第35話 それは流行らせちゃダメ

 クリフさんに諸々の報告を済ませ、依頼成功のサインをもらった後にキュリ達からの条件というか船の手配は依頼者であるクリフさんでお願いしたいということをクリフさんに伝える。


「ええ、心配いりません。この依頼を出した後に既に手配済みです。先ずはお嬢様と私を含め数人で向かう予定ですのでそれほど大きな船を必要としないので」

「そうですか。じゃあ、俺はここで「ダメです」はい?」

「ですから、コータ様にはまだお礼をしておりません。それにコータ様への護衛依頼をコータ様とタロ様指定で既に受理されています」

「え?」

「あ~確かに依頼は出されているな。これがそうだ。ほら、サインしてくれ」

「え?」


 ギルマスから面倒そうに渡された羊皮紙には『クレイヴ領までソフィア様、及び従事者の護衛』と依頼達成条件には『傷一つ負わすこと無くクレイヴ家に迎え入れられること』と記載されていた。更に言えば失敗に関する罰則は書かれていなかった。


 それについてクリフさんに尋ねると「お嬢様がキズ物にされたなら、分かりますよね」と言われてしまい絶対に成功させてみせるからと心に誓う。


 ギルマスが羊皮紙を準備していたことから、この依頼を断るのは無理だろうな。しょうがないかと依頼を受けたこと示すサインを記載すると「随分と物わかりがいいな」とギルマスがニヤリとしながら、その羊皮紙を受け取り懐へとしまう。


 キュリは何が行われているのか大体の雰囲気で察しているのだろうか何も口を挟んでこない。そうしているとノエルさんがジュリを連れて戻って来た。


「ドウカナ、お兄ちゃん」

「あれ?」

「ふふふ、ジュリちゃんの可愛さに驚いてるの?」

「いや、そうじゃなくて……」

「ム~」


 俺がそう言った瞬間にノエルさんは顔を手で押さえ、ジュリの頬が膨らむ。


「コータ君、先ずは言うべきことがあるでしょ。ダメだぞ!」

「あ、えっと……可愛いよジュリ」

「エヘヘ、ありがとう」


 やっぱり、そうだ。まだ少しだけど言葉がさっきより流暢に聞こえる。


「ふふふ、コータ君は気付いたみたいね。まあ、あれだけ話せば少しは上達するってことよ」

「あ~なるほど。じゃあ、キュリも……」

『勘弁してくれ!』


 ノエルさん曰く、職員のお姉さん達と一緒にジュリを囲んでの着せ替えタイムだったそうだが、そこは目にするのも珍しいリザードマンで、しかも幼女とくれば可愛いものが好きな女性が放っておくことが出来るハズもなくジュリに対し、簡単な質問から好みのタイプまでず~っと息が途切れる間もないくらいに話し続けたらしい。


 じゃあ、キュリにも同じ様にと考え、キュリを見れば顔の前で盛大に手を横に振り俺に訴えてきた。


「折角の機会なのに」

「ネエ~」

「オレハコノママデモジュウブンダ」


 そんなこんなでリザードマンとの仲介も出来たし、キュリを代表としてクレイヴ領までの水先案内人を勤めてもらうことを新たな依頼として出すことにしたが、その前にキュリ自体の冒険者登録をしておいた方がいいだろうとなったのでキュリも晴れて冒険者となった。


