな」
『うん、ご飯は大事だから』
と、言う訳でご飯を大量に用意しようということになったが、この町のことは全く知らない。ならばと冒険者ギルドの中に戻りノエルさんにオススメのご飯やさんを聞くことにした。
「と、言う訳でご飯屋さんを教えてください。出来れば、ジャンル違いで五件ほど」
「ちょ、ちょっと待とうか。一体、どうしたの?」
「えっと、実はかくかくしかじかこういうことで」
「ああ、そういう訳ね。うん、そう言うことなら分かったわ。先ずお肉がメインの『オーク亭』にスープが美味しい『ソワーズ』、野菜の煮込みならここ『シチュー屋ボウ』、パンが美味しい『ブレッドトマス』、創作料理の『ワーズ』と。こんなとこかしらね」
「名前は分かったけど場所はどこなの?」
「ふふふ、心配しないでも大丈夫。ここを出てから、通りを中心の方に向かえば全部あるからね」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。でも、そうか。姫様が出て行くということはソータ君やタロ様ともお別れなのね。淋しくなるわね」
「……そうですね。俺にとっても最初に冒険者登録した町だから、もうふるさとみたいな感覚になってますからね」
「まあ、嬉しいこと言ってくれるのね。ふふふ、そういうことならたまには帰って来なさいよ」
「はい、ハンスさんにも会いたいので絶対、来ますね」
「そうね。ちゃんとした挨拶は明日にするとして、ご飯の買い出し頑張ってね。何か文句言われたら、私の名前を出しちゃって構わないからね」
「はい、本当にありがとうございます」
「うん、じゃあね」
俺達に手を振ってくれるノエルさんにお礼を言いつつ、冒険者ギルドを出てから、ノエルさんに教えてもらったお店を一軒ずつ回る。
「先ずはここ、『オーク亭』だなあ。オーク肉には正直まだ抵抗はあるけどうまいしな~」
『ねえねえ、オヤツはいくらまでなの?』
「お肉はオヤツじゃないからね。先に用事を済ませてからね」
『分かった』
店の前でタロとそんな会話をしながらも既にいい匂いがしていることに顔が綻ぶ。
「すみませ~ん」
「あ~悪いけど、従魔は外で待っててもらって」
「あ、はい。タロ、悪いけど待っててね」
『うん、いいよ。オヤツ待ってるね』
店員にタロをお店に入れないように注意されたのでタロは外でお留守番してもらい、俺だけ中に入るとエプロンで手を拭きながら店員さんが奥から出て来た。
出て来たのは二メートル近くありそうな熊系の獣人の男性だったから、ちょっとだけビビッてしまう。
「で、なに? 今、仕込み中なんだけど」
「あ、えっと。実はですね。食器込みでこちらの料理を十食ほど買いたいんですけど、出来ますか」
「ん? もしかして誰かのお使いなの?」
「あ、いえ。俺が買いたいんです」
「なんだよ。揶揄っているのならお断りだよ。帰りな」
「え~ちょっとは話を聞いて下さいよ」
「話を聞けって言われてもな~そんな子供じゃちょっとな」
「ノエルさんの紹介だと言ってもですか?」
「お、おい、お前。いくらなんでもその名前を軽々しく口にするんじゃない! 聞いたのが俺だったからいいものを。いいか、その名前を口にしたのは黙っといてやるから帰りな」
「だから、そこの冒険者ギルドのノエルさんから紹介してもらったって言ってるでしょ!」
「マジなのか?」
「マジです。なんなら、この足で『ちっとも話を聞いてくれなかった』って冒険者ギルドに駆け込んでもいいんですよ」
「いや、分かった。分かったから、それだけは止めてくれ!」
「じゃあ、話だけでも聞いてもらえますか?」
「分かった、分かったよ。じゃあ、話を聞こうじゃないか」
そう言って店の主人らしき熊系の獣人は店内のテーブル席に俺を座らせると、俺の目の前に座る。
「まずは、俺の名前だな。俺はここ『オーク亭』のオーナーシェフのバレルだ」
「俺はコータ。店の前にいるのがタロ。コレでもBランクの冒険者だよ」
「ん? Bランクだと。この前、その辺のダレている冒険者を纏めて秒殺したヤツがCランクに上がったと聞いたばかりだけどな。最近は冒険者ランクも上がりやすいのか。こんな子供がBランクだなんて」
「あ、多分だけど、それも俺だよ」
「あ?」
「だから、Cランクだったけど、この前Bランクに上がったの。ほら、ね?」
「あ~ホントだな」
俺が口でBランクだと言っても信じてもらえなかったので、ギルドカードをバレルに見せると顔が引き攣る。
「どうしたの?」
「いや、今更ながらにBランクの冒険者にケンカを売りそうだったこととノエルにそれがバレたことを考えてしまってな」
「ふ~ん。ま、それはいいけど俺の注文は受けてもらえるのかな」
「確か食器込みで十人前だったな」
「うん、そう。料金は食器込みでね」
「ああ、それはいいんだがよ。食器込みってのはどうにかならないか」
「どうにかって?」
「あのな、こんな小さな店で食器まで持って行かれるとな、他の客に迷惑が掛かるだろ」
「あ~そういうこと。ならさ、大皿に載せられるならそれでお願い出来る?」
「ああ、それくらいならな」
「分かった。じゃあ、今日の夜か明日の朝に受け取りに来たいんだけどいつがいい?」
「そうだな。出来ればだが、晩の営業前に来て貰えると助かるな」
「分かった。じゃあ、四時ぐらいでいいかな」
「ああ、それで頼む」
バレルが右手を出してきたので俺もその大きな右手を両手で握り返す。
ちゃんと注文出来たことを喜び、外に出るとオヤツを期待していたタロと目が合う。
「タロ、次の店に行くよ」
『オヤツは?』
「……今はお昼の仕込み中でなかったよ」
『え~そんな~』
「その代わり、夕方にまた来るから。その時はあるよ」
『ホントに?』
「……ホントかも」
『……』
タロに呆れられるが、後四軒も残っているんだし、どこかでオヤツは購入出来るだろうと、タロをなんとか宥めて歩く。
そう思っていたんだけどね。
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