20話

話すの楽しかった。

構ってくれたのが嬉しかった。

また会いたいと思った。

会えないと思ったら寂しかった。


今、会えて。

好きって想われて。


それが欲しい。

杖化け物のその気持ちが欲しい。


欲しい。


それは子共が玩具を欲しがるようなもの。

少なくとも杖化け物にはそう見えたそう感じられた。

だから心底呆れた溜息を、ひとつ。


「何を言うておるのだ其は…此方と常しえに生きねばならぬのだぞ?怖れよ震えよ…拒絶しても怒らぬよ…大丈夫」


その玩具はあげられないんだと杖化け物。

翔颯は何でって眉根を寄せた。

それは翔颯かけはやて限定の贈り物なのに、どうして貰えないのか。

そんな意地悪しないでよ。

欲しい欲しい、その想いが。


だって。


だって?


翔颯は「あ」って気付いた。


「あのさ、にーさん」


「…何ぞや」


一瞬にして翔颯の瞳があんまりにも輝いたもんだから、杖化け物はたじろいだ。

おそろしいとかそういうんじゃない。

こんな輝き秘めた瞳、未だかつて向けられた事がなかったからだ。

だって此方は杖化け物。

畏怖され続けた。

これからもそれはかわらないだろう。

そう、思って、いた、のに。


ああ、翔颯。

そんな杖化け物のたじろぎなんて気にもせず、胸に灯った想いを口にする。


「俺も、好き、だから、今好きに…ううん、にーさんが好きだ」


口にしたら翔颯、好きという気持ちが一気に全身駆け巡る。

知らなかった。

言われるまで知らなかった。

思いもしなかった。

こんな風に好きな気持ち一杯でなりふり構わなくなってしまうなんて。

杖化け物が好き。

好き。

だめ好き。

言葉で表現なんて当然出来ない翔颯。

ぎゅって上着を握り締め、金の双眸見つめ続けた。


「っ、…言葉の良し悪しも分からぬとは、ここで得る物は少ないと見た。早速転校の手続きをしてやろう」


杖化け物がみるみる狼狽しはぐらかそうとしてくるから、翔颯は急いで抗議した。

勝手に言いたい放題で言いくるめられたら、たまったもんじゃない。


「なんでだよっ!にーさん俺が好きなんだろ?好きって。好きになるって理屈じゃねぇじゃんっ」


「其の方らの理に此方を混ぜるな」


「なんで!なんで俺の気持ち信じてくれねぇんだよっ!じゃあにーさんの言ってることも俺信じない!俺のことなんか好きじゃないんだ!」


「戯言を、抜かすな。此方は今直ぐ攫いたいと思うておる。此方はそれを我慢している」


「じゃあ攫えよ!そしたら信じる!」


「底抜けに阿保ときたか。其よ賢く生きよ」


「ちげーもん!好きなだけだもん!」


「フっ見抜ける嘘は吐かぬ事だ」


「な、なんで、そんな、嘘じゃ、ねぇもん、ひでぇよぉ」


「虚言で生涯は守れぬぞ」


聞き分けのない子供を諭すような言い方に、翔颯は自分の中で何かが壊れるのを感じた。

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