『ギルドカードをもらってもな~』

「あ~そうだよね。基本スッパだもんね。ノエルさん、代りのはないの?」

「ん~そうよね。パンツの中に入れるって手もあるけど、ソレを出されても受け取るのはイヤよね。えっと、ちょっと待っててね」


 ノエルさんが部屋から出るのを見送り、キュリはギルドカードをパンツにしまおうとしているので慌てて止めさせる。


『なんだよ。試しといた方がいいだろうが』

「だから、ソレは返すんでしょ。それなのにそんなところに入れたのを返す気なの!」

『ダメか?』

「ダメに決まっているでしょ!」

『なんか不便だな』

「キュリオジチャン、ダメダヨ」

「ハイ……」


 キュリがジュリに注意されしょんぼりしている所にノエルさんが戻って来て、はいとキュリにブレスレットの様な物を渡して左手に装着してもらう。


「コレハ?」

「ギルドカードと同じ働きをするブレスレットよ。なくさないでね」


 ノエルさんの言葉にニヤニヤしながらキュリが左手のブレスレットをいじくっているとジュリがそれを物欲しそうに見ている。


「ジュリ、それは冒険者の証だからね。欲しがっても無理だよ」

「……ハイ」

「ふふふ、女の子だもんね。種族に関係なく装飾品は好きよね」

「ウン!」

「でも、ジュリちゃん一人だけが何かもらって帰ったら、それを見たお友達はどう思うかな?」

「ア……」

「だよね、お友達も欲しくなるし悲しくなるよね。だからね、今は我慢してね。お友達がどれだけいるのか教えてもらえたら、私の方で何か考えておくわよ」

「イイノ!」

「ふふふ、いいわよ。仲良くなった記念だもの。ね、コータ君」

「いいんですか?」

「もう、コータ君までそんなこと言うの?」

「だって、ハンスさんがお小遣いが少ないって……」

「あ~そう、ハンスがそんなこと言ってたのね。ふふふ、いいこと教えてくれてありがとう。でもね、大丈夫よ。そんなにお金は掛からないから」


 俺は自分の失言に「ハンスさんゴメン」と謝る。


「では、これで依頼は受理されたのですね」

「ああ、そうだな。キュリとやらそちらもいいか?」

「イイゾ。オレハサトニカエリナカマヲアツメル」

「そうか。じゃあ、準備が出来たら、またここへ来てもらってもいいか?」

「モンダイナイ」

「分かった。今日は色々ありがとうな」

「コチラコソ」


 ギルマスがキュリに対し右手を差し出すがキュリはその差し出された右手の意味が分からず俺の方を見てきたので握るように目で合図すると分かってくれたのか、握手を交わす。


「じゃあ、待ってるね」

『ああ、そんなに時間を掛けるつもりはない』

『ばいばい、お兄ちゃん!』


 キュリとジュリの二人を街門まで俺とタロとクリフさん、ノエルさんの三人と一匹で見送る。


「よし、これでキュリ達が来るまではゆっくり出来そうだね。タロ」

『ワフ!』

「そうとも限らないわよ」

「え?」

「まあ、館に帰れば分かるから」

「え~そんな、気になるじゃないですか」

「ん~私から聞いたって言わない? 怒らないって約束してくれる?」

「言いませんし怒りません! だから教えて下さい!」


 俺がそう断言すると「私も全部を覚えているわけじゃないんだけど」と断りながら、人が行き交う往来でノエルさんはいきなり、右手を前に翳し、左手で顔の下半分を隠すようにしてから、腰を少し引き、右足を前に左足を少しだけ後ろに立つ。


「あれ? デジャヴ?」

「格好はこんな感じで確か……『我の求めに応えし水の精霊ウンディーネよ。今、ここに姿を現し目の前の敵を討ち滅ぼせ!』……だったかな。どう?」

「……」

「あれ? 違った?」


 ノエルさんはたくさんの人が行き交っている通りの真ん中でいきなりジョジョ立ちを披露すると厨二病満載の文言を唱える……が、それは俺がしたことまんまだったので俺は一瞬目の前で何が起こったのか知解できなかった。


「ねえ、コータ君?」

「あ、ごめんなさい。ノエルさんに問題はありません」

「そう、よかった。これねウチの子にも好評なのよ。今は子供達と一緒に並んでやっているわ」

「え……どうして?」

「あ~そこは気になるわよね。あのね、館に勤める私の友達が教えてくれたのよ。今、館で流行っているって」

「え?」


 俺はその言葉を聞いてクリフさんに振り返るとクリフさんはソッと顔を逸らしていた。


「え~」

「あのね、怒らないって言ったでしょ。だから、その友達を怒らないで欲しいの」

「それはいいですけど……なんでこんなことに? どうして見られたの?」

「コータ様、その辺りは私から説明させてもらってもよろしいでしょうか?」

「あ、クリフさん。ここじゃあれですから、先程の部屋で話しませんか?」

「分かりました。では、コータ様」

「はい……」


 ノエルさんの勧めで冒険者ギルドの部屋に戻ると「お茶を用意しますね」とノエルさんが部屋から出ると俺の正面に座るクリフさんが「ふふふ」と軽く笑う。


「これはすみません。ですが、コータ様には理解して頂ければと思っています」

「理解?」

「はい、詳しい話はノエル様を「お待たせ!」……ありがとうございます」


 ノエルさんがお茶を持って来てくれたので皆でお茶を飲み落ち着いたところでクリフさんが切り出す。


「まず、コータ様が『なぜ分かったのか』ということに関してですが……コータ様は湯浴みの手伝いをお断りされましたよね」

「はい、そうですが……それが何か問題だったんでしょうか?」

「いえ、そうではありません。ですが、湯浴みの手伝いを任されたメイドからしてみれば、いくら王家の客人でも素性も分からない平民の少年がお風呂を汚さないように使えるのだろうかと気にはなるでしょう。もし、コータ様がお風呂場で物を壊したりなどの不手際があれば、そのメイドの責任が問われることになるのですから」

「あ~それは分かる気がしますね」

「ええ、それでそのメイドはコータ様の様子を確認するしかなかったのです」

「あれ? ちょっと待って下さい。あの時はタロに見張ってもらっていたはず。そうだよね、タロ」

『うん』

「あれ? なら、どこから見られていたの?」

『扉からだよ』

「え? タロ、知ってたの?」

『うん、そうだよ』

「え、見張りを頼んだよね?」

『でも、見張りはいいよって言われた後だから』

「あ~そうだよ……」


 ここまで説明されて、いつ見られていたのか分かったが逆に恥ずかしくなる。だって、フルチンでジョジョ立ちして厨二病全開のセリフを言いながら、タロに水球ウォーターボールをぶっ放していたんだから。


 すると、俺を見て笑いを堪えきれないといった感じのノエルさんに気付く。


「どうしました?」

「だ、だって、コータ君……お風呂場ってことはフルチンだったんでしょ? それがさっきから頭の中で繰り返し浮かんで……プフッ……ゴメンね」

「クリフさん、ノエルさんはこんな調子ですけど、流行っている理由はどうしてなんですか?」

「それはですね……」


 クリフさんが言うにはイベントも少ないし刺激がそうある訳でもない、閉鎖的な空間の館で俺が芝居がかった調子でしたことがメイドさんの好奇心を刺激したようで、ジョジョ立ちを更に昇華させようとする者、絵師に頼んで残そうとする者、数名で組んで披露する者など多様化しているそうで、出来れば俺に監修して欲しいと思っていることも話してくれた。


「実は私も……」

「え~」


 そう言ってクリフさんも華麗なジョジョ立ちを披露してくれたのだった。


「まさか、この世界で流行ったりしないよね」

『肯定します』

